44. メイズイーターLV3
というわけでやってきたのは迷宮一階層の何もない部屋。
ただ広いだけで敵も罠も宝もないため、安心して新たな力を使用することができる。
最初にメイズイーターを手に入れたときもお世話になった。
「レベル3にもなったから、そろそろとんでもない力が手に入っているでしょ!」
ティズはとても期待した様子で瞳を輝かせており、同様にシオンとサリアもティズほどではないが期待と羨望が入り混じった視線を僕に向けている。
これでしょぼいスキルだったらどうするつもりなのだろうか……そもそも、スキルイーターのように迷宮に直接関係のないようなスキルだったらどうするつもりなのか……。
僕はそう思いながらも、壁に手を当てる。
そういえば、もしレベル3の力もわからないのに、メイズイーターを発動しても、レベル1の力しか出ないのだろうか?
誰も所有しておらず、文献を探しても出てこないようなスキルだ……トライアンドエラーで覚えていくしかないのだろうが……かといってこれの検証に時間をかけている暇もない。
そもそも能力が変化とかするのかな……もし変化がなくって壊れる速度や治る速度が少し上がるだけだと、検証のしようがないけど……って、ああもう、うだうだ悩むのは僕の悪い癖だ……とりあえずやるだけやってみよう。
そう僕は決心をして、スキルを起動する。
「メイズイーター!」
言葉と同時にメイズイーターが発動するいつもの感覚が全身を巡り、僕はメイズイーターの成功を悟る。
「あれ? いつもと変わらない?」
当然のように、目の前の壁は消えており、迷宮喰らいは成功した……。
いつものようにブロックが消え、レベル1のときとまったく同じように隣の通路と何もない部屋が開通する。
唯一違うというところがあるとすればそれは、今まで崩れていた瓦礫すらも綺麗さっぱりなくなったという点だ。
「……えーと……これは壊れた壁から瓦礫が出てこなくなったってこと?」
レベル3にもなって、瓦礫が消えるだけとは……いや、明確な違いなんだけど。
どうにもしっくりこないし、何よりもしょぼいため僕はため息を漏らしてしまう。
メイズイーター自身すごいスキルなのだが、ここまで進化がしょぼいと悲しくなってしまう。
「め、迷宮を壊したときに歩きやすいじゃない! 敵から逃げてるときとかも、足をとられる可能性もなくなったし! すごい進化じゃない!」
ティズの優しさがいたい。
「壁が崩れるんじゃなくて消せるようになったなら、好きな形に壁を壊したりできないの?」
そういうと、シオンは提案するようにそう僕に教えてくれ、僕は言われたとおり隣の壁に今度はある形を思い描いてメイズイーターを発動してみる。
「メイズイーター!」
思い描いたとおりに、壁の真ん中だけがぽっかりと大穴を空ける。
「おぉ、流石ですねシオン」
「えへへーそれほどでもー……でもなんか、地味だね」
ぐさりとシオンの素直な感想が僕の心に突き刺さる。
地味……確かに、瓦礫がなくなった分あるきやすくなるし、好きな形に消すことができるのは敵から逃げるときとかにも便利かも知れないけど……逃走といいなんか後ろ向きな能力しか備わっていない気がする。
「それにしても、これだけの質量どこに消えてるってのよ」
「それは私にも分からない。 マスターのスキルに収容されているということなのか、それとも消失してしまっているのか」
「直せるの?」
「えーと。 リメイク!」
元通り瓦礫が修復するのではなく、一瞬で壁が再生される。
どうやらレベル1の能力が強化されただけのようだ。
「どうやら本当にこれで終わりって感じね」
「ううぅ……僕、冒険者向いてないのかなぁ」
「大丈夫だよウイル君、スキルって言うのは、自分の望みに呼応して手に入るものなんだから、きっとこの能力も、ウイル君が望むような形で君の願いに答えてくれるよ、スキルは嘘をつかないんだから」
……それはつまり、僕は潜在的に何かから逃げたいと願っているということなのだろうか……。 もう少し勇敢だと自分では思っていたが、更に落ち込んでしまう。
「ま、落ち込んでいてもしょうがないですよマスター。 スキルイーターの力によってこれからスキルはいくらでも手に入るのです。 そこでどんどん強くなっていけばいいのですから。そのためにも、早く下層に降りられるようになりましょう! ね?」
僕を励ますようにサリアはそう元気付けてくれる。
確かに、メイズイーターはそもそも迷宮を喰らうスキルであって、戦闘系のスキルでもなんでもない。
こんなところで落ち込んで立ち止まっているほうが時間の無駄という奴だ。
僕はそう自分に言い聞かせて立ち上がる。
「リメイク!」
迷宮の壁を直してから、僕は暗闇の道を目指すことにする。 これ以上検証を続けても特に実りは無いと判断し、それがパーティー内全員の見解と一致したからだ。
「ん?」
いつもどおり直したはずの迷宮の壁だが、おかしいな、なんか心なしか円状に消失させた壁がへこんでいるような……。
「ウイルくーん!はやくはやくー!」
「あ、ごめんごめん、今行くよ」
まぁ、へこんでいた所でそれが何かの役に立つわけでもないし、僕は気にせずにシオンたちのあとを追いかける。
今は一日でも早く強くなる……それだけだ。
「ちゃちゃっと終わらせて二階に急ごう」
「分かってるじゃない! ちゃちゃっと終わらせて先に進むわよー!」
「おーー!」
苦笑を漏らしながら僕はノリノリのティズとシオンの後についていく。
そんなこんなであっという間にメイズイーターレベル3の検証は終了し、僕達は第一階層最後の空間、暗闇の道へと足を踏み入れるのであった。




