悪魔の謎かけ
「げっげっげっげっげっ!! 人間、愚か! 俺は悪魔だ! 人間との知恵比べは二百年やってる! げっげっげっ! 簡単だ! 今日は簡単に肉が手に入るぞ!」
もう勝った気でいる悪魔は、小踊りをしながら洞窟の中に笑い声を響かせ、謎かけを開始する。
「じゃあ、最初は私から行かせてもらうよー! それは空に登る絢爛な橋、天まで届くほど巨大ながらも、渡ったものは一人もいない。どこにでも現れ、気がつくと消えている。けっして夜には現れない。 さて、これとはなんでしょう?」
シオンの謎かけに、悪魔はニヤリと口元を緩める。
『げっげっげっげっ!!! 簡単すぎる。答えは 虹だ!』
リリムはやり取りを聞いて冷や汗を流す。
シオンの謎かけは決して簡単な部類ではなかったはずだ。
しかし、悪魔は簡単にその答えを突き返した。
先程宣言していたように、確かにこの悪魔は謎かけを得意としている。
その事実に、リリムは不安げにシオンを見る。
だがシオンは依然余裕そうな表情を崩さず、悪魔の出す謎かけを待っている。
何か勝算があるのか、それともただ何も考えていないだけか。
(後者の方が、可能性たかいなぁ)
リリムは依然として不安を拭えないまま、二人の戦いを見守ることしかできなかった。
『今度は俺の番だ。其れは形ない見えない鎖。生まれ落ちたときに人に与えられ、死した後もそのものを縛り付ける。神や悪魔でさえも逃れることはできない、生まれ出でたときに受ける最初の呪い。これはなんぞや?』
「!」
一瞬、シオンはその謎かけに口を開けて惚けたような顔をする。
『げっげっげっ! 人間、こうさんか?』
(シオンさん!?)
シオンの反応に、リリムは一瞬慌てるも。
「いやいやー、答えは簡単かんたーん! 名前でしょ?」
シオンはすぐに笑みを取り戻し答えを返す。
『ぐぐ、人間やる、しまった、これちょっと簡単すぎた!!』
「負け惜しみかなぁー? ふふふー、このままじゃ私が勝っちゃうかもしれないねぇー」
ニヤニヤと笑うシオンに、悪魔は地団駄を踏んで怒る。
『人間の癖に生意気な!! 絶対吠え面かかせてやる!!』
「それはこの問題が解けたらねー。其れは全てを破壊するもの。自然も、伝説の武器も、其れの前には敵わない其れはゆっくりとしかし確実に全てのものに死と破壊を……」
『げけっげげげ!! 簡単! こんなの簡単! 人間は大したことない! それとは時間だ!』
「おー! やるねぇ! まさか問題を全部言い終わるよりも早く、簡単に解かれちゃうなんてー」
即座に答えを返す悪魔に、シオンは驚いたような表情を見せる。
その様子に悪魔は気分をよくしたのか、高らかに笑いながら飛び跳ねて、次の謎かけをシオンへと投げかける。
『げっげっげっ!!もらった、貰った! 人間これは分からない!! 空からも降らず大地からも湧き出でぬ、なんの神秘も持たぬが当然に現れる水の雫。 これはなんぞや!げっげっげつ! これはわからない!!何故ならこれはとっても難しい! 今まで答えられたやつは歴史上一人しか……』
「汗!」
『んがぁあああ!!何故!? 何故分かった!!?』
「それ、昔の本に載ってた謎かけでしょー?さっきから思ってたけど、貴方のその問題、どれもこれも全部どっかで見たことあるよー?」
『げっ!?』
シオンの言葉に、悪魔は一瞬固まり、冷や汗を流す。
それはシオンの指摘がまさにその通りであることを告げていたからであった。
「見た感じ、むかーし本で読んだ謎かけをそのまま丸々パクって問題にしてるみたいだねー。自分で謎かけを作るだけの頭はないけど、記憶力は良いみたいな?」
『げげっ!!?』
図星であった。
「でも、私の作ったオリジナルの謎かけに対してはー、私が問題を言い終わる前に答えてたんだよねー? それだけ頭が良いのに丸パクリの問題で勝負をするなんておかしな話だねー。ふふふ……悪魔さん、何かズルしてるでしょ?」
『!!!!!!!!!』
シオンの笑みが、可愛らしい少女のものから悪魔のような妖艶な笑みに変わる。
その瞳は、最初から全てお見通し、と言わんばかりであり、悪魔は全身に悪寒が走る。
自分はひょっとして、とんでもないものにゲームを挑んでしまったのではないか。
そんな悍ましさに身が震える。
『はー、はー、はー』
気がつけば呼吸が乱れている。
悪魔である自分が、人間に今気圧されている。
その事実が、悪魔に恐怖というものを芽生えさせていた。
時間が欲しい。心を、せめて呼吸を整えるだけの猶予が欲しい。
そんな願いが浮かび、悪魔は時間稼ぎをしようと口を開くも。
「最後の問いです!」
『っっっ!?』
無情にも、シオンは処刑を開始する。
「我汝の真名を問う」
杖を叩き魔法陣を展開し、シオンは悪魔の真名を問うた。
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