41. メイズイーターLV3と繁殖力
「ステータス!」
短くティズは僕にステータスの魔法をかけて、羊皮紙にそれを映し出す。
「本当! レベル4にあがってるわよウイル!」
先程までうなったり怒ったりしていたのが嘘のように、ティズは歓喜の声を上げて僕の周りを飛び回る。
お酒臭い。
「わー! おめでとうウイル君!」
「七階層のマリオネッターに、オークにオーガを倒していたのだ……アンデッドの分は経験値が手に入らないとはいえ、レベル3でレベルアップしないほうがおかしい」
「どんな感じ~? 見せて見せてー」
どんどんステータスが晒されて少し恥ずかしい気もするが、僕もみんなに混じって羊皮紙に書かれたステータスを改めて確認する。
名前 ウイル 年齢15 種族 人間 職業 FIGHTER LV 4
筋力 13 状態 正常
生命力 10
敏捷 11 魔法 なし
信仰心 4 装備 麻の服。
知力 12 武器 なし
運 19
保有スキル メイズイーター lv3 /繁殖力/逃走/消滅
「メイズイーターがレベル3にあがってる!?」
そしてスキルがいきなり三つも増えた!? 嬉しい!
「相変わらず何がどう変わったか良く分からないわね……本当に不親切よね、このステータスってやつは、これじゃメイズイーターの何がどう変わったかなんて知りようがないじゃない」
「まぁ、メイズイーター自体が謎なスキルだし、仕方はないさ……」
「っていうか運が19もあるってどういうことかな……人間のステータスの限界って18まででしょ……ウイル君って人間やめてるの?」
「僕が聞きたいよ」
「シオン、その言い方は間違っている。 マスターは人間程度の器では測れない……それだけ規格外な方ということなんだ」
「そうなんだ! かーっこいー!」
目を輝かせてサリアの洗脳にシオンが簡単に乗ってしまっている。
やっぱりサリアの奴、ウイル教団を作るつもりなのか!?
「ちょっとウイル……」
そんなやり取りをしていると、ティズは一人震えながらステータスを見つめ。
「ど、どうしたのてぃ……」
瞬間今まで馬鹿にしていたが、ティズの鋭く針のような膝から放たれるとてつもなく強力な百八のとび膝蹴りのうちの一つが僕の顔面にクリーンヒットをする。
「マスターーー!?」
「ちょちょっ、ティズチンいきなり何してるの!? ウイル君吹きとんじゃったよ!」
「ふー、ふー! この変態! 変態! ド変態!」
とび膝蹴りに加えて更には罵倒の嵐。なんだかもういきなり心が折れそうであるが、そんな罵倒されとび膝蹴りを食らういわれはない。
「何するんだよティ……ズ?」
怒りと共に起き上がり、ティズに抗議の言葉を投げかけようとした僕であったが、僕の前に飛んできたティズはボロボロと大粒の涙を流して泣いていた。
どういうことなの?
「あんた……アンタって奴は……私がいない間に! 女遊びばっかりしてたってことね!
信じてたのに! アンタは唯の朴念仁なだけで気付いていないだけかと思ってたけど!私が信じているのをいいことにあちこちで女作って遊んでたってことかああ! そんなに胸がすきか! すきなのか言ってみろぉ!?」
半狂乱で叫び倒すティズを、妖精だというのにマスタークラスのサリアとシオンが二人掛で押さえ込んでいる。 怒りが限界突破してしまっていてもはやどうにも手に付けられていないのだろうが……。
なんでそんなに怒っているのかは皆目見当が付かない。
「ちょっと待ってよティズ!? どういうこと?」
「白々しい! とぼけるんならこのスキルは何よ変態!」
そういいながら羊皮紙にかかれたスキル欄を指で指ししめす、そこに書かれていたのは新しく増えたスキルだ。
えーと、えーと消滅に、逃走に……繁殖……力?
