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妖精語り2

「お母さん?」


ポツリと、再度ウィルが呟くと今度は無言でティターニアはウィルを抱擁する。


「!!? あ、あの、ちょっと!?」


困惑しながらウィルはみじろぐが、ティターニアは力を強めて我が子を抱きしめる。


「あぁ、やっと……やっと抱きしめてあげられた」


大きく息を吐き、ティターニアは目に涙を浮かべながらも、そのつぶやきは幸福に満ち溢れ、髪の毛一本一本を慈しむように優しくウィルの頭を撫でる。


「あ、えと、その。何が何だかわからないんですけど」


唐突な出来事に、ウィルは困惑したようにそう呟くが。


「そうよね……いきなりだもんね。困っちゃうわよね……でも、ごめんねウィル。もう少し、もう少しだけこのままでいさせて」


「……」


懇願するような母の声。


覚えてなどいないが、確かにそれは懐かしく焦がれた母親の声であり、ウィルはその懇願を振り払うことができず、震える母親の背中を優しく撫でる。


「ありがとう…….私に似てない、とてもいい子に育ったね。ありがとう、全部終わったら……ちゃんと説明するから」


嬉しそうな声を溢しながら、ティターニアはそっと瞳を閉じる。


「約束だよ、お母さん」


「ええ、約束するわ。全部終わったら、ね」


「うん、約束……だ、よ」


再度ウィルを強力な眠気が誘い、ウィルは微睡の中へと落ちていく。


力なく眠る我が子を、口元を緩めながらティターニアはウィルを強く、強く抱きしめる。


逃がさないように、離さないように。


もう二度と、世界から我が子が奪われないように。


◾️


──ある神様とクレイドルの旅は偶然なものだった。


世界を救う旅、と言う名目で行われるはずだった選定の旅路は、クレイドルとそれに見出された英雄ロバートのせいで、多大なる遠回りの末に呆れるほどの珍道中となった。


二人旅の予定が、気がつけば主神と英雄が仲間に加わり、あれよあれよと言う間に、剣聖、森の怪物、次元を行き来するイレギュラー……ついでにゴリラという大所帯。


なまじ正義感の強い人間とゴリラが集まったせいか、気がつけば世界を滅ぼすはずのパーティーは人助けなんてものをあちこちで始め。


なまじ化け物じみた強さを持った集団のため、人助けの規模も村単位、街単位、国、大陸とどんどんと高くなっていく。


気がつけば宣言してしまった通り、ティターニアは嘘であったはずの世界を救う旅を実現してしまったのである。


そういう意味では、アンドリューGラビリンスというメイズイーターは、その力を世界を救うために使った初めての人間であり。


その強大な力と英雄たちは、東西に続く戦争を納め、魔物の大群を打ち滅ぼし、世界中の人々を救って回った。


巷では世界の抑止力とか、世界を救う英雄だとか呼ばれもてはやされたが、その現実は立派なものでもなんでもない。


大半がロバートの好奇心とお節介、もしくはクレイドルのやらかしが大事になっていったパターンがほとんどであり、それをみんなで片付けていたら、そう呼ばれるようになってしまっただけのこと。



あるいは、クレイドルはわざとそうしていたのかもしれないが、いずれにせよクレイドルが厄介ごとを持ち込むたびに、メイズマスターを作り上げる使命が遠のいていき、気がつけばアンドリューとティターニアの選定の旅は、今までで最も長い過酷な旅へとなっていった。


その期間はおよそ3年半。


悠久の時に比べれば一瞬だが。


ティターニアの記憶。


真っ白なキャンパスに彩られた3年半ともなれば、それが彼女の人生の全てになってしまうには十分な時間であった。


それこそ。


裏切り者である自分を嫌悪し、世界を滅ぼす選定者としての役割を捨ててしまおうと決意するほど。


彼女にとって、スロウリーオールスターズとして過ごした3年半は楽しかったのだ。


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