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40.一夜あけて

さわやかな朝の日差しは昨日のどたばたした一日を忘れさせるかのように、穏やかにそれでいて煌々と僕のほほに差し込んだ。 


目をうっすらと開けるとそこにはいつの間にか高く上った太陽があり、起き上がり窓を覗くと道行く人たちの表情は商い準備前の死んだ魚のような目ではなく、笑顔を貼り付けたような表情に変化しており、僕は時が今日は早く流れたのだなと詩的な感想を心の中で綴る。


まぁただ寝坊をしたというわけなのだが。


いつもよりもフラフラとする頭を二三度振り、僕は起き上がりテーブルの上のティズを確認すると。


「もうたべられないわぉ~ん」


眠れるバスケットのダメ妖精はベーコンの香りでしか目を覚まさないらしく、いつもどおりめちゃくちゃな体勢でバスケットの中で心地良さそうな夢を見ている。


僕はそんなティズに苦笑を漏らし、目を覚まさせるためにベッドから降りようと手をかけると。


もにゅり。


「もにゅり?」


そんな擬音がぴったりと当てはまるような柔らかい感触が僕の手に走る。


「なんだ?」


布団の下から感じる感触に、僕は毛布と掛け布団を払いのけ、その正体を確かめると……。


「う~……全ての炎はわたしのもにょー」


……そこには、可愛らしいピンク色のパジャマに身を包んだシオンが、幸せそうな表情で眠っていた。


「!?ふぇかあけkじぇえ!?」


声にならない声を押し殺し、僕は昨日のレオンハルトさんとの会話のときよりも心臓が締め付けられるような感覚に襲われる。


「な……ななななな、何をしているんだシオンは……」


というか、僕とシオンって昨日二人きりで添い寝したって……。


記憶がない、あまりにも記憶がないぞ……落ち着け、とりあえず落ちついて昨日のことを思い出すんだ。


確か昨日はマリオネッターを倒してからそのまま帰ってきて、そうだ、僕は先に寝たけどティズたちは飲み直すと言ってドンちゃん騒ぎをしていたんだった。


ということはシオンは酔いつぶれて間違えて僕のベッドに入ってきてしまったということだ。


「実はいままでぇに~ 吸血鬼にきゅうこんされたことがありゅ~」


どんな夢を見ているんだ一体……っていうか吸血鬼に魂吸われたって良く生きてるな。

あれロスト(消失)のスキルだったよね。


「まったく、女三人で飲ませるのも考え物だな」


僕はそっとシオンの魅惑の果実から手を放し―状況を整理するまで頭が正常に働かなかっただけで、別にも揉みしだいていたわけじゃない、断じて―柔らかい手の感触を感じながらも自分の部屋を出る。


当然のごとく部屋は酒瓶まみれ。


飲み潰れてフラフラと僕の部屋に帰っていくティズにつれられてシオンが僕の部屋に入ってきたのが目に浮かぶようだ。


一つ酒瓶を手にとって表示を見てみる。


「大蛇狂い……」


ドワーフも目を回して倒れこむって有名な酒じゃないか、なんだってこんな恐ろしい酒のビンがあちこちに転がっているんだ?


一本飲んだだけでも相当なのに、ぱっと見一人三本ペースで飲んだ計算になるよこのビンの数……。


「はぁ」


飲んだくれが三人もそろうとどれだけ騒がしかったかは容易に想像がつき、僕のなかでお隣さんへ謝罪に行くことが決定される。


「まぁとりあえず……朝ごはんを作ろうか」


まぁ何はともあれ、朝ごはんを食べなければ全ては始まらないため、僕はルーチンワークである朝食作りを開始することにする。 酔いつぶれて二日酔いになっているであろう彼女達がすぐに目を覚ますとは到底思えないため冷めても美味しいものを作ってあげよう。


