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プロローグ2.良き友人アルフ

「しっかしそれにしてもお前さんら、どうしてヴェリウス高原なんかを歩いてたんだ?」


馬車に揺られながら、アルフと酒盛りを開始すること早くも一時間ほどが経過し、はじめは旅のともに酒をふるまい、名酒の味に舌鼓を打っていたのだが。 酒も回りはじめたころにアルフはそんなことを聞いてきた。


「あぁ、それはー」


「団長が近道をしようと言い出しまして」


「近道?」


「一週間後に、この先のアリシアの町で公演の依頼を受けていてな。そんで拠点の西の国から大移動をしていたんだが、4日前にな、情けねぇ話なんだが馬車が壊れちまって」


「はぁ、此度の旅は随分とついていないんだなぁ、お前さんら」


「まぁな。 ただ不幸中にも神はいるってもんで、立ち往生している所に俺たちと同じような旅芸人が通ってな……そいつらに馬車を直してもらったんだ」


「ほう?」


「だが馬車は直ったけど失った時間までは直せなくてな。 助けを借りて馬車を直してもらったはいいが、時間が足りなさそうだったから……危険なのは知っていたが、ヴェリウス高原を通ることにしたんだよ。 正直何とかなるって思ってたけど、そんな甘くはなかった、本当にアルフには感謝している、それに無茶のおかげで何とか間に合いそうだし……」


「待て待て、ここを抜けてもアリシアの町は近くならんぞ?」


「えっ?」


俺の言葉を遮るように、アルフは慌ててそう教えてくれる。


リルガルムに住んでいる人間の言葉だ、俺の言葉とどちらが信ぴょう性が高いかは言うまでもなく、全員が顔面を青くする。 モックスなんて青くなりすぎてサファイアみたいになっちまってる。


「ここを通り抜けて近くなるのは王都リルガルムであって、アリシアの町はむしろ遠回りだ」


「あれ?」

「団長……」


ココアの冷たい視線が俺へと走る。


「うっ……あれ? おかしいな。 確かにヴェリウス高原から抜けたほうが近道だって地図見て確認したと思うんだけど」


「酒の飲みすぎだよーフランク」


「うるせーモックス! 地図の読めないお前だけには言われたくない!」


「はっはっは、本当愉快な奴らだなお前さんらは、まぁしかし安心しろ、一週間あるなら間に合うよ。 俺が近道を知ってる、こんな危なっかしい場所じゃなくて安心かつ街道よりもよっぽど快適なのをな。 後で地図を描いて渡してやるから、心配すんな」


そうアルフは笑い、はちみつ酒を口に含んであごひげをさする。


「あるふ~!?」


俺はアルフに抱き着き、感謝の言葉を述べる、やはり不幸の中にも神様ってのはいるもんだ!


「何から何まですみません。 団長はその、こういう人なので」


ココアの言い方に棘があるが俺は無視して柔らかい清潔感あふれるあごひげに埋もれる。 やばいすごい気持ちがいい。


「気にするない。 俺が好きでやってることだし、なによりもこんなに美味い酒をふるまってもらったんだからな!」


そもそもが命を助けてもらったお礼だというのに、なんて懐の広いドワーフなんだ。


俺もモックスもココアも、すっかりこのアルフという面倒見のよいドワーフに心を許してしまっている。


なんだろう、兄貴っていうのがいたらきっとこんな感じなんだろうな……。


「ところでアルフー……アルフはどうしてーヴェリウス高原にいたのー?」


そうやって髭の中で兄貴という存在を感じていると、ふとモックスがそんなことをアルフに質問をした。


「少し人探しをしていてな……あぁ、そうだ……世界中を回ってるお前さんらなら知ってるかもしれんな……」


「何をだ?」


「少しこいつを見てもらいたい」


そういうとアルフは懐の中から一枚の写真を取り出し俺たちに見せる。


そこに移っている女性は黒髪の小さな少女のものだ……まだ都市は十二から十四くらいだろうか? あどけなさが残るかわいらしい顔に、幸が薄そうな色白な肌が印象に残る。


「彼女は?」


「最近巷を騒がせている死霊騎士、アンデッドハントに連れ去られた女の子だ……この少女を見たことがあるって情報のほうが手っ取り早いが、なんでもいい、死霊騎士の噂だろうが目撃証言だろうが、何か知らないか?」



死霊騎士……アンデッドハント。夜な夜などこかの町に現れて子供をさらっていく夜更かしをする子供を嚇すための童話の化け物だが……実在したことも初めて知った。


「あー……すまない、この少女について期待に応えることはできなさそうだ」


「そうか……」

「さらわれたこの少女を助け出すのが、アルフの仕事なのですか?」


そうココアがアルフへと質問をすると、アルフは一瞬目を伏せ。


「いや……俺は……」


とだけつぶやく。


「アルフ?」


「あぁ、すまん。 別に助け出すなんてレベル5の冒険者のすることじゃねぇよ、おっかねえ。 情報提供だけすればいいってクライアントには言われている……しかしまいったなぁ、三日もかけて無駄足じゃ……」


