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67.ロイヤルガーデンとリリムのお礼

「ええと、ここが公園? ロイヤルガーデンって書いてあるけど」


貴族街の目と鼻の先にある大きな木製の門に書かれた看板の名前を読み上げて、僕は隣にいるリリムさんのほうを見ると、リリムさんは小さくうなずく。


公園とは思えない装飾に、気品あふれる舗装された道と門はさながら本物の貴族の邸宅かと見間違ってしまいそうになるほどであり、こんな夜更けにも関わらず開きっぱなしになっている門だけが、この場所が公園であることを教えてくれている。


また、このロイヤルガーデンは中央広場から王城へ続く大通りの突き当りに存在しているため、ロイヤルガーデンを無視して左に進めば貴族街で、右に進めば王城に行くことができる。

入り口前にある公園についての説明文に目を通してみると、

王城、貴族街、中央広場を結ぶ点に位置する公園であるため、貴族から貧民まで幅広く楽しめるように設計がなされているらしく、ロバート王の願いを象徴するための広場であるらしい。


なるほど、すべての人種すべての民族が集まる場所……その願いを込めた庭だからロイヤルガーデン……随分と大それた名前だと思ったが、そういう意図があるなら納得である。



「中身は本当に公園で、こっちの道が子供用の広場、こっちの道が貴族様のお散歩コース。 子供たちの遊びを見守りながらお父様お母さま方はこちらでのんびり優雅な一日を過ごせるって設計だねどっちから行こうか?」


リリムさんは嬉しそうに尻尾を振りながら選択肢を僕にゆだねてくる。


「せっかくのデートですから……こっちに行きましょうか」


広場でリリムさんと二人で遊ぶのもいいが、それでは少しデートには似つかわしくない。


別にデートに対してポリシーがあるわけではないが、いかに僕だとてこちらの道のほうがデートにふさわしいということ位は分かる。


「はーい」


リリムさんは無邪気な笑顔のまま、僕が選んだ道へと先に進んでいく。


『ロイヤルガーデン・ヒノモト』

と書かれた看板をくぐり、僕たちはサクラの花が咲き誇る道を二人で並んで歩く。


春は中ごろということもあり、満開の桜……というわけにはいかなかったが、まだまだサクラは見ごろであり、満月に照らされながら桃色の花びらが僕たちに降り注ぐ。


「うわ~、ここは東の国をイメージしてあるんだねぇ」


感心するようにリリムさんはサクラの花の中を駆け回る。


リリムさんの言う通り、あたりを見回してみるとトウローと呼ばれる東の国特有の街灯があたりには設置されており、池に落ちないようにはりめぐらされた柵も木製ですべて朱色に塗られている。


「どの木もすごい大きいです……。 樹齢何年ぐらいでしょうか?」


「六十年は超えてるんじゃないかな……」

頭上を見上げながら長年咲いては散りを繰り返すサクラに対して感心したような表情をするリリムさんは、月夜にてらされた上に桜吹雪というおまけもあって本当にきれいに映る。


そんな姿を隣で見ている僕は、初めてリリムさんに会った時よりも心臓を高鳴らせ、緊張で息をのむ。


「どうしたのウイル君、ぼーっとして」


「あ、そのいや、なんでもないですよ? 次に行きましょうか!」


あまり素直に褒めてもいけないといわれたばかりなので、僕はその言葉を飲み込み、リリムさんを連れて先に進む。


ずっと眺めていてもきっと飽きないだろうが、それだけではデートの意味がなくなってしまう。


そういって僕たちはロイヤルガーデンのヒノモトと書かれた広場を抜ける……と。


「なるほど、ここが各エリアの中継地点になってるってことか」


ヒノモトを抜けるとそこには子供用の広場が広がっており、親が子供の成長を見守る用のベンチまで用意されている。


「結構歩いたねー、あれ見える? あそこ光ってるのエンキドゥの酒場だよ」


そういってリリムさんの指さす方向を見ると、そこにはぽつぽつと光る街灯の中でひときわ大きな光を放つ建物が見える。 


「あ、そうなんですか。 ちょっと寄り道のつもりが、随分離れちゃいましたね」


「そうだね、楽しかったから全然そんな気しなかった。あ、それであっちが言うまでもなくクレイドル寺院」


「相変わらずの自己顕示欲に胸がいっぱいです」


「ふふ、まぁそう言いながらも助けちゃうんだもんね、ウイル君は」


「知ってたんですか?」

「うん、酒場の人から聞いたの。 ウイル君がクレイドル寺院が襲撃されたときたった一人だけ助けに向かっていったって……馬鹿な奴だとかウイル君の事その人馬鹿にしたから、ろくに買い取ってあげなかったよ」


