一方その頃
一方その頃
「ふん、ふん、ふふーん、ふーん!」
街道を走る馬車、アヴドゥルのタクシーの中で、ご機嫌な様子でシオンは鼻歌を歌う。
紡ぐ歌は適当で、音程もバラバラ。
しかし聞いていると、何だかほっこりと心が温かくなるその歌は彼女の魔法の一つなのか、それとも彼女の魅力のなせるものなのか。
そんなどうでもいい疑問をリリムは浮かべ、やがて両方なのだろうと結論を出してリリムは大きく伸びをする。
「ふぁ、ご機嫌ですねシオンさん」
「まぁねー! ウィルくん達以外とお出かけするのなんて久しぶりだからー」
外の景色を眺めていたシオンは、くるりと振り返ると、そうリリムに笑いかける。
無邪気で飾り気のない太陽のような笑み。
(なるほど、これならウィルくんが射止められるのも無理はない。やりますね、シオンさん。この奔放さを見習った方が良いのかも)
そんなシオンの笑顔にリリムは素直な賞賛を密かに送りつつ、すでに遠くになったリルガルムを見る。
「でも良かったんですか? ウィルくん達に話してないんですよね? 私の依頼を受けたこと」
「大丈夫、大丈夫―! リリムっちとお出かけしてくるとは言ってあるからー! 行き先は聞かなかった方が悪いのだー!」
あははと笑うシオン。
「いや、絶対怒られるやつじゃないですか、それ」
そんな考えなしのシオンに、奔放なのも考えものですね、と考えを改める。
「だけど意外だよ、リリムっちがわたしにお願い事なんてー」
「すみません。ただこの仕事は、魔導士の人にしか頼めなくて。私の知るなかで一番腕が立つ魔導士というと、シオンさんしかいなかったんです」
「いゃー照れますなー!」
えへへと笑いながらシオンは顔を赤くする。
忘れている方もいるかも知れないが、シオンは炎熱魔法のスペシャリストではあるが、通常の魔法も卒なくこなせることができる魔法使いである。
炎熱魔法の技量が世界随一、というのはもはや語るまでもないが。
それ以外の階位魔法の腕前も、全国でもトップレベルであり、加えて呪いに対しても見識がある。
魔法使いとしてはオールランダーな存在なのだ。
炎熱魔法しかほとんど使わないのと、残念な性格のため、知るものは当然ごく僅かなのだが……。
「今回シオンさんに依頼したいのは、魔導鉱石の採取と、護衛です」
「護衛?」
機嫌を良くしているうちにと、リリムはシオンに依頼の内容を語る。
ちなみにこの説明は2度目であるが、当然のことながらシオンが覚えてるわけもないため、リリムはあたかも初めて話したかのように、一度目の内容を復唱する。
「えぇ。隣町で偶然見つかった洞窟で良質のた魔道鉱石が見つかったという情報をシンプソンさんからいただいたので、今日はその採取と可能であれば採掘権の入手をしようと思いまして。シオンさんには魔道鉱石の品質の見極めと,護衛を
お願いしたいんです」
「あーなるほどー、鉱石の魔力の含有量は鑑定じゃわからないもんねー。でも、それだけなら私じゃなくてもクリハバタイ商店の魔導士さん達だけで十分だよね? 何かヤバいやつでもいるのー?」
「察しがいいですねシオンさん。そう、その洞窟では確かに良質な魔道鉱石が発見されたのですが。同時に厄介なものまで発見がされてしまいまして」
「厄介なもの?」
「えぇ。数百年以上前に、各地で災いをもたらしたと言われる伝説上の存在……悪魔の封印です」