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63.調子に乗ったティズと迷宮の地図

「大変申し訳ございませんでしたー!」


エンキドゥの酒場に到着すると、そこには人だかりが出来ており、クリハバタイ商店店長トチノキが、その中心で土下座をしていた。


「おや、あれはトチノキ……何をしているのでしょうか?」


「土下座してるー 悪いことでもしたのかな」


「いや……あれは……」


嫌な予感がして、僕は人の波を掻き分けてトチノキ店長が土下座をしている先の様子を見てみると。


「おーーっほっほっほ! 褒めなさいあがめなさい称えなさい! そういう褒め言葉は嬉しいからもーっと言いなさい!」


案の定そこには酒樽を幾段にも積み上げた頂上にまるで王女の如くふんぞり返って極限まで調子に乗っているティズがいた。


何をしているんだあの子は……。


「ははーーっ! お願いしますティズ様! この迷宮の地図、ぜひともうちに置かせてくださいませー!」


「アンタと私の仲だからねえぇ!この迷宮の地図はクリハバタイ商店に置かせてあげるわぁ! でも、分かってるわよねえ!」


「ははーーーーっ! マスター! ティズ様のためにこの店の酒全部持ってこーい!」


「あっはっはっはー! 今日は飲むわよーーー! ウイルに内緒で飲むわよー!」


「それだけ騒いでいてよく内緒に出来ると思ったねティズ」


「うおっ!ウイル、何でここに!」


「サリアちゃんの荷物が台所ふさいでいて料理が作れないからだよー」


「えっ!? そうだったんですか、申し訳ありませんマスター!?」


「事情が事情だから仕方ないよサリア、まぁそれは置いといて、その調子だと地図は大丈夫だったみたいだね?」


「勿論よ当然よ誰が作ったと思ってるのよ! 賭けには大勝ち、酒は奢らせた上に来週からでも売り出せるって話よ! 安定収入ゲットよゲット!」


ティズはとても楽しそうに笑いながらそんなことを言う。


「おおぉ! ウイルにサリア!」


さっきまで公衆の面前で土下座をしてたとは思えないほど朗らかな顔でトチノキさんがカウンターから戻ってくる。


その両手には酒のボトルが何本も握られており、本当にティズに酒を奢る気のようだ。


「えと、すみませんティズが調子に乗って」


「いやいやいや、謝るなら俺のほうだ……鼻明かしてやろうと迷宮に入ってみたらこれがもう歩きやすいのなんのって、罠の場所から何から何まで完璧な地図だった……普通迷宮一階層の階段に行くのだって半日は掛かるのに、同じ時間で全部の場所回れちまったんだからな! これはもう迷宮攻略の大革命さ! これで迷宮攻略難易度が下がれば地下深くに挑戦する人間も増えてくる! クリハバタイ商店にとってこれ以上嬉しい入荷品はねえ! ティズ様の申し出どおり、六対四で取引させていただきますぜ! これから先の地図もこの調子でお願いするぜウイル! サリア」


どうやら賭けに負けて仕方なくというよりは、いい品物を入荷できた喜びでこんな行動をしているようで、さっきの土下座も悪ふざけだったらしい。


まぁ、ティズが土下座させていたなんて話だったら少しばかり引いていた所だが、二人ともとても楽しそうだから良しとしよう。


もう少し審査に時間がかかるかとも思ったが、トチノキがいいというのだからそれでいいのだろうし、思ったよりもとんとん拍子でティズの苦労は報われたようだ。


「丁度いい! 今日は俺のおごりだ、実直な仕事にはふさわしい報酬を! お前ら全員マスター男のフルコースだ!」


「いえーーいもう専属契約よーーー! トチノキイー!」


「いいの! わーいやったー!」


ノリがだんだん危険な方向へ進んでしまっているようだが大丈夫だろうか。


「そ、その? 本当にいいんですか?」


「あったりめえよ! リリムが鍛冶師になれたのも、リリムの剣が売れてるのもなんでもお前のおかげみたいじゃないかウイル!」


「えっ?」


ティズのほうを見ると、舌をちょろっと出して親指を立てている。


あいつトチノキさんに僕が伝説の騎士なんて呼ばれていることしゃべったな!?


これからは単独での外出は禁止だなティズは……。


「お前らには世話になりっぱなしだ! これからもよろしくな、というわけで奢らせてくれ!」


「そういうことであれば、お言葉に甘えさせていただきます」


そこまで言われて断るのも逆に失礼であると感じたため、僕はお言葉に甘えさせていただくことにし、席に着く。


酒場のみんなの視線は少し痛かったが、耳を傾けているとぼそぼそと購入を検討するような声が聞こえてきたりするあたり、もしかしたらあの土下座もこの大盤振る舞いも宣伝の一つなのかもしれないと思えてきた。


流石はクリハバタイ商店、侮り難し。


「おい……」


「あぁ」


「ん……あれは」


ふと人だかりの奥に、見たことのある顔を発見する。


あれは……以前僕達を襲ったローグ……の一味。


「どうかしましたか? マスター」


「え? あぁ、ううん!なんでもない……なんでもないけど」


横目で見やると、そこには既に彼等の姿はなくなっていたため、僕は胸をなでおろす。


「なにやら警戒をしていたようですが、敵襲ですか?」


流石はサリアだ、僕の表情からあらかたの予想は付いたのだろう。


「……大丈夫だよサリア、もういなくなったみたいだ……だけど念のため 帰りは注意を払ってもらいたいんだけど」


「お安い御用です……しかし、狙われる心当たりでも?」



「いや、心当たりはないけど、以前襲われたローグがいたから」


「追いはぎ(ローグ)……マスターを襲うなど……その身の程を知らせねばなりませんね」


サリアはそういうと店の中だというのに柄に手を掛け、両断の剣の白銀の刃を光らせる。


「ちょちょっ!? サリア落ち着いて! 襲われたらでいいから、ここで騒ぎ起こすのは拙いから!」


「そ、そうですよね……申し訳ありません、取り乱しました」


「ううん、ありがとうサリア」


正気に戻ったサリアに礼をいい、僕は二人で宴会の席に着き、騒ぐティズとけんかをするトチノキさんの二人の姿にシオンとサリアと共に笑いながら、今日一日は終了をするのであった。


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