珍しくお客さんの愚痴を言うリリムさんに、僕は少し新鮮味を覚えながら、僕のために怒ってくれたリリムさんに僕ははにかむ。


「ありがとうございます。 身ぐるみはがされたりしたのに、なんだかどうしても放っておけなくて」


「そこがウイル君の凄いところなの。 みんなそれが分からないんだもん」


「あはは……そんなことないですよ、リリムさんは気づいてくれましたし、ティズも、サリアもシオンも、しっかりと理解してくれているから仲間になってくれたんです」


「……うん。 本当素敵な仲間だよね、みんな……私としては少し、悔しいけど」


「え? 何か言いました?」


「な、なんでもない!」


リリムさんは慌てるようにベンチに座ったまま姿勢を正し、耳と尻尾をぴんと立てて顔を赤くする。


今日のリリムさんは店のカウンターに座っているときと違ってころころと表情が変わる。


仕事の時間じゃないというのもあるのだろうが、本当のリリムさんを知れたようで僕はとても嬉しい。


彼女との距離が、一歩近づいた……そんな気分になれるのだ。


それだけでも、今日の寄り道はとても有意義なものであることは確かだ。


そんなことを考えながら、僕はベンチから見える公園の風景を楽しむふりをしつつリリムさんを見つめていると。


「あのね、ウイル君……今まで機会がなくて言えなかったんだけど、私、ウイル君にお礼を言わなきゃいけないの」


「お礼? ですか? 何かしましたっけ、僕」


リリムさんにしてもらったことは数あれど、僕がリリムさんにしてあげたことなんてあっただろうか?


「うん、私の夢を、ウイル君は叶えてくれた、くじけそうな私を、闇の中から救い出してくれたの」


……そ、そんな大層なことした覚えはないのだが。


「ご、ごめんなさいリリムさん、その、身に覚えが……」


「わかってる。 だって私を救ってくれた言葉は、ウイル君にとっては当たり前のことで、意識なんてしていないから。 でも、それでもその言葉は確かに私を導いてくれて、獣人族史上初の鍛冶師になるっていう夢も、その言葉のおかげでかなえることができたの……これは私が勝手に感謝してるだけだから、思い出さなくていいし、意識もしないで……ただ、我がままだけどありがとうってだけは伝えたいの……ウイル君……本当にありがとう……そして、ごめんなさい」


御礼を言われた上に謝られてしまった……。


「あの、本当に身に覚えがないんですが……」


「うん。 大丈夫、私が胸につかえてただけだから……ウイル君は今のまま、素敵なウイル君でいて、きっともっとたくさんの人をウイル君は幸せにするから」


「……そうですか。 じゃあどういたしまして、と言っておきますね」


「うん。 あーすっきりした」


リリムさんはそういうと一つ伸びをして、立ち上がり。


「帰ろうか、ウイル君……」


デートの終了を告げる。


「そうですね、あんまり遅いとみんなも心配するでしょうし……」


「うん。 ごめんね、私のわがままにつき合わせちゃって」


「いえいえ、僕もすごい楽しかったです……その、また来ましょう」


「いいの?」


「ええ」


「えへへ……じゃあ、次を楽しみにしてるね、ウイル君」


「はい……、じゃあ今度こそ本当に、クリハバタイ商店まで送りますね」


「よろしくお願いします♪」


リリムさんはご機嫌そうに尻尾を振りながら、僕の隣に並ぶ。


「楽しかったね」


「はい」


本当の恋人みたいな会話をしながら夜のロイヤルガーデンを今度は広場の方を通って帰ることにする。


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