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65.リリムとデート

一瞬で消えるさまはやはりマスタークラスのシノビということか、僕は一人取り残された冒険者の道でしばらくカルラの姿を見まわして探すも、結局見つかりそうもないので一つ嘆息をして、当初の目的であったクリハバタイ商店へと向かおうと決心をすると。


「あ! ウイル君」


入れ代わり立ち代わりとはこのことであり、目の前にリリムさんが現れた。


「あ、リリムさん……あれ? そっちで誰かとすれ違いませんでした?」


「えー? んーん? 誰とも会わなかったよ」


ふむ、どうやら近くに家があるというのは本当らしい、この一本道でリリムさんとすれ違わなかったということは、きっと僕が呆けている間に自宅に入っていったのだろう。


「そうですか」


「ふむふむ、匂いが二つ分あるけど」


「ええ、ついさっきまで女の子とあってまして」


「えっ……あ、逢引き」


「そ、そんなんじゃないですよ! 前に助けてあげた女の子と偶然鉢合わせてお礼と少しお話をしていたんです」


「ふーん。 ウイル君ところ構わず人助けしちゃうからいっつも女の影がちらついてて油断ならないなーもう」


「もー、からかわないでくださいよリリムさん」


「むぅ……まぁいいや。 女の子のお礼が偶然なら、こんな夜の道を歩く理由があったと思うんだけど? どうしたの?」


「ええ、サリアがネックレスをクリハバタイ商店に忘れたというので、いま彼女手が離せない状態なので散歩がてら僕が取りに向かっている所です」


「あ、やっぱりね。 じゃあ丁度いいや、私の用事の半分もそれだから。 はいこれ」


そういうとリリムさんは胸元からネックレスを取り出し、僕に渡してくれる。


破魔のネックレス。 魔法耐性を高める効果のあるネックレスであり、そのデザインはサリアのもので間違いがなかった。


「わっ、ご、ごめんなさいリリムさん!? わざわざ持ってきて貰っちゃって」


「いいのいいの、私も気づけなくって申し訳なかったし。 それに、もう一つ用事があったから丁度良かった」


「もう一つ?」


サリアはまだ何か忘れ物をしていたのだろうか?


そんなことを考えていると。


「はいこれ、依頼されていた、白銀真珠の小手、修理完了だよ」


そういってリリムさんは白銀真珠の小手を今度はバックの中から取り出して僕に手渡してくれる。


その小手は、僕が渡した時とは異なり鈍い白色ではなく、今では本物の真珠のように美しく月夜を反射している。


まるでそのあり方は芸術品であり、見ているだけでもほれぼれとしてしまうような一品だ。


「え、えと。 もう修理終わったんですか?」


たしか白銀真珠の小手は時間がかかるといっていたような気がするが……。


リリムさん、無茶はしないって約束をしたのに。


「あ、勘違いしないでウイル君。約束はちゃんと守って、無茶はしてないよ! 私もはじめ古さから少し時間がかかると思ったんだけどね、その小手、古くはなっていたけど毎日丁寧に手入れがされていたみたいで、特に補強とかも必要なくて……ほとんど手を付けなくても直っちゃっただけなの。 無理とかは本当にしてないから」


