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未熟な天才 サリア

放たれた四爪の斬撃が、恐るべき大波を破壊する。


並の魔物であれば、この斬撃から逃れる術はないが、神の名を冠する祟り神。


神業に近しい斬撃を四つ重ねられてもなお、大きく後退をするのみであり、この一撃すら時間を稼ぐことしかできない。


「さて、取り敢えず時間は稼いだが、ここからどうする……」



【断空!】


思案を開始するルーシーだったが、その言葉の途中でサリアは斬撃を放ち、建物を倒壊させていく。


「お、おい何してるサリア?」


弟子の不可解な行動に思わずルーシーは問いかけると、サリアは凛とした表情をルーシーに向ける。


「ここで押し返し続けると言うわけにもいかないでしょう。

なので、防波堤を築きます。幸い、ここの建物はシンプルな作りが多く耐久性はイマイチです。重心を支える大黒柱を切り倒せば、容易に倒壊します」


「それは構わんが、そう都合よく倒壊した建物が防波堤になるのか? 下手したら建物をそのまま残していた方が……」


「肉球が邪魔する師匠には難しいかもしれませんが、私なら出来ますよ」


そう、生意気な一言を付け加えてサリアはさらに断空を放つ。


刃の角度や、どこを切り落とせばどういうふうに建物が崩れていくのか。


本来ならば緻密な設計図や計算式を作らなければ実現できないであろう工程を、サリアは暗算と脳内イメージだけで再現し。


あっという間に折り重なる様に倒壊した建物を利用して、防波堤を作り上げ、呪いの波はその瓦礫を乗り越えることができずに動きを止める。


「我が弟子ながら末恐ろしいな。頼むから、闇堕ちして俺の前に立ちはだかるなんて事はやめてくれよ? お前は斬るのが大変そうだ」


「それは師匠次第ではないでしょうか? 例えば、才ある剣士をいつまでも半人前扱いしてないで、さっさと一人前として認めるとかするといいと思いますよ」


ふん、と勝ち誇った様な表情を見せるサリア。


そんな自信過剰で傲慢な弟子にルーシーは呆れる様にため息を漏らす。


「悪いが、そんなこと言ってるうちはまだまだ半人前だ」


「なっ!? そうやってまた……」


子供扱いをするルーシーに抗議をする様にサリアはその長い耳を立てて抗議をしようとするが。


【!!!!!!!!!】


それよりも早く、瓦礫で作られた防波堤は決壊する。


「なっ!!? そんな!!? 間違いなく波を止められる様に作ったのに!!? 計算を間違えた!?」


驚愕に声を上げて狼狽をするサリア。


しかしルーシーは冷静に波の変化を看破する。


「お前のせいじゃないサリア。よく見てみろ、あの波、手が生えてるぞ!?」


サリアは目を凝らし、旋律をする。


見れば波の表面に無数の手の様なものが生え、瓦礫を破壊しているのだ。


「形まで変わるのですか!?」


「成程、あくまでこの大波は仮の姿。目的達成のために最適な形に変わるのか。厄介だな」


「くっ!!? だったら防波堤を更に」


「止めておけ。 おそらくあのペースじゃ、防波堤はもう役には立たん」


「っ、どうすれば」


「冷静になれサリア。いかなる時にも心を乱すなと教えたはずだぞ」


「私は冷静です!」


ムキになって反論をする未熟な弟子にルーシーは苦笑を漏らし、思考を巡らすと。


ある仮説を立てる。


「サリア」


「何でしょう?」


「昇段試験だ。あの怪物を足止めしろ。1分でいい、刻み続けろ。出来たら修行を次のステップに進めてやろう」


「!! それは魅力的な提案ではありますが。奥義を持ってして10秒しか保たなかったというのに、中々に無茶を言いますね」


「出来ないか?」


「今の私では不可能でしょうね……ですから、今ここで限界を超えます」


サリアはそう言うと、剣を構えて無数の腕を生やしながら迫る津波に向かって走り、抜刀の構えを取り、脳内にてイメージを膨らませる。


(今の用いる技術では、10秒と保たない。ならば……師匠の剣を再現する!)


幾度と見たしであるルーシーの剣技を思い返し。

その動きを体に染み込ませる。


それは模倣や見取り稽古……などと言うものではなく、完全なる複製。


体の動き、剣の角度、筋繊維一本一本の動き。


その全てを脳内で思い描き、自らの体に習得をさせる。


ルーシーの動きを反芻すること5,000回、自らの体に当てはめて脳内で再現すること8000回。


其れをサリアは、約1秒で脳内で完結する。


「……」


極度の集中に、サリアの鼻から血が垂れる。


しかしそんなこと気づく素振りすら見せることなく、サリアは10000を超える鍛錬を終え、剣をようやく構える。


ただのイメージトレーニング、時間にして1秒弱の僅かな時間。


しかし、まるで本当に鍛錬を終えたかの様に、サリアは全身から発汗する。


今まさに、彼女は限界を超えたのであった。


「抜刀!!」


怒声と共に、サリアは鞘の中で斬撃を拡散させる。


イメージは嵐。


乱回転させた斬撃を、鞘の中で加速させ。


神速で抜き放つ。


【快刀ッ乱舞ァ!!!】


それは、先ほどルーシーが放った斬撃と全く同じ、無数の斬撃。


未発達な肉体故、威力こそ僅かに劣るものの。斬撃の数、刃の角度全てが再現されており。


「この一瞬でここまで伸びるか……末恐ろしい天才だよまったく」


予想以上の結果にルーシーは驚愕した様にため息を漏らし、同時に切り刻まれ動きを止める大波の動きを観察する。


そして。


「見えた!!!」


仮説が正しかったことを見切り、ルーシーは大波へと向かう。


「なっ!? 師匠、まだ30秒しか……」


突然前に出たルーシーにサリアは驚愕の声を漏らすが。


「そのまま続けろ!」


ルーシーは降り注ぐ斬撃の嵐の間を縫って、大波の核を目指す。



(状況に応じて形が変わると言う事は、頭脳があると言うこと……絶えず大波の中を移動してはいるが、波を切られたとき必ず1箇所に集まる様に波が復元されている)


ルーシーは人狼変化をし、嗅覚にてその核を探す。


魔力が濃く、呪いが僅かに濃く、そして、大波の再生の拠点となる場所。


「丸裸にしてやる」


一喝と共に、ルーシーは剣を構え文字通り相手を塵と化す。


【双爪迫撃!!】


サリアの斬撃の嵐に加え、人狼変化をしたルーシーによる奥義の炸裂。


水蒸気に近しい形まで分解された大波は、なす術なくその核を曝け出す。


「サリア!」


僅か拳大ほどの大きさの紫色の結晶。


ルーシーはサリアの名前を呼ぶと、瞬時にサリアは状況を理解し。


【断空!!】


斬撃を飛ばし、紫色の結晶を砕けちらせた。


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