空き瓶をとりあえず一まとめに片付け、所々お酒のこぼれたテーブルを拭き、スペースを確保してから調理台へと向かう。


案の定料理をするという概念を持たない人間がそろっていたためか、調理台は昨日の乱痴気騒ぎのあとでも平穏無事。 


これで下手におつまみを作ろうだなんて言われていたら、今日の朝食が完成するのが大幅に遅れることになっていた。


食材の保管庫を覗いてみると、保管してあったベーコンとチーズ以外に減っているものはない。


となれば今日はフレンチトーストでも作ろうか……。


食材も減ってきたし、ベーコンもチーズも食べられてしまったのなら、簡単かつ彼女達が喜びそうなものを作ろう。


そう決心し、かまどに火をつけてフライパンを熱している間に、僕は卵と砂糖、そして保管庫からミルクを取り出す


作り方はいたって簡単で、その三つを大き目のお皿の中に放り込んで混ぜ合わせ、適当に混ざった所でパンを取り出し、ナイフで均等に切り分けて器の中に入れる。


パンに卵とミルクが染み渡る頃には、フライパンがいい感じに熱されているはずなので、バターを一つ落としてとけきった所にパンを落としていく。


水分を弾く乾いた音と同時に甘い香りが部屋中を満たす。


火加減は弱めにして、焦げ目が少し付くまでゆっくりと焼く。


早い、美味い、栄養満点。 冷めても美味しいフレンチトーストの出来上がりである。


「おはようございます、いい香りですね、マスター」


「あれ? サリアおきてたの?」


匂いに釣られてやってきたのか、反対側の扉が開き、ユカタ姿のサリアが顔をだす。


昨日はドンちゃん騒ぎがあっただろうに、二日酔いや倦怠感を見せる素振りはまったくなく、いつものような凛々しい表情のまま食卓に座る。


どうやら今朝は二人きりの食事になりそうだ。


僕は焼きあがったフレンチトーストを全員分の食器に乗せたあと、サリアと僕の分だけをテーブルへと運び、フォークとナイフをサリアに渡す。


「すばらしい……マスターは料理が上手なんですね」

「そんな、たいした料理じゃないよ……これぐらい誰だって作れるだろ?」


「そんなことはありません。 私など剣ばかり振るってきた女ですから、料理はからっきしで……迷宮内の魔物の肉を丸焼きにする程度しか」


恥ずかしそうにサリアはそんなことをいい、フレンチトーストを丁寧にきりとって一つ口にする。


と。


「すごい……おいひいです」


目を丸くして幸せそうな表情をするサリア……どうしよう、耳がすごいピコピコ動いてすっごいかわいい。


「それは良かったよ、昨日は遅くまで飲んでいたみたいだから、お腹に優しいものを用意したんだ」


「お気遣い感謝いたします。 マスター」


甘いものの前では女性は本当の自分をさらけ出す……というのは本当のようで、目の前のマスタークラスの聖騎士は、年頃の女の子と変わらない幸せそうな笑顔を振りまいてフレンチトーストを食べている。


お酒を飲んでいるときとはまた違った幸せそうな表情だ。


僕はそんなサリアの表情に満足をしながら、フレンチトーストを一つ口に含む。


うむ、とっても美味しい。


「そういえばマスター……騒いでおいてなんなのですが、昨日は良く眠れましたか?」


「はは、大丈夫大丈夫。 山育ちのときは狼の遠吠えの中で寝ていたからね、それに比べればかわいいもんだよ」


「そうですか、それは良かった」


「そういえば、今朝起きたらシオンが僕のベッドの中に入ってきてたんだけど……寝ぼけてたのかな?」


「ふぇ!? あ、ええああ! 多分そうですね、昨日はゲームなどをして盛り上がったので、相当飲んでしまって」


「ゲーム? どんなゲームしたの?」


「え!? あ、えと……その」


なにやらサリアが困ったように口ごもり始めている。


そんなに口にするのもはばかられるようなゲームをしたのか昨日……。


酔っ払いとは恐ろしい……。


「何をしてたのさ、サリア」



「あー……頭痛い。シオンめ~私達が魔法使えないからって怒涛の魔法使いあるあるを持ち出してからに……あーいたたたた ちょっとういる~水水~」


そんな酔っ払いに戦慄を覚えていると、隣のほうからやはりフレンチトーストの香りに誘われて二日酔いの妖精がフラフラとやってくる。


服は乱れて髪はぼさぼさ……同じくらい飲んだはずのサリアと比べると完全に女性としての敗北を喫しているティズであったが、それを口に出すとまたもや近所迷惑なキーキー声を発して抗議をしてくるであろうので、僕はだまって水を差し出す。


「おはようティズ」


「ふーんだ……随分と血色のいい顔して……そんなにシオンと一緒に寝れて幸せだったのかしらーだ」


んなっ!?


「ティズ、あれはその……お互いの合意の上で決まったことだ。 仕方ないだろう」


ちょ、ちょっとまって!? お互いの合意の上って、やっぱり僕夜中に何かあったの!?勝手にシオンがベッドに入ってきたわけじゃなかったの、どうしよう何も覚えていないんだけど!?


「エロウイル」


「貴方だってノリノリだったじゃないかティズ」


なんで!? ティズもノリノリだったってどういうこと!?


一体昨日何があったの!? ていうか僕何したの!?


「あー、頭痛いよ~……ウイル君お水お水~、ってありゃ?もうみんなおきてたの~?

おはよーございまーす! 昨日はお楽しみだったねー! ウイル君もどうだった? 気持ちよく眠れた?」


そうこういっていると、またもやティズと同じくふらつきながらシオンがやってきて爆弾発言を投下していく。


「何がお楽しみでしたよ! 一人で楽しんでさ! ウイルを独り占めして! ウイルもそんな満ち足りた顔して! 不潔よ不潔!」


「いやー、なんか負けたくなくなっちゃって」


本当に何があったのさ!? 


いやまあ気持ちよく熟睡させていただきましたけれども、それ以外はまったく何があったか知りませんよ僕。


でも確かに昨日の疲労が嘘のように消えているし……まさか本当に僕シオンたちと何かやらかしたのでは……。


そんな、キスもまだなのに。


なんて乙女チックなことを考えていると。


「いや、マスターの血色がいいのはレベルアップしたからでは?」


サリアがそんなことを呟き、この話は一旦お開きとなった。

  

                   ◇


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