「そういえばー、女の子のことじゃないけど旅芸人さんたちが言ってたよ~、死霊騎士はリルガルムの迷宮アンドリューの手下だって」


「お前、本当そういうどうでもいいことの記憶力はすごいよな……九九できないのに」


「何? 本当か? 旅芸人がそれを言ったのか?」


一瞬、アルフが目を見開いてモックスを見る。

「え、うん」


「その旅芸人……どこに向かうとか、言っていなかったか?」


「えーとどこだろう……」


「確か、彼らの次の目的地はリルガルムであったと記憶しています」


「……リルガルムか、特徴はなにかわからないか?」


「特徴……確かエルフだったような」


「え? 全員ハーフリングですよ団長」


「みんなーしっかりしてよー。 俺と同じストーンオーガだったよ全員」


『それはない』


「なんだなんだぁ? 世話になっておいて顔も覚えてないのかお前さんら?」


「アルフと同じで、その日の晩は彼らにも酒をふるまったんだ……そんときに俺もココアもモックスも飲みすぎちまって……朝起きたらその旅芸人たちはいなくなっててな……記憶も一緒に彼方に飛ばしちまったってわけよ」


「団員全員か?」


「もれなく一人もです」


「あきれた奴らだなぁ、世界に名をはせるダンデライオン一座が……」


「パフォーマンスに酒癖の悪さは関係ないからな。 それに、ココアは飲むとかわいくなるし、モックスは柔らかくなるからいいんだよ」


「どういう理由だそれ……まぁ、飲んで人に迷惑かける奴がいないって意味は伝わったが」


「団長……一番強い酒をとってください、ボトルごと飲み干しますから」


「なんだ? 宴会芸にしては随分と命張ってるな? やめとけ、死体片付けるのが面倒だ」


「団長のためなんです」


「なんでだ!? あーこら奪おうったってそうはいかねえぞココア! お前はやるときはやる、そういう覚悟をもって生きている女だ! 死体の処理なんて俺は絶対にごめんだね」


「このココアに一度やると思わせたときにはすでに、その行動が達成されることは確定しているのです団長! おとなしく 速やかに、その ボトル を渡してください! ほめ言葉でも金貨でも高級霜降り肉でもありません、そのボトルをです!」


「なんだか言い回しがくどいよ二人ともー」


「奇妙な奴らだな」


「いつもだよー」


「まぁなんにせよ、仲の良いことはいいことだ。 仲間というものは何物にも代えがたい」


「あれ? そういえばアルフは冒険者だったよな? 一人なのか?」


「いたたたたいたいです団長! あっでもちょっと気持ちいいか……そんなことないやっぱいたたたた!?」


ココアに固め技をかけてボトルを奪い、俺はアルフにふと仲間のことを聞く。

冒険者は常に六人で行動をする。 レベル五であれば仲間は結構いそうなものだが。


「あぁ……昔はかけがえのない仲間がいたよ……だけどな、失っちまった」


空気が凍る。 


完全に聞いてはいけない地雷を踏み抜いてしまったようだ。


「あ、えとその……すまない」


「いやいいんだよフランク……もう昔の話だ……ただもし俺を友人だと思ってくれて、この話に耳を傾けてくれるなら、覚えておいてほしい、今の仲間を大切にすることと、今回みたいな行き過ぎた冒険は控えてほしいってとことだ。 身に余る行動は己の身を亡ぼす……いつも俺がお前らを助けるとは限らないんだからな」


アルフの仲間に一体何があったのか、俺には知ることがなかったが、不幸なことがあったのだけは馬鹿の俺でもモックスでさえも悟ったのだろう。


傲慢や慢心、行き過ぎた冒険は身を亡ぼす、今日そのことを身をもって知った俺たちだったが、アルフは一つだけ間違えているのも事実だ。


「確かに、行き過ぎた冒険は身を亡ぼすかもしれない。 けどさアルフ。冒険をしたから、俺たちは今日あんたっていう素晴らしい友人に出会えたんだ」


「……フランク」


アルフは目を丸くしてこちらを見て、すぐに苦笑を漏らす。

何か懐かしむような、そしてどこか今にも泣きだしそうなそんな笑顔だった。


「こりゃ一本取られたな……はっはっは、じゃあ訂正しよう。 行き過ぎた冒険は、できるだけ控えてくれ」


「あぁ、ご忠告痛み入るよ、アルフ」


そういうと、アルフは嬉しそうに蒸留酒をコップに注ぎ、俺たちに向かってグラスを伸ばしてくる。


「良き友人に」


先ほどから何度も行われている乾杯の合図。


俺もモックスも、もちろんココアも、その申し出を断ることはなく、快く甲高いグラスを合わせる音を響かせた。



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