何だこれは……。
「おや……これはまた随分大層なスキルが」
「あ……あー……あーそっかーそうなんだー」
シオンもサリアも千差万別な反応を示すが……。
はっきりいって何のスキルなのかは分からない。
「えと、これってどういうスキルなの」
恐る恐る聞いてみても、シオンもサリアも目をそらし、ティズにいたってはもはや猛犬モードで話が通じそうにはない。
しかたない。
「サリア、お願いだ教えて」
なにか間違っている気もするが、このスキルが何か分からなければティズが激昂状態に陥っている原因も分からないため、サリアに対して初めて主人権限を使うことにする。
「……う、はいマスター……分かりました……繁殖力というのはそのですね、男性ならばとても有意義なスキルといいますか……なんといいますか」
「……? 良く分からないよ」
歯切れが悪く、そしてスキルの説明が一切なされていない。
「あう、そのですね。 ですから、繁殖力というのはその、文字通り……エルフ、神以外の多種族の生物とも……子をなせるようになるスキルでして、オークが良く所持しているスキルです……それでもって、人間がそのスキルを取得する条件というのが」
ちらりとサリアはシオンのほうを顔を赤くしながら見やると、シオンは慌てて首をぶんぶんと左右に振るう。
多分説明を代わってくれという依頼に対し、シオンが全力で拒否をしたのだろう。
観念したようにサリアは暴れるティズをシオンに預け、そっと僕へと耳打ちをし。
「――――……」
「!!?!開けwjtんふぃん@qりえtqk34!?」
なななななななななな!? なんだってーーーーー!?
頭が一瞬にして暴発する。 サリアの言葉があまりにも強力すぎて現在進行形でオーバーヒート火力発電機状態……あれがそれしてそれをしたから繁殖力って……おかしい、僕はまだキスだってまだなのにそんな恐ろしいスキルが手に入るなんて!?
なんでそんなスキルが僕の元に舞い降りてきているのか!?
というかティズだってそれは怒るわ!? そんなスキル身内の年端も行かない僕みたいな男の子がそんなスキル持ち帰ってきたらそれは怒るよ、その怒りに納得せざるをえない。
得ないけど身に覚えがなさ過ぎるし、そもそもなんでこんなスキルを手に入れたのか自分でも分からない。 スキルは取得条件を満たさないと手に入らないのが主流の説であるが、その説を覆さない限りは逆転ティズ裁判で無罪判決を勝ち取ることは出来なさそうだ。
「どうりで女の子みるといつも鼻の下伸ばしてるわけよ! 私のことは私のことは一度も女として扱ってくれたことなんてないくせに!?」
あぁどうしよう、これは言い逃れできない状況だよ……積み重ねたスキルは嘘をつかない。
誰かが努力は報われるって意味で使った言葉だけど完全に現在でも適応対象だよこれ。
自白よりも明白な証拠品だよこのスキル!? 何をどう弁明しようとも、弁論家アリストンに哲学者スプラトーン二人そろって連れてきても覆せそうにない事案だよこれ。
「今日という今日は! 絶対に許さないんだから!」
「待つんだティズ」
またもや放たれそうになったとび膝蹴りに対し、僕をかばうようにサリアがその一撃を受け止めてティズを静止させる。
「サリア!」
「大丈夫です……ティズ、マスターに繁殖力のスキルが付いたことには驚きましたが、貴方も知ってのとおりマスターがそんなスキルを手に入れるほどの経験をしているとは到底思えない。 そもそもあれは実績が必要なスキルで通常ならマスターの年齢ではどう計算しても取得は不可能だ!」
「不可能だろうがなんだろうが! ばっちりくっきりぱっちりしゃっきりスキル発現させてるんだから言い逃れもくそもないでしょうが!」
「ちゃんとスキルを見てくれティズ!」
「ちゃんとって……ん?」
「マスターのスキルには、もう一つ体得できないはずのスキルがある」
「……しょうめつ……」
これは聞いたことがある。 アンデットや悪魔、もしくはメルトウエイブのような大魔法に付属される追加スキル。 消滅……文字通り魂ごと敵を消滅させる追加効果であるが、魔法を使わずに人間の魂を消し去る力を有さない人間は、魂に干渉することは出来ず消滅のスキルを覚えることは不可能とされているが、繁殖力に埋もれて気付かなかったがそんな大層なスキルが僕のスキル欄にちゃっかり軒を連ねている。
「これ……どういうこと?」
ようやく冷静さを取り戻したのか、ティズは疲れたのかフラフラと机の上に座り、サリアに推測の答えを促す。
た、助かった……さすがサリア。
「メイズイーターの力が関係していると思います」
「なんで? メイズイーターって迷宮を壊す能力なんじゃないの?」
「レベル1の段階では……ですよ。 思い出してください、マスターがメイズイーターを手に入れてから戦った魔物を」
「え? コボルトにアンデットに……オーク……ああぁ!?」
ティズは何か分かったように大声を上げ。
「あー、そうなんだ! すっごーーい!」
今度はシオンが驚いたような反応をするが……どうしよう、僕だけが分からない!?
