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妖精の戦い

「わ、私?」


ティズの声に、羽の生えた黒い影は首を傾げ、ないはずの口から歯軋りの音を響かせる。


【貴方ばっかり、貴方ばっかり、貴方ばっかり、貴方ばっかり】


呪詛の様に放たれる言葉に、ティズはうずくまるイエティの上で訳もわからず狼狽える。


「っ、取り敢えず回復を!」


怪我をしたイエティ達に、ティズは回復魔法をかけようとするが、その回復の光は傷口から湧き出る様な黒い煙にかき消されるように打ち消される。


「!!?妨害の呪い!? 神様の権能すら弾くなんて……とんでもない化け物じゃない!? 本当に何だってのよあいつは!!」


【羨ましい、妬ましい、本当は、本当は私が】


なぜ、黒い影が過去の自分と同じ形をしているのか。

なぜ、そんな黒い影が私を狙うのか。


何もかもがわからない。


しかし、状況からティズは次になにをするべきかを理解する。


「っ!! 私に用があるなら、ついて来なさい!!」


ティズは光り輝き上空に飛び上がる。


「おいバカティズ! お前一人で逃げ切れる訳……げほっ」


「怪我人はそこで大人しくぶっ倒れてなさい! あとでシンプソンでも連れてきてあげるから! 死ぬんじゃないわよ!!」


なおも戦おうとするアルフにティズは捨て台詞だけを吐いて、黒い影を誘導する。


【逃がさない!!!】


(思った通り!)


ティズの逃走に、黒い影はアルフ達への追撃をやめてティズへと向かう。


(このまま、ロバート達と合流すれば…...いくら怪物でも始祖の目と怪物ルーシーのコンビには勝てないはず。ただ問題は)


【その場所を!! 寄越せ!!】


ナイフの一閃を、ティズはすんでのところで躱す。


「私がそこまで保つかだけど!!?」


【ちょこまかと!!】


「ぎゃーー!!」


悲鳴を上げながらも、無我夢中で空中を飛び回るティズ。


正直、黒い影の放つナイフの一撃はスピードも技巧も、ティズに回避できる様な代物では無い。


しかし、宙を舞う羽毛を掴もうとすると手をすり抜けていく様に、ティズへと放たれた力の籠った一閃が生み出す風圧に飲み込まれティズは不規則な軌道を描き逃げていく。


その繰り返しにより、奇跡的に黒い影の一閃はティズを捉えることなく空を切り続ける。


あるいは、ティズへの執着を無くし、出力を抑えれば黒い影の一撃は簡単にティズを捉えるのかもしれないが。


【うあああああああ!!!逃げるな!! 羽虫が!!】


「無茶言うなってのよ! 根暗影坊主!」


苛立ちと執着がそれの実現を不可能としていた。


【お前だけ!! お前だけ!! ずるい! ずるい!】


「何の話よ!? 訳わかんないこと言って!! 人と話すときには、ちゃんとわかりやすく相手に伝えろってお母さんに教わらなかったのかしら!?」


【それを、お前が言うか!! ティターニア!!】


「いやまったくその通りだけど……少なくともあんたよりはましだっての!!」


ひらひらと宙を舞うティズと黒い影の口論が加速するに連れ、黒い影は更にナイフを握る力を強める。


【鬱陶しい羽虫が!! こうなったら!!】


「!!?」


瞬間、ナイフが光り輝き黒い影は動きを止めて魔法陣を展開する。


【我が権能は獣の母!! 産まれ出て我に従え!!】


「あんた、それ!?」


短い詠唱。


それは紛れもなくティズの記憶の中にある、永遠女王ティターニアが魔物を作り出す時の呪文であり。


同時に魔法陣の中から這い出る様に、人間を軟体動物の様にした黒い塊が二つ召喚される。


【月曜日も、ティターニアも!! 全部全部なくなってしまえばいい!! 止まった時間の中なら、永遠の日曜日の中なら、あの子は救われる!! その為には、お前が邪魔だティターニア!!】


そう叫ぶと、黒いティターニアは召喚した影を差し向ける。


【ティターニア殺すべしッ!! 月曜日殺すべしッ!!】


生み出されたばかりのその影は、命令に従うだけの傀儡。


恨みも、力が籠る理由もなく、影はただ粛々と小さな羽虫を捻り潰すに足る行動のみを遂行する。


つまりは、この攻撃を回避する術をティズは持たないと言うこと。


「あっ、これやば……」


そんな事実にティズは身動き一つ取ることすらできず、そんな間抜けな言葉を漏らす。


諦めに似た呟き。


本来ならばそれが彼女の最後の言葉になるはずだったが。




「メイク!!」



足元から伸びた迷宮の壁が、二つの黒い影を飲み込み、消滅させた。


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