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54.サリアに魔剣を

「なんだぁなんだぁ?」

「いいから、とりあえずこっちきてこれを見てください店長」

しばらくすると、何も説明もうけないままつれてこられたのか、困惑した表情のトチノキ店長がリリムさんによって連れてこられる。

「一体全体なんだって……あん? 何だお前達、雁首揃えて」


「実は、トチノキさんたちに是非見てもらいたいものがあって」

「伝説の素材でも売りに来たって顔しやがって、コボルトの毛皮だったらゆるさねえぞ、俺は今新しい作業服をだなぁ」


「そんなことよりもすごいものですよ! これ見てください!」

 不機嫌そうなトチノキ店長に対し、リリムさんは僕達の地図を広げてトチノキ店長へと見せ付ける。

「これは?」

「迷宮一階の地図よ、それも完璧な」

「迷宮の? そんな馬鹿な、お前さんら、測量器具なんて迷宮に持ち込んだのか?」

「それは企業秘密ってやつよ」

「むぅ……」

トチノキ店長はそううなると、もう一度地図へと視線を戻す。

「罠の位置まで……確かに、こりゃ売り出せば儲かりそうだが」

「なによ」

「本当にちゃんとした地図なのか?」

「疑うって言うの!?」

「まぁー、そうだよねー」

「適当な地図こしらえて持ってきた奴は幾らでもいるからなぁ、確かにクオリティは高いが、問題は本当にあってるかどうかって奴だ……そもそもお前さんがこんな正確なもん作れるとは到底思えんからな」

「あんですってー!? 確かに装飾はサリアにしてもらったけど、私が全部マッピングしたのよ!」

「だとすると余計……」

「むっきー! この頑固爺!」

「ティズ、落ち着いて。確かにもっともな意見ですけど、どうすれば信じてもらえます?」

「そうさなぁ、この眼で見て確かめりゃ信じてやるよ……あぁ、偽物だったときは覚悟して置けよ?」

「上等よ! だったらぎゃふんといわせてやるから付いてきなさい! 納得するまで見終わった後、アンタはお酒を私に振舞いながら、店に置かせてくださいティズ様って言うことになるんだから!」

「そこまで言うんならやってやろうじゃねえか、おいリリム! こいつの鼻明かしてやるから店番よろしくな!」

「いやー店長、その賭け勝率低いと思うんですけど」

「じゃあ、行ってくらぁ」

「まあ聞かないですよね、行ってらっしゃい店長」

「あ、迷宮行くのなら僕も付いていきましょうか? 一応護衛に」

「余計なお世話だ小僧! 爺だからって馬鹿にするない!」

「あ、はい。 お気をつけて」


そうこうあって、風のようにトチノキ店長はティズと一緒に消えていく。

迷宮までの道中も口げんかをしながらも歩いて行く姿は、まるで古くからの友人のようで、ティズもトチノキ店長もどこか楽しそうに僕には見えた。

 勝手にどっかに行ってしまわれるのは少し困るが、まぁ、ティズは別段家具とかは買っていないため、昼の荷物受け取りのときにいなくても問題はないのだろうが……。

「大丈夫かなぁ」


「大丈夫だとおもうよウイル君、あれでも店長腕っ節だけは強いから」

「それでもティズは騒がしいから……」

「昨日も大変だったもんねー、迷宮一階層の魔物相手に走馬灯見たの私初めてー!」


 まぁその分結構な量の一階層の魔物を殲滅したわけで、魔物の量も減って今が一番安全といえば安全なのかもしれない。


「また無茶ばっかりしてるみたいだね、ウイル君。 約束したのに」

「うっ……いやでも、ちゃんと万全は期しているんですよ、ただ不測の自体が起こったりとか、ティズが魔物呼び寄せたり、サリアに投げ飛ばされたりで色んなものに巻き込まれちゃうだけで……」

「もぅ……気をつけてね……」

 リリムさんは少しふくれっつらをして、僕にそう語り、僕はそれにごめんなさいと素直に謝る。

 

