主神でおぎゃる
「く、クレイドル、さま??」
「のんのんー! そんな堅苦しい呼び方、世界の偶像クレイドルには似合わないわ! クレイドルって呼び捨てしてちょうだい! 女神はそう言う固っ苦しいこと苦手なの!」
シンプソンの遺体を小脇に抱えながらそう力説する女神。
正直、この状況と会話で彼女が大神であると信じられる人間なんてほとんどいないだろうが。
彼女から溢れ出る様な神々しさと、言葉を聞くだけで全身に染み渡るかの様な安心感。
そして何より、体に刻まれた本能が、彼女が本物の女神クレイドルであることを確信させる。
オベロンや、ヴラドとはまた違う。
見ているだけでゆりかごに包まれている様な不思議な感覚だ。
「ほ、本当に女神様、何ですか? あ、えと、その、疑っているわけではなくて。えっと、な、何でウィルくんの名前を?」
「フッフーン!ウィルだけじゃないわよ、カルラ」
「わ、私の名前まで!?」
「もちろんよ、生きとし生けるもの全ては私の子供みたいな者、子供の名前を忘れる母親なんていないのよ。何なら抱っこしてよしよししてあげましょうかカルラ? ほら、ばぶばぶしても良いのよ?」
「お、お母さん(ごくり)」
「ば、ばぶばぶして良いの?……(ごくり)」
「何故そこでマスターも反応しているのですか?」
カルラと一緒に、女神様の豊……包容力に目を奪われていた僕に、サリアの辛辣な言葉が刺さる。
「っ!? いや、下心とかそう言うのはないよ!? ただ、僕も母親に甘えるとかそう言うのしたことなかったからつい!」
「では今度母親にそう伝えておきますね」
「ごめんなさい下心でしたそれだけは勘弁してください」
冷静に迅速に、僕はサリアに謝罪をして冷静さを取り戻す。
サリアの視線は冷たかった。
「うぇふふへへへへー、ふわふわですー。ばぶー」
「よしよし、全身傷だらけで頑張ったわね。あんまり無理しちゃダメよ?」
「うぇれへへーー。私お母さんが二人になっちゃいましたー」
そんな中、カルラはクレイドルの胸に抱き止められながら子供の様に甘い声を漏らす。
何とまぁ羨ま……微笑ましい光景だ。
小脇にシンプソンの遺体が抱えられていることを除けばだが。
と。
「やれやれ、何がみんなの母親でアイドルだクレイドル。年齢的にみんなのおばあちゃんだろお前は」
クレイドル寺院の扉が開き、聞き覚えのある声が教会内に響き渡る。
呆れた様な少ししゃがれた男性の声。
見るとそこにいたのは先日戦ったロバート王であった。
「誰がおばあちゃんか誰が! わたしは女神だから永遠の20歳なのよ!20歳と一億ヶ月なの! と言うかあんた、ルーシーと一緒にオベロンのところに行ってたんじゃなかったの?仕事しなさいよ仕事! 王様でしょ?」
「あぁ、だからここに来たんだろバカ女神、背後見てみろ」
「?」
首を傾げて(カルラを胸に挟んだまま)背後を振り返るクレイドル。
そこにはシンプソンの隣に横たわらせてオベロンがおり。
「あ、いたんだ」
あっさりとしたそんな感想を漏らす。
「お前本当にシンプソン以外に興味が無いな。もっと世界を愛せよ主神なら」
「人聞きの悪い!? ちゃんと愛してるわよ! ただ、その百倍ダーリンを愛してるだけなんですー!」
「この残念恋愛脳女神」
やれやれとため息をつきながら軽口をクレイドルと叩き合うロバート王。
会話の内容から、どうやらオベロンとシンプソンに会いにきた様な口ぶりだが。
「え、えと、ろ、ロバート王」
「おぉ、メイズイーターか……この荒れようからして、また事件に巻き込まれたみたいだな」
こちらに気がつくと、ロバート王はそう気さくに話しかけてくる。
なんだろう、前に戦った時と違って何だか雰囲気が柔らかくなった様な気がする。
口調も少し荒っぽいと言うか砕けたと言うか、そんな感じだ。
「え、えぇまぁそんなところです。だけどどうしてロバート王がここに?」
「こいつがシンプソンが死んだって大騒ぎでな。またオベロンの仕業かととっちめに来たんだが……当てが外れたな。しかも最悪な方向で」
やれやれとオベロンの遺体を眺めながら面倒そうにため息を漏らすロバート王。
「よくオベロンがここだとわかりましたねロバート王。」
「まぁ、うちには鼻がいい犬が居るからな」
「犬?」
ロバートの言葉に、僕は首を傾げると。
また教会の扉が開く。
「誰が犬だこら」
「ルーシー!」「お父さん!?」
ロバート王の発言に突っ込みながら、剣聖ルーシーが教会の中にやって来たのであった。