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ウィル無双

「間に合った!」


「ウィル!!」


突如登場した迷宮の壁。


それが何を意味するのかはもはや説明するまでもなく、ティズは安堵からか、助けに来てくれたウィルの方へと目を向けるという愚行へと走る。


ティズと黒い影との距離は約3メートルほど。

その程度の距離、動いているならばともかく、動きを止めて余所見をしているならば容易く0にして命を刈り取ることが可能である事はティズも当然理解している。


だが、明確な希望が、小さな妖精を安堵と喜びから迂闊な行動へと走らせた。


明確な隙。


並の冒険者、武芸を齧った事があるものなら、恐らく容易くティズの命を奪うことが出来るであろう。


そんな明確で致命的な隙。




【……ッ!!?】




だと言うのに、黒い影がその隙をつく事はなく、ティズの視線に釣られる様に、何を語るわけでもなく真っ直ぐにウィルを見下ろしていた。



「何でティズが襲われてるのか知らないけど……まさかアルフとイエティがやられるなんて。あれが、サリアが言ってたマンデースレイヤーの核なのか?」


ポツリとつぶやき、こちらを見つめる黒い影をウィルは睨むと。


「ウィルーーーーーーー!!!!」


めちゃくちゃな軌道を描きながら、ティズが上空からウィルへとダイブをかます。


「無事で良かった。怪我はない……って聞くまでもなさそうだね」


「信じてたわーー!!やっぱり脳筋ブラザーズのゴリラと独身ドワーフじゃダメなのよ!! 信じられるのはさいっきょーのわたしのウィルだけなのねーー!!」


鼻水を撒き散らしながら泣きじゃくるティズ。

もはやいつものことなのでウィルは特に何も言及する事はなく、怪我のなさそうな相棒にホッとしつつ、代わりに黒い影について改めて問う。


「それで、何で自分が作り出したはずの魔物の核に君が襲われているのかな?」


「知らないわよ!? ってか私が作り出したって……確かに昔の私は魔物作りをしてたみたいだけど、、あんなドロドロした奴作った記憶なんてないわよ!? それに、誰が好き好んで自分の姿そっくりの怪物を作るってのよ!! オベロンのばかやろーあたりが作ったに決まってるわ!」


「? そうなの?」


狼狽しながら関与を否定するティズにウィルは首を傾げる。


(クレイドルさんと話が違う様な?)


わずかな疑問であったが、その疑問が口から溢れるより早く、黒い影は声を上げる。


【◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!!】



それは怨嗟とも換気とも取れる様な、金切り声であった。


「な、なんだなんだ!?」


急な怪物の変化にウィルは困惑する様にホークウィンドを構えるが、黒い影は何をするでもなく、髪をかきむしる。


【大きくなった!! 大きくなった!!!大きくなった!!!!!! ずるい、ずるいずるいずるいずるい!! 私が、私が一緒にいてあげたかった!! 私と笑い合うはずだった!! なのに、なのになのになのになのに!!! どうしてお前ばっかり、なにもしてないくせに!! なにも、何も苦労も知らないくせに!! お前ばっかりどうして!!!】