 こうやって心配してくれる人に囲まれて、僕は本当に幸せ者だ。

「うん、分かればよろしい! じゃあこの話はお終いで、地図は店長に任せちゃうけど、他に何かある?」


「あ、そうだ。 この前一階層の魔物と戦ったときに、その……ミスリル鎖帷子が壊れちゃって……あと、この小手も、修理してもらえますか?」


 僕はそういってルーシーの小手とルーシーによって切り刻まれたミスリルの鎖帷子をカウンターの上に置く。


「一階層でミスリルの鎖帷子が? うわっ本当だ……マスタークラスのアンデッドファイターでも出てきたの? こんなすっぱりとミスリルを切れる人なんて……」

「ええまぁ、そんな感じです」

「不測の事態に巻き込まれやすいって言うのは本当みたいだね……それでこっちは……随分と年季が入ってるねぇ、それにこれ……白銀真珠の小手!?」


リリムさんはそう鑑定をすると、驚きのあまりにその場で垂直に小さく跳ねる。

「えぇ、一階層の隠し場所で、魔物が隠し持っていました」

「九階層で出てくるような小手なのに……本当に幸運なんだか不幸なんだかわからないね」

「えぇ……僕もほとほと困って……直せそうですか?」

おそるおそる僕はリリムさんに尋ねてみると、リリムさんは笑顔で。

「もっちろん!」

 そう答えてくれた。


「ありがとうございます!」

 

 リリムさんの返答に僕は笑顔で礼を言い、リリムさんも笑顔のままミスリルの鎖帷子と白銀真珠の小手を受け取ってくれる。


「どれくらいかかりそうですか?」

「うーん、鎖帷子は魔法で直せるからすぐだけど、こっちの白銀真珠は結構掛かるから、そうだね、明日の夕方まで時間をくれれば」

「十分早いですよ……無理はしないでくださいね」

「えっ……」

「あ、する気だったんだー」

図星だったらしく、リリムさんは顔が赤くなる。

「お互い様……てことですね」

「ははは、ごめんなさい、無理はしないから。 ウイル君に偉そうなこと言って自分が体調崩しちゃったらダメだもんね。 うん、じゃあ修理が終わったら届けにいくね」

「ええ、それでお願いします。クリハバタイ商店にリリムさんがいなくなったら、みんな悲しみます。 勿論僕も」

「えへへ、嬉しいなぁそう言って貰えて」

 笑顔がまぶしく、振り回されている尻尾がとてもかわいい。


「リリム……少し頼みを聞いてもらってもいいですか?」

 と、そんな会話をしているとよい剣でも見つかったのか、サリアがこちらに戻ってきた。

「はいサリアさん、何かお眼鏡にかなう剣はありましたか? といっても……ちょっと自信はないですけど」

 そういうと、リリムは視線を落としてサリアの腰の剣を見る。

「そんなにすごい剣なの?」

「一応これは七階層で手に入れた名刀で、両断の剣といいますが、マスターのホークウインドに比べればたいした剣ではありません」

 そうなの? 確かにスロウリーオールスターズの剣を受け止めても刃こぼれ一つしてないけど。

 全然意識してつかってなかった……。

「そ、そんなこと」

「いえ、貴方は間違いなく最高峰の名工だ……あそこに並んでいる剣も、どれをとっても素晴らしい」

「あ、ありがとうございます」

 マスタークラスのサリアからのべた褒めである……。

「それと、もう一つ素晴らしいのは、ホークウインドに刻まれたルーン魔術だ」

「えっ……」


 そうサリアがホークウインドにかけられた魔法の話をすると、リリムさんは急に顔を真っ赤にし……カウンターから身を乗り出す。


「わーお」


カウンターを叩く大きな音が響き渡り、慌てていた所為か、リリムさんの犬歯が伸び、口から少しはみ出している。


「よ……読んだの!?」


「ええ……」


「あ、あっわっわわわわ」

リリムさんは耳まで真っ赤になって、頬を押さえながら僕とサリアを何度も見比べる。

「はっはーん」

 何故だかシオンが全てを理解したような表情をして僕のわき腹を小突いてくる。

(やりますなぁ、ウイル君)

