表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/459

1.僕はまだレベル1冒険者

 剣を振るい、魔法が煌く黄金と白銀の時代。栄華と繁栄を極めたとある王国に突如として迷宮が現れた。


 街を飲み込み、多くの人間の命を奪って現れたその迷宮は、アンドリューという魔術師によって作り上げられ、その地より魔術師はその国の王に対して、宣戦を布告した。


 『いずれ、我が魔物の軍勢がこの地下より這い出でてこの国を襲うであろう』


 挑発にも似たこの行動に王は激怒をし、すぐさま騎士団により討伐隊が編成されたが、帰ってきたものは誰一人としていなかった。

 

 困り果てた王は、やがて外部のものに討伐を依頼することになる。


 魔術師により迷宮に飲み込まれた街一つ分の財産、そして討伐隊が所持していた

その全ての至高の装備、そしてアンドリューの首にも莫大な報奨金をかけて。


 迷宮が出来て12年が過ぎた。 未だに、迷宮はそこにあり続け、今日も冒険者達は迷宮へもぐる。




                    ◇

迷宮・第一階層 


「はぁ、はぁ、はぁ、ティズ! こっちだこっち!」

「分かってるわよウイル! 私の心配なんてしてないでしっかり前見て走りなさいほら!」

 

息を切らしながら、僕は迷宮の中をひた走る。 それは栄光ある敵への攻撃でも、狡猾なる敵の追跡でもない。 無様な敵からの逃走のためだ。


「がああああっ!るるるがああ!」


「ひいいいい!?」

 

自分でもあきれ返るような悲鳴を漏らし、背後の獣人に追いつかれまいと更に足に力をこめる。


追いかけてきているのは迷宮第一階層の敵、コボルト。狼の体と顔を持った二足歩行の獣人である。その手には刃と盾を持ち、体にはボロボロの鎧を身に纏っている。


狼と人間の中間の存在のためか、武器の扱いはつたなく身体能力も低い……知能も獣並みのため、冒険者に襲い掛かるコボルトは大抵返り討ちにあうのが常識なのだが……。


それは、相手が23匹もいないときの話である。


『があるるるるああああ!』

『ぐああああがあああ!』


23匹分のコボルトの鳴き声が迷宮に木霊し、僕はめちゃくちゃに迷宮を走り続ける。


「ウイル! 少しずつ戦って数減らしなさいよ!」


そう無茶な提案を要求する金色の髪を二つにまとめた妖精の少女ティズは、普段ならばその背に生えた美しい透き通った羽を披露するように、緑色のワンピースを揺らしながらひらひらと蝶のように僕の周りを浮遊するのだが、今日ばかりは獲物に狙われたセミのようにせわしなく羽をばたつかせて僕と一緒に無様に逃げ惑っている。

 

「ちょっといくらなんでも多すぎでしょあれ!? 足なんて止めたら一瞬でミンチだよミンチ!」


「だったら、逃げ切る方法考えなさいよ! このままじゃ追いつかれてあいつらの夕食のテーブルに鎮座することになるわよ私達!」


「そんなこと言われなくても分かってるって! ていうか、君が鑑定もしてない宝箱を勝手に開けたからこうなったんだろ!?」


「しょうがないじゃない!? こんな一階層に~モンスターハウス~のトラップなんて仕掛ける馬鹿いるとは思えなかったんだもの! どうせ石弓か毒針だったら私になんて当たるわけないし! それだったらあけるでしょう普通!」

 

『ぐるううああああああああああ!』


【ぎゃああああああああ!】


コボルトたちは走ることがやはり不慣れなのか、狼でありながら僕達に追いついてくる気配はない。その為距離を離すことは出来るのだが。


「壁だ……」


「うそっ……ここの壁の向こうに階段があるはずなのに!」


「こっちにいこうティズ!」

 

彼らの狼特有のその優れた嗅覚は、どこに逃げようとも確実に僕達を追い詰めてくる。


「本当しつこい犬達ね! 私やウイルなんて美味しい訳ないじゃない」

 

「仕方ないよ、コボルトは自分より強い相手には決して近づかないけど、僕みたいなレベル1冒険者には死ぬまで追跡して虐殺を楽しむんだ!」


「最低!」

 

