黒幕
「っし! 広場に出たぞイエティ!」
「うほほ、この際早急に広場に出れたことを幸いと考えた方が良さそうですね。 ゴリラ的に考えて」
「なにぶつくさ言ってんだ。 ここでロバートとら合流すんだろ? さっさと合図を上げろ」
「まったく、乱暴な物言いは相変わらずですねアルフレッド。もう少しだけ貴方はスロウリーオールスターズとして、人々の模範としての自覚をですね」
アルフのぶっきらぼうな言葉に、イエティはやれやれと苦言を呈するが。
【ティターニア! ティターニア!!】
【ティターニア!!】
【ティターニア!!!】
お説教は黒い影達の乱入によって中断される。
「ちょっと! なに余裕ぶっこいてんのよイエティ!! 化け物達が来ちゃったじゃない!! ってか、なんかまた増えてるし!? どーすんのよ! こんな化け物と戦いながらじゃ、ロバートへの合図なんて……?!」
「ご安心をティズさん。当然計算通り、ゴリラの計算に狂いはないのです」
狼狽するティズを宥める様にイエティはそう呟くと、指を鳴らす。
瞬間、いつのまに用意したのか影が広場へと足を踏み入れた瞬間に、怪物の足元に魔法陣が展開される。
【!!!】
「その魔法陣の中は私が作り上げた永久凍土の地。絶対零度の結界です。 氷雪の本領は相手を停止させ隔離すること。この牢獄を前には、時間すら寄りつきません。凍らない貴方達でも、周りの空間全部が凍れば流石に身動きが取れないでしょう?」
そんな言葉と共に、影の足元から待機中の空気が凍りつき始め、やがて巨大な柱を形成していく。
『番外階位魔法:アイスオブフィアー』
パチン、とイエティが指を鳴らすと魔法陣内の凍結が加速する。
【が!? が!!】
イエティのいう通り動くこともままならず、黒い影は魔法陣の中で凍りつき。
やがてリルガルムの中心に巨大な柱が出来上がる。
「一網打尽ですね、うほほほ。やはりゴリラのインテリジェンスは世界一……」
自慢げに顎の毛をさすりながらイエティは言うが。
「っ、バカゴリラ!! 油断するな!!」
その一瞬の油断を、影は見逃さなかった。
【ティターニア……】
「うほ?」
サクリと、包丁でりんごを切る様な音が響く。
イエティは音がした背後を振り返ると、そこには自分の背中に深々と刺さるナイフの様なもの。
イエティはその持ち主を見る。
そこには、まるで最初からそこにいたかの様に立つ、背中に羽を生やした女性の姿をした黒い影。
真っ黒なシルエットの様な出立ちだが、かろうじてうっすらと見て取れる特徴に高度な知性を有するイエティも困惑して言葉を失う。
「貴方は」
黒い影で覆われているものの、煌びやかな装飾が施されたナイフ。
それは紛れもなく見覚えのある形であり、ダイアモンドを超える高度を誇るイエティの体を容易に貫いたことが,それが本物であることを告げる。
「イエティ!!」
突然の出来事に誰もが動きを止めた中で、最初に動いたのはアルフであった。
ジャイアントグロウスを発動し、全力で殴りかかるアルフ。
レベル9000を超える一撃、純粋な破壊力を持ってアルフを刺した影を消し去ろうとするが。
【貴方も、私を忌むのね。アルフレッド】
「!! その声……」
小さく、影の呟く言葉にアルフは一瞬動きが鈍り。
【だったら、明日なんて来なければいい】
その隙に、黒い少女の影はアルフの鳩尾へとクリセイオーを突き刺す。
「イエティ!? アルフ!!?」
突然の出来事に、フリーズしていたティズの思考がようやく戻る。
【妬ましい、羨ましい、貴方ばっかり、貴方ばっかり】
アルフから影はナイフを引き抜くと、赤い血を滴らせながらゆっくりとティズへと振り返る。
憎悪を、嫉妬を隠すことなく、黒く染まったその双眸。
その姿にティズは息を呑む。
「わ、私?」
それは、紛れもなく記憶の中に存在する自分の姿。
氷の女王と呼ばれ、裏切り者と呼ばれた。
妖精女王ティターニアの形をしていた。