なんて言葉を小声で添えてきたが、まったく分からない。

「……え、えと。 か、彼には」

「大丈夫ですよ……」

 微笑みと同時に発せられる短い言葉、その言葉にリリムさんは何故だか安堵したような表情をし、胸をなでおろす。

 

 揺れてる。

「以前の職業は?」

「司教です、レベル7でした」

「なるほど……となれば、あれだけの魔剣を作り上げられたことにも納得だ。 私の知る限り、貴方ほどの鍛冶師は見たことがありません……リリム。 是非私に貴方の魔剣を一振り打って頂きたい」

「私の……魔剣を?」

「ええ、マスター……そういう理由で装備を購入したいのですが、よろしいでしょうか」

「え……あ、うん。 サリアの装備も確かに古いもんね、むしろ剣だけでいいの?」

「防具のほうはこれで十分ですよ」

「そう……リリムさん、色々と申し訳ないんですけど、お願いしてもいいですか?」

「え? うん! 勿論、ウイル君の頼みなら!」

「ありがとうございます! リリムさん!」

 そういうとリリムさんは身を乗り出してそう快諾をしてくれる。

 いきなり押しかけてオーダーメイドの剣を作ってほしいなんて、気を悪くするかとも心配になったが、リリムさんの人の良さに感謝である。

「ありがとうリリム……」

「マスタークラスの冒険者、聖騎士サリアさんが使っているなんて話になったら、上級冒険者のお客さんも増えそうだしね、私にもメリットは十分あるから、気にしないで。 ただ、剣を作るにはまとまった時間が必要なの、ここの仕事もあるから、先にウイル君の鎖帷子と小手を直してから、剣作りはその後になっちゃうけど良いかな?」


「構いません、急ぎではないので……その代わり、よい剣を期待します」

「任せて、最高の魔剣を作ってあげる……と、その前に」


 そういうとリリムさんは一度咳払いをする。


「何か?」

「そのー、ちょっとウイル君には悪いんだけど」

「僕?」

「うん、少しサリアさんを貸してもらえないかな?」

「サリアを?」

「私をですか?」

二人同時にそう質問をし、リリムさんは申し訳なさそうに頷く。

「魔剣を作るときは、その人にあったエンチャントをしないと上手くいかないどころかその人の持ち味を消しちゃうことなるの。だから、サリアさんのことを良く知らないと、最高の魔剣は作り出せないの」

 なるほど、とサリアは頷く。

 どうやらサリア自身には問題はないようだ。


「うん、サリアが問題ないなら僕は構わないよ」


ならば僕はサリアを止める理由はなく、リリムさんの申し出に僕も快くオーケーを出す

「ありがとうございます、マスター」

「お礼なんていらないよ。 元々サリアは剣を作りにクリハバタイ商店に来たんだから。 荷物の受け取りも僕達のほうで何とかするから」


「本当ですか? 」

「うん、ただ、部屋の模様替えは帰ってきてからってなっちゃうけどそれでもいい?」

「構いません。 そんな遅くまではかからないのでしょう? リリム」

「うん、場合によっては日をまたいじゃうかもだけど、夕方には終わるよ」

「そうですか……ではマスター、お言葉に甘えさせていただきます」

サリアは感謝するようにもう一度僕に深々とお辞儀をするが、なんだかこそばゆい。

このパーティーで一番活躍していて危険から僕達を守ってくれているのだ、これぐらいするのは当たり前だと僕はおもうのだが……。

「ねーねーウイル君、もう用事は済んだ?」


 話の切れめと読んだのだろう、急にシオンが僕の袖を引いてそんなことを聞いてくる。


 どうやら飽きたようだ。

 僕はそんな仲間達に苦笑を漏らしながらも、特に他にやることもないのでシオンの頼みを聞くことにする。


「じゃあ、僕達は町に戻りますので……リリムさん、お願いします」

「まっかせてー!」

「ではマスターまたのちほど」


手を振るサリアとリリムさんと別れ、僕はシオンに引きずられるようにクリハバタイ商店を後にした。


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