イレギュラー
「ちょっ!!? 何だってのよコレー!!」
調子を取り戻したキーキー声を街に響かせながら、ティズはイエティの頭にしがみついて騒ぐ。
その理由はもはや語るまでもないだろう。
マンデースレイヤーに襲撃を受け、逃走をしているからである。
【ティターニア!! ティターニアアアアア!】
「おいおい、お前一体あのバケモンに何したんだ? 随分とまぁご執心みてぇだが」
「あんな知り合い居るわけないでしょ!? ついでに言うと、戻った範疇では氷の女王様の記憶にもあんなまっくろくろすけなお友達の記憶はないわよ……って言うかアルフ前々!!」
ティズの叫びに、建物の影から姿を現したもう一つの黒い影。
「二体目!? しまっ!?」
まるで同じ存在をコピーしたかの様に全く同じ形の黒い影は、容赦なくアルフレッドの首めがけて鋭い刃の様な手刀を放つ。
【ティターニアーー!!】
完全にティズとの会話に気を取られていたアルフに、その不意打ちを防ぐ術はなく、アルフは無防備な首を刎ねられかけるが。
「うほおおおお!!」
その黒い影の頭部は巨大な氷の塊が襲い、スイカのように砕け飛び散る。
イエティが魔法で生み出した氷を投擲し、魔物の頭を撃ち抜いたのである。
「イエティ!! すまん助かった!」
「いえいえ、ただわたしはロックアイスを投げただけですよアルフレッド。それに、あの怪物は、この程度では死にません!」
「分かってるっての! 無限頑強状態でぶん殴ってもピンピンしてたからなあいつは!」
イエティの言葉に、アルフは苛立たしげにそう言い、背後から迫るもう一体の怪物の顔面に、レベル900を超えた状態の一撃を放つ。
イエティの氷の投擲に、レベル900状態のアルフの拳。
それこそ双方戦車の砲弾クラスの破壊力を誇る一撃であったが。
【ティターニア!! ティターーーーーニア!!】
そんな二人の攻撃を直撃してもなお、黒い影はアンデッドの様に立ち上がると、脇目も振らずに真っ直ぐとティズへと向かってくる。
「効いてる気配がないな」
「恐らくは本体は別に居るのでしょう。氷結魔法も試しましたが、あれはただの影の様なもの。ティズさんを狙う何者かを倒さないことには、あれは無限に増殖を続けるかと」
「ティターニアのやつは、性格上めちゃくちゃ恨みを買ってたがまさか俺達の一撃すら耐えるほどの怨念だとはな、こいつは相当な恨みだぞ?」
「あぁーー!!?もう!!? どんだけ恨み買ってるのよ昔の私―――!!!!」
絶叫を上げながらティズはイエティの頭の毛をむしる。
「イタタタ!!? 興奮はわかりますがやめてくださいティズさん!! そんな事しても何の解決にもなりません!! ひとまずはロバート達と合流しなくては!! ロバートの始祖の目であれば、この影のカラクリも見破れるはず!」
「んなこた分かってるけど、どこ向かえばいいってのよ!!」
「ロバート達とは王城で落ち合う事になっています! このまま王城まで向かいます!」
「王城で迎え撃つつもりか? だが、騎士団達じゃこれだけのレベルの怪物相手にならんぞ!」
「分かっています! なので、王城前の広場で迎え撃ちます!
広場で爆炎の一つでも上がればロバート達も流石に気づくはずです。 それに、私もあなたも、そこなら被害を気にせず戦えるでしょう?」
「ちげえねえ!! だったら善は急げだ! 近道作るぞ!」
イエティの言葉にアルフは立ち止まると民家の壁に向かって拳を振りかぶる。
「作る? いや、まさかとは思いますけどアルフレッド話聞いてました?? 被害を出さないためにですね」
「大丈夫だ! この時間ここらの家は留守だからよ!!」
「だからそう言う問題じゃ──」
【ジャイアント・ブレイク!!!】
「アホーーー!!!」
イエティの静止も効かず振り抜かれたアルフの拳と生み出された衝撃波が、立ち並ぶ家の壁を破壊して広場まで一本の道を作る。
「だーっはっはっは!! これで広場まで一直線だし、バカでけえ音でロバート達に知らせることもできたぜ!!行くぞイエティ!」
意気揚々と大穴の道をいくアルフに、イエティは困った様にティズの顔を見る。
「あぁーもうあの人は本当に、だから苦手なんですよ。ねえティズさん?」
別人の様なものだと分かってはいるものの、ついついティターニアへ同意を求めてしまうイエティだったが。
「まぁまぁ、やっちゃったもんは仕方ないんだし使うしかないんじゃない? 最悪、修理代は全部ロバートに払わせりゃ良いわ。召集したのはあいつなんだから監督責任よ監督責任」
氷の女王からは想像すらできない発言に、イエティはようやく目の前にいる妖精がティターニアではなく、ティズであると認識をする。
「はぁ、本当にあなたティターニアじゃないんですねティズさん。言動も表情も、何もかもが正反対ですよ」
まるで、わざとそうしているかの様にね。
と言う最後の言葉は飲み込んで、イエティはため息混じりに大穴を潜るのであった。
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