その為、僕達に残された選択肢は一つしかない。 それは、地上への脱出だ。


アンドリューの進軍に備えて、国王が作り上げた対魔結界。その力のおかげで魔物はダンジョンの外に出てくることは出来ない。


もし出ようものなら結界の力で灰に変えられてしまうからだ。

  

だからこそ僕達が生き残るためには、追いつかれる前に迷宮の入り口まで逃げることが絶対条件になるのだが。


「また壁……あああもう壁壁壁壁どこも壁……この壁を壊せる力があれば」


「寝言言ってないでまた迂回するわよウイル!」


ティズにつれられながら、僕達は座標だけを頼りにコボルトから逃げながら出口を目指す。


 

「ねえ、ティズ!」


息も切れ始め、力をこめても速度が出なくなり始めた頃になって、僕はようやくティズにこの質問を投げかける。


「何よ」

 

「僕たち、もしかして入り口から離れて行ってない?」


瞬間、目の前を飛んでいたティズから何か壊れるような音が響き渡り。


「ま、ままま、迷ってるわけなんかないでしょ! 第一こんな所で迷子になったりなんてしたら……それこそ」


顔色が青くなり、言葉も次第に弱くなっていく。


どうやら現実と向き合うのが恐ろしすぎて、闇雲に逃げ回っていただけらしい。


また一歩、コボルトさん家のおかずの一品へと近づいた。


最初は距離を離していたコボルトも既にすぐ後ろまで追い詰めて来ており、少しでも気を抜けば伸ばされた手に捕獲され一瞬で殺されてしまう。


心臓も肺も限界であると泣き言を上げ始めており、戦う体力など残ってはいない。


「ああもうだめだあああああ!」


泣きたくなるのをぎりぎりで抑えつつ僕はそう叫ぶと。


      【カチリ】

聞きなれた音と、発動の合図。 足の裏から伝わるスイッチのようなものを踏んだ感触。

「あ、アンタまさ……」


泣きっ面に蜂という言葉そのままに、ティズの言葉が終わるよりも早く、

迷宮の罠が作動する。


「うそおおおお!?」

地面から鉄と鉄をこすり合わせるような音が響き渡り、僕は串刺し床のトラップのことを間抜けにも思い出しながら。

殆ど反射と直感のみで慌てて前方に飛び込み、僕とティズは足元から伸びる槍をすんでのところで回避をして、迷宮の床に投げ出される。


「ぎゃひいいん!?」


轟音が響き、槍が伸びきった所で金属がこすれる音が止まる。

鋭い音は何かを貫いたような音を響かせたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。


「に、にげなきゃ!」

唯一平均以上の自らの幸運に感謝をしつつ、僕はそのまま逃走を再開しようとする。

槍程度じゃ足止めにもならないかもしれないが、僕は慌ててコボルト達が槍の壁に苦戦していることを祈りながら立ち上がると。


「……あ。あれ?」



そこには、僕の引っかかったトラップにかかり命を落としたコボルト23匹が並んでいた。


いや、違う。


「ぐ……ぐがあああ!」


生き残りがいた。


身を刺し貫かれながらも一匹のコボルトがよろよろと僕に襲い掛かる。死に体だが、死なばもろともといった所なのだろうか?


「ウイル!」


ティズが僕に注意を呼びかけるが、そのときには既に僕は迎撃体制を万全に整えていた。


「大丈夫!これなら!」


袈裟に振り下ろした刃が、コボルトの肩から全身を切り払う。


「が……ぁ」


こうして最後のコボルトが死んだ。 目前にはコボルトの死体が並んでいる。


「……感じてたよりも随分と、距離をつめられていたみたいね……」

「そ、そうだね……というかこの罠がなかったら多分……」

「……ほ、本当に幸運だけは高いんだから」


声とひざを震わせながら、僕とティズは絶命したコボルトたちを見ながら大きくため息をつき、この罠がなかった場合の未来を想像した恐怖と助かった安堵からかその場にフラフラとその場にへたり込む。


「と、とりあえず」


「何はともあれ」


【たすかったぁあ~】


こんな、ぎりぎりな生活を送る僕はまだ、レベル1冒険者……。


名称 ウイル 年齢 15 職業 きこり(仮) LV1


筋力  10      

生命力  8

敏捷   8

信仰心  5

知識   9

運   17


保有スキル なし


                   ◇


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