人の話を聞かない女
薄暗い階段を降りていくと、やがて開けた坑道へと出る。
深い坑道はボロボロで朽ち果てていたが、柄の部分が腐食したツルハシや、坑道を補強するための山留めの残骸があちこちに残されており、かつてここに暮らした人々が魔導鉱石を採掘していたことを物語る。
そんな坑道の壁に目をやり、松明の明かりを掲げると、所々ごつごつとした岩肌が青白く光る。
魔力が流れている証拠である。
シオンはそんな洞窟の壁に手を当てると、しばらく何かを吟味するように青白く光る鉱石を撫でると。
「おー、確かに上物だー」
と、驚くような声を上げる。
「魔力の含有量も鉱石の純度も申し分ない文句ない一級品です。問題があるとすれば、この岩肌に露出している魔道鉱石に、ルーンの術式が刻まれていることですね」
そう言うリリムにシオンは目を凝らして青白く光る鉱石を見やると、確かに鉱脈に含まれた魔力を繋ぎ合わせるように、洞窟の壁にはルーン魔術が刻まれており、そのルーン文字の先には一つの祠のようなものが立っている。
坑道の中腹あたり。
ボロボロに朽ち果て、最早原型すらとどめていないが、ボロボロに朽ちたその祠には、間違いなく洞窟内の魔導鉱石を利用した封印魔法だった。
「これが悪魔の封印―?」
予想よりもこじんまりとした封印にシオンは首を傾げる。
「ええ、間違いないはずです。封印の中から尋常ではない魔力の気配が感じますから。恐らくはこの中に、魔族の方が封印されているのかと」
「これを無視して掘り進めるってわけにはいかないのかな?」
「この封印は、鉱脈の魔力と、壁に掘り込まれたルーン魔術によって作られています。だから、壁を傷つけたり壊れたりするだけで、その効力を失って、魔物が復活してしまいます」
「なるほどー」
シオンは納得したように頷くと、リリムはこほんと咳払いをする。
「取り敢えず,何か手掛かりになるものがないかを探しましょう。戦闘の形跡や、封印術式を解明すれば封印されている方の手がかりになるかもしれません。そうすれば、シオンさんの交渉も少しはやりやすく……」
「取り敢えず壊すねー!」
「そう、取り敢えず壊して………………..なんて?」
話を聞く、と言う行動を迷宮の壁の中にでも落としてきたのか。
シオンはリリムの話など耳を貸さず、杖を取り出す。
「ぶおーーーー!!」
掛け声と共に魔力を練り上げるシオン。
結構悠長してたリリムも、この行動には流石に焦る。
「ちょちょちょ!!? ストップ!! ストップですシオンさん!? そんな、考えなしに……」
「あれこれ悩んでてもしょうがないしー。何が出てくるかわからないけど、危ないからリリムっちは下がっててー」
「そ、そんな!!? もう少し調べたりとかしてからでも遅くは……」
「そーい!」
「あーーー!!?」
リリムの静止も聞かず、シオンは勢いよく四方に稲妻を放ち、壁に刻まれたルーン文字を、鉱石といっしょに破壊する。
絶対、ジャンヌの方を連れてくるべきだった。
そんな自分の人選ミスを嘆きながら、リリムは慌てて岩陰に避難する。
「さてさてー、何が眠っているのやらー?」
そんなリリムの嘆きなど梅雨知らず、取り敢えず封印を破壊したシオン。
「ま、まぁでも、シオンさんなんだかんだ人と仲良くなるのは得意だし……話が通じそうな人が封印されてるかもしれないし……」
そんな一縷の希望に縋りつつリリムは成り行きを見守る。
やがて、封印を破壊された祠は光を放ち始める。
そして祠は岩戸を開くようにゆっくりと、かと思えば花果山の仙石のように前触れもなく砕け散ると。
中よりその封印された者が姿を現す。
『げーっげっげっげっげっけっ!!! 外、やっと出られたシャバシャバだーーー!!人間食い放題! 魂飲み放題! やったぜ最高いやっほーーーーう!!!』
「考えうる限り一番話通じなさそうなやつ出てきたーーー!!!?」
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