「マスター、あくまで推測ですが繁殖力も逃走も消滅も、今までマスターが戦った魔物が有していたスキルです。 つまりマスターは自身が倒した魔物のスキルを我が物とすることができる……そう考えれば通常取得が不可能と考えられるスキルを保有しているのは納得できる話です」
「魔物のスキルを……自分のものに」
それってつまり倒せば倒すほどスキルが増えていって、更には普通の人では覚えられないスキルも簡単に覚えられるってことか!!
通常スキルって言うのは1年や2年修行してやっと一つ覚えるものなのに……。
「でもなんでメイズイーターのスキルでそんなことができるようになるのよ」
確かに、迷宮を壊すことができるからメイズイーターって名前のはずなのに、魔物のスキルまで奪うなんて。
「食べることと壊すことは異なります。恐らく、マスターのメイズイーターとは……迷宮にあるもの全てを糧とする能力……迷宮という名の石のなかの物を全て喰らい、自らの力へとする能力なのです」
「完全に反則レベルね」
「仕方ありません、マスターはそれだけ偉大なお方ということです」
またもやサリアの特に根拠のない僕への評価が一段階が上がってしまったらしく、僕は窮地を脱したはいいが、更なる期待を抱かれることになってしまった。
先はまだまだ長いが、あまり期待されても困るのであるが、とりあえずはティズの誤解が解けたことを喜ぼうとおもう。
「……とは言ったものの、一階だってこともあってたいしたスキルないよね」
ぐさりと僕の胸にシオンの言葉が突き刺さる。
「意外と逃走は使えるスキルだ、このスキルは全体に効果を及ぼし、逃げるときにほぼ確実に敵から逃げることができるようになる、無駄な戦闘を排しながらブレイクの能力で一直線まで階段へと向かうことができる……まさに迷宮冒険者には夢のようなスキルだ」
なんか、サリアの言っていることは正しいが……嬉しくない。
「どうせならもうちょっとみんなを守れるようなスキルを覚えたいんだけど」
ため息混じりにそう僕は呟くが、そんな僕の肩をシオンが叩いて慰めてくれる。
「これからこれからー、そんなに急いだっていいことないよぉ? 装備も整ったんだし!今日は私の歓迎会もあるんだからー。楽しく行こうよー!」
いつのまに取ってきたのか、フレンチトーストをおいしそうに食べながら、シオンは僕の隣の席に座ってそう笑いかけてくれる。
どうしても今朝の件があったせいか胸に目が行ってしまう。
「そうですよマスター。 否が応でもこれから強力なスキルを持つ魔物と戦うことになるんです……今はできることをやる、そうでしょう?」
「……そうだね、ありがとうサリア」
「いえ……それで、改めてですが今日は何をしますか? 二つもレベルの上がったメイズイーターの検証もそうですが……レベル4となったならば二階層まで足を運んでみるのもいいかも知れないですよ?」
サリアは嬉しそうにそう語る……どちらかというと僕よりも僕の成長を喜んでくれているようで少し恥ずかしい。
「そうだね……じゃあ今日から二階層に……」
「すとーーーっぷ!」
向かおうと決定をしようとした矢先に、いつもどおりの甲高いキーキー声がその決定を妨害する。
当然のことながら声の主はティズであり、胸を張りながら皆の視線を独り占めする。
「どうしたのーティズチン」
「あんた達忘れてない? 迷宮の地図作りはまだ終わってないのよ」
「そういえば、ティズせっせと地図作ってたものね……どこが終わってないの?」
「暗闇の道よ」
「暗闇の道か」
特殊な魔法により光という光を全て吸収する魔法がかけられた空間、暗闇の道。
視界が悪く道がまったくわからないため、冒険者の間では地図がどれだけ切望されたかは分からない代物である……が。
「暗くて面倒だったから後回しにしていたんだけど、せっかくレベルも上がったことだし! ぱぱっと完成させて次回から二階層に挑戦しましょう! この地図、冒険初心者に売ったら高く売れるわよきっと!」
完全に目がお金になっているティズに苦笑を僕とサリアは漏らし、逆らってもいいことはないと判断し、今日一日を地図の完成に宛てることを決めたのであった。