悪魔の洞窟
悪魔の封印です、そう言われたシオンは心の中でなるほどねと呟く。
「確かに、それは私にしか頼めないねー」
悪魔とは、契約によって姿を現す形のない力の塊である。
その源流は生物というよりは、大気に溢れる魔力が人格を得たという方が適切であり、この世界の存在に無理やり当てはめるならば、自然発生をした精霊に近い。
シオン達の暮らしていた次元では、そう言った形のない超常的な存在と契約をして肉体に取り込む技術が確立されており、これが、卓越した魔法技術や無尽蔵に見える魔力の礎となっている。
もちろん。シオンのその身に宿すルシフェルや、ジャンヌの操ったレヴィアタンもそんな力の塊の一部であり、魔族はかつてこの力の塊を使い、時には顕現させては先代魔王と共に
世界を恐怖の底へと叩き落とした。
故に人々は魔族が操るその力の塊を、悪魔と呼称したのだ。
そう。つまりは悪魔が封印されているということは、その地には魔族が封印されている事に他ならないのである。
「鉱山の採掘のためには、その封印を解かなくてはいけなくて……シオンさんなら、穏便にことを納められるのではないかと思いまして。シオンさんだけにお願いをしたのも、あまり大人数だと相手を刺激してしまうかもと思って」
申し訳なさそうに耳をたたむリリムに、シオンは気にしないと言ったように笑う。
「まぁそうだよねー、多分封印されてるってことは戦争真っ只中で、しかもそれなりの実力者だろうしねー、リリムッチや村の人が穏便に話し合おうとしても、目が覚めた瞬間向こうが襲いかかってくる可能性も高いよー。私を頼って正解正解―! 私に任せてー!」
「そ、そうですか」
にこりと嬉しそうにはしゃぐシオン。
そんな頼りにやる魔法使いの姿にリリムは秀真と胸を撫で下ろし。
「取り敢えず、魔導石が欲しいからちょっとどいててって伝えればいいんでしょー? 簡単かんたーん!」
すぐさま時間をかけてでもジャンヌを頼るべきだったかもと
後悔をしたのであった。
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「とうちゃーく!」
アヴドゥルのタクシーが到着をしたのは、リルガルム王国から北にある小さな集落の端。
まるで何かでくり抜かれたかのようにぽっくりと口を開けた洞窟は、しめ縄のようなものが何十にもかけられ、人が立ち入れないようにお札のようなものが何重にもかけられ封印されている。
「村の人がやったんでしょうね。今までここは、子供達の遊び場だったのに」
「それだけ、魔族は怖がられてるんだよー。まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないけどねー」
シオンは気にしないと言った様子でまじまじとお札としめ縄を眺めると、お札をぺりぺりと剥がして、指を振ってしめ縄を焼き切る。
「し、シオンさん!? 勝手に剥がしちゃまずいんじゃ!?」
「大丈夫大丈夫―、これただの気休めだから。効力は何にもないよー」
道を開けるしめ縄をシオンは足でどかしながらそう言うと、意気揚々と言った様子で洞窟の中へと入っていく。
そんなシオンの後を、リリムはぺこりと洞窟に一礼をしてから入る。
「おー、すずしー」
洞窟の中はひんやりとした空気が漂いシオンが声を発すると声が洞窟の中を反響しながら吸い込まれていく。
子供の遊び場だったと言うこともあり、魔物もなく中は薄暗い程度。
足元に転がる小石もはっきり見える程度の明るさが洞窟の中に保たれている。
「随分と綺麗な形の洞窟です。自然に出来たと言うよりかは、人工的に作られたものと考えた方が良さそうですね」
「きっとむかしの人もここで魔導鉱石を取ってたんじゃない?」
「その可能性は大いにありますね、封印のせいで誰も近寄らなくなって、やがて忘れられてしまった鉱脈、と言うのが正しそうです」
「なるほどねー、ってありゃ? 行き止まりだよー?リリムっち」
「ええ、少し待っててください」
リリムはそう言うと、洞窟の行き止まりまで歩いていき、地面にルーン文字を刻む。
と、地面は大口を開けるかのようにゆっくりと口を開き、地下へと続く階段が姿を現した。
「おー!隠し階段!! 何だかワクワクだねぇ!」
「えぇ。ここからは少し暗くなるので、足元に気をつけてくださいシオンさん」
「オッケーオッケー! 何だか久しぶりに迷宮探索してる気分!!」
そう言ってシオンは、意気揚々と地下へと続く階段を降りていくのであった。
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