「!!? 来る!」


黒い影は荒ぶりながら再び剣を振るう。


と、ウィル達を取り囲む様に魔法陣から再び軟体生物の様な黒い影、マンデースレイヤーが3体這い出す。


「ぎゃああああーー!! またでたーー!!!」


【やれ!!】


短い命令と同時に一斉に襲いかかるマンデースレイヤー。


その速度は通常状態のサリアをも上回り、カルラの一撃すらも耐える最強クラスの怪物。


それが三体、同時にウィルへと襲いかかる。


確かに、ウィルはこの短期間で英雄王を下すほどの実力を手に入れた。


身体能力も剣技もマスターレベルの領域を遥かに超えているだろう。


だが、それはあくまで足を踏み入れたと言うだけだ。


サリアほどのの力も、カルラを超えるスピードも。

イエティほどの腕力も、アルフほどのレベルも高くはないウィルにとって、マンデースレイヤーは正面から戦って勝てる相手ではない事は間違いない。




だからこそ。



「セット」


ウィルは罠で戦うことを選択する。


【!!!?】


マンデースレイヤーによる三位一体の攻撃が届く瞬間、ウィルの姿が消え、マンデースレイヤーの手刀が空を切る。


それがテレポーターによる脱出であると、瞬時にマンデースレイヤー達は理解をするが。


分かったところで最早手遅れだ。


「高圧電線」


【があああああああああ!!!!?】


三体のうち、最もウィルに近く踏み込んだ一体が、回避行動が間に合わず高圧電線の罠にかかる。


わずかに触れるだけで冒険者の魂すら焼き尽くす電流を前に悲鳴を上げてのたうちまわる程度で済んでいると言う点から、マンデースレイヤーは確かに魔物の中でも脅威に値する怪物である。


だが。


「喰らえ」


迷宮を前にはその強靭さは何の意味をもなさない。



【あっ──────────】


作り上げられた迷宮の壁は、のたうち回るマンデースレイヤーを飲み込み、あっけなく消滅をさせる。


「一体目」


涼しい顔でウィルはそう呟き、残ったマンデースレイヤー達へと視線を向ける。


【!!?】


マンデースレイヤーはその瞬間、恐怖というものを理解する。


確かにマンデースレイヤーは強い。


速さも、力も、強靭さも、恐らくは魔物の中でも最高峰と言える存在だ。


だが、それらは一体、【迷宮】そのものに対してどれだけの意味を有するのだろう?


力も,速度も、強靭さも……何もかもを飲み込み、無慈悲に消滅をさせてしまう、圧倒的な理不尽。


今対峙している少年はまさにその権化であり、マンデースレイヤーの中に敗北のイメージが色濃く映し出される。


それこそ、逃走の二文字が脳裏に浮かぶほどに。



「ぼーっとしてるなら、これで終わりだよ」



刹那、少年の声がマンデースレイヤーの背後から響く。


【!!!】


とん、と背中に指先が触れる感触に、マンデースレイヤーは背後を慌てて振り返ろうとするが。


「これなら避けられないだろ?」


【あっ!!あっ!!! うああああ────】


それよりも早く、マンデースレイヤーの内側より迷宮の壁が構築され、一瞬で迷宮の壁に取り込まれていく。


「二体目」


作り上げられた迷宮の壁を撫で、ゆらりと最後の一体に目を向けるウィル。



【ひっ!!! あっ、がああああああ!!!】


逃走は許されない。ならば、戦うしかない。


力の差とは次元が異なる、圧倒的な差に絶望をしながらもマンデースレイヤーはわずかな希望に縋りウィルへと突撃をする。


あるいは捨て身の一撃なら届くかもしれない。


そんな希望を乗せた手刀による決死の一撃。


「悪いけど、真正面からやり合う気はないよ」


だがその希望はあっさりと打ち砕かれる。


カチリ、と言う音が大袈裟に響き、同時にマンデースレイヤーの足が地面へと沈む。


「底なし」


沼の様に体を沈ませるマンデースレイヤー。


ただの足止めトラップでしかない底なし沼からの脱出は、本来であれば時間のかからない僅か3秒程度の足止めでしかない。


だが、魔王に対しそのわずかな時間は致命的すぎる隙になる。


「メイズイーター」


泥沼の底から、迷宮の壁が構築されていき、もがくマンデースレイヤーを飲み込んでいく。


【わ、わ!!? あ──────】


悲鳴を上げる間もなく、最後のマンデースレイヤーは絶望しながら消滅をした。


「これで三体目。悪いけど君たちは、僕とは相性最悪みたいだね」


そう呟くと、ウィルは頭上より見下ろすマンデースレイヤーの核に向かい口元を緩めたのであった。

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