リリムさんはそういって僕に白銀真珠の小手を渡してくる。


無茶はしていないといったが、クリハバタイ商店の営業中はサリアとともにいたのだから、それが終わって今までは直しを行っていたということだ……本当に頭が下がる。


「ありがとうございますリリムさん。 大切に使わせてもらいます……本当に無茶はしないでくださいね」


「うん! 大丈夫大丈夫! じゃあ、渡すものも渡せたし、私はこれで」


「送っていきますよリリムさん。 僕じゃ頼りないかもしれないけど、やっぱり夜道を女の子一人は危ないですから」


「そんなぁ、いいよ、今日は月も出ているし」


「いやいや、僕も実はサリアの模様替えが終わるまで暇なんです、帰りがてらに話し相手になってください」


「……もう、本当にウイル君って女の子を誘うのが上手だよね、そういわれたら断れないじゃない」


リリムさんはそう苦笑を漏らしながらも、尻尾を元気良く振って、踵を返して元来た道を引き返す。


その歩く速度が少しゆっくりになっているのは言うまでもなく、僕はリリムさんに続くように、クリハバタイ商店への道を歩き出すのであった。


「そういえばリリムさんたちはみんなクリハバタイ商店で寝泊まりをしているんですか?」


クリハバタイ商店に向かうリリムさんに僕はそんな素朴な疑問をぶつけると、リリムさんは少し考えるようなそぶりを見せた後。


「人それぞれかなぁ、ミルクとかは店長が用意してくれた部屋で寝泊まりしてるけど、私は近くに工房付きの家を借りてるの。 鍛冶師としての仕事も基本自宅でやってるよ」


「へぇ。 しかし店員の家まで提供するなんて、トチノキさんも太っ腹ですよね」


「うん、店長は私たちの事家族だっていつも言ってくれるの、村を飛び出して独りぼっちだった私の夢を応援もしてくれたし……本当に感謝してもし足りないくらい」


リリムさんはそう懐かしそうに語りながら、夜の道を歩く。


月は満月。


月の光と夜の闇は、栗色のリリムさんの毛をひときわ美しく映し出す。

月下美人という言葉があるが、今のリリムさんはまさにそれだ。


おそらく、サリアもシオンも月の下にいるからといってここまで美しくは映らないだろう。


大きな満月がよく彼女に似合うのは、彼女が人狼だからなのか、それともリリムさんが特別なのかはわからないが、僕は現在完全に彼女に心を奪われてしまっていることだけは確かであった。


「えと、なぁにウイル君」


「あっ、えと!? ご、ごめんなさい、ついつい。 その、リリムさんが……きれいでつい」


「えっ!ええぇ!?」


リリムさんは僕の言葉に顔を赤くして驚き、僕もつられて赤面する。


「あっ、えと」


「その……あ、ありがとう」

リリムさんはとりあえずお礼を言い、落ち着くために一つ咳ばらいをする。


「こ、こほん。 う、ウイル君素直なのはいいんだけど……あんまり女の子にかわいいとかきれいって言いすぎると、その……か、勘違いしちゃう子も出てくるからほどほどにね」


「えと、か、勘違いというと」


「そ、そのえーとつまり……あーうー……」


リリムさんは言葉を詰まらせながら僕と地面を何度も見比べながら。


慌てるようなそぶりを見せ。


「と、とりあえず気を付けてね! 傷つけることになるかもしれないんだから!」


強引に話を締めくくった。


「はっはい!」


とりあえずなんでなのかはわからなかったが、リリムさんの言う通りかわいいとかきれいとかいう言葉は控えてほかのほめる場所を探そう。 確かに誰だって何かをしたときに容姿ばかり褒められてもうれしくない時もあるだろう……安易に便利だからと言って頼るのは良くない……きっとリリムさんはそう伝えたかったのだろうと解釈を勝手にして、僕は再びリリムさんとの夜の散歩を再開する。


「思えば、リリムさんとこうして歩くのって初めてですね」


「そうだね。 私は仕事、ウイル君は冒険で一緒になることはほとんどなかったからね」


「そういえば、いつからこんなに仲良くなったんでしたっけ僕たち……少し前までは本当にただのお客さんと店員さんの関係だったのに」


「それは……」


リリムさんは何かを言おうとして僕の腰に差してあるホークウインドを見た後、僕の顔を見てまた頬を赤く染める。

「? どうかしました?」


「え? いや何もないよ。 本当に不思議だねー」


「僕、リリムさんに出会えてよかったです。 いろいろ面倒を見てくれるし、こんな僕にも優しくしてくれる」


「ウイル君……」


僕の言葉にリリムさんは何か後押しをされたかのように一つつぶやき。


「これから少し、二人で寄り道しない?」


そんなことをつぶやいて、月夜に映えるウインクをした。



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