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マンデースレイヤー

「マンデースレイヤー?」


聞き慣れない言葉に、僕とカルラは首を傾げる。


「一度だけ戦ったことのある、非常に強力な魔物です。月曜日を憎み、日曜日の存続を糧に暴れる祟り神に近き存在です」


「祟り神って、随分と恐ろしい表現だね」


「な、なにより、サリアちゃんに非常に強力って言われる魔物って、ど、どれだけ強いんですか?」


「おそらく、一騎打ちならばアンドリューよりも強力でしょう」


「そんな!?」


一度戦ったことのあるサリアだからこそ下せる評価なのだろうが、僕はその言葉に疑いの声をあげてしまう。


サリアが敵の強さを見誤ることがないと分かっていても、メイズマスターであり世界の終焉をもたらす存在、アンドリューよりも強いと言う事実は俄には信じられなかった。


「で、でも、サリアちゃん、勝ったんですよね?」


あまりにもスケールの違う話に、カルラは恐る恐るそう呟くが。


サリアはその言葉を「いえ」と否定する。


「確かにかつて師であったルーシーと共に戦い、マンデースレイヤーを打ち倒すことが出来ました。ですがそれは我々がただ生き残ったと言うだけ、戦いというのであれば、あれは完全なる敗北と言って良いでしょう」


「サリアが、負けた? しかもルーシーと一緒に戦って?」


驚愕の真実に僕は思わず愕然とする。


たしかに、それならばアンドリューよりも強いと言うのは頷けるが。


「一体、何なのですか。その、マンデースレイヤーさんは?」


息を呑みながら問うカルラに、サリアは僕たちを見ながら静かに頷く。



「あの祟り神と対峙したのはおよそ150年前、鉱山都市カロシーでのことでした。労働環境の過酷な鉱山で労働者たちがとある魔法を研究したのがきっかけでした」


「研究?」


「ええ、永遠の休日。一日をループさせる魔法の研究です」


ぽつりぽつりと、思い出す様にサリアは語りはじめる。


悔しそうに、そして子供の頃に体験した怖い話を語る様に。 


ゆっくりと。


──150年前、鉱山都市 カロシー


【断空!!】


研ぎ澄まされて放たれる斬撃が、鉱山都市の建物の合間をすり抜け、呪いの塊へと叩きつけられる。


斬、と言う肉を切り取る様な音と共に、黒い津波の様な怪物は速度をほんの少しだけ遅めるが、またすぐに都市の侵略を再開する。


「っ!? これだけ斬撃を浴びせても、動きを止めるのが精一杯……どうしよう、このままでは」


一閃を放った声の主サリアは、焦る様にそう唇を噛む。


と。


「下がっていろ、サリア!」


背後から声が響き、サリアは咄嗟に後ろに飛んで道を開ける。


と、飛び出す様に呪いの波へと、師であるルーシーが躍り出る。


その手には名刀、童子切安綱。


居合の構えのまま、ルーシーは呪いに触れる直前まで踏み込むと。


快刀乱舞(かいとうらんま)!!!】


一喝と共に神速の抜刀術を放つ。



スキルにより拡散した斬撃を、鞘内で増幅、乱回転させて無数の斬撃を神速で放つ居合の技。


その威力は嵐すらも切り裂くと言われる斬撃の乱舞であり、今のサリアが放てば轟音と共に家屋の一つならば瓦礫の山へと変貌させられるほどの、抜刀術の中では最も威力の高い技。


その技をルーシーが迷いなく放つと言うことは、この魔物は尋常でない耐久力を誇ることを物語っていた。


【!!!!!!!!】


抜き放たれた剣閃。


一瞬だけ訪れる静寂に続き、無数の斬撃が、周りの建物を一切傷つけることなく呪いの波へと叩き込まれ、津波のように街へと迫る呪いの波は、細切れになりながら数十メートルほど押し返される。


それは津波を剣一本で押し返すと言う、尋常ではない絶技。


「切れないか」


しかしそれだけの偉業を成し遂げながら、剣聖は不満げに舌打ちを漏らす。


「師匠、これは一体、何が起こってるんですか? それに、あれは一体何なんですか?」


サリアはルーシーに駆け寄り、置かれている現状を問うと、ルーシーは困った様にため息を漏らす。


「禁忌魔法の一種、番外魔法【やり直す一日】の副作用だ。ギルドからの報告の通り、この街には間違いなく禁忌魔法の研究が進められていた」


「そんなバカな、ここの領主と、組みする魔導士の調査は全て終了しています。彼らは番外魔法どころか,十二階位魔法の習得すらしていませんでした」


「あぁ。領主側はな。魔法の研究と時空の隔絶なんて馬鹿げた真似をしようとしてたのは、ここの労働者たちだ」


「労働者?」


「ここの労働環境の劣悪さはお前も見た通りだろサリア」


「え、ええ」


各地から集められた奴隷達が、毒性の強い鉱物をひたすら採掘する。


死人は当たり前、過酷さにより身も心も疲弊しボロボロになった労働者達。


そんな彼らが魔法に縋ると言うのは無理からぬ話してばあったが。



「彼らは故に魔法に手を出した。永遠の日曜日、休日だけの人生、苦痛からの解放。その願いと執念、そして偶然が重なって番外魔法の発動まで漕ぎ着けたようだ。かろうじて魔法の発動は食い止めたが、代わりに現れたのがあれだ」


「魔法を食い止めたのに? どうして」


「あれは月曜日を殺すもの、マンデースレイヤー。日曜日を望む者の願い、そして月曜日への恨みが形を持った祟り神の一種だ」


「祟り神?」


「ゴーストに近いが、より強力な怨念の集合体。それが祟り神。誰だって日曜日が終わってほしくないと請い願うだろ、その願いを叶えるためにあの魔物はこうして姿を現すんだ」


「そんな、日曜日が来るたびにあんな怪物が現れてはたまった者じゃありませんよ!」


「あぁ。もちろん滅多に現れることはない。あいつは人間の執念みたいな者だからな。 普通の人間なら日曜日が終わって月曜日が来るなんて当たり前のこと、当然の様に受け入れている。嫌だ嫌だと言っても本気で月曜日を来ない様にしてやろうなんて努力する人間はいないだろ?」


「それはそうですけど」


日は昇り、そして沈む。


一日が終わり明日が来る。


確かにその当たり前の仕組みを変えてやろうなど、サリアも考えたことはない。


「だが、ここの労働者達は本気でそれをやろうとした。現に俺が気が付かなきゃ、おそらくここは日曜日を延々と繰り返す時空の隔絶された都市になってただろう」


サリアはゾッとする。


巻き込まれていたら、自分は気づくことなく永遠と同じ一日を繰り返すことになっていたのだろう。


それはまるで死んでいるのと同じである。


「では、あの祟り神は」


「あぁ。終わらない日曜日が実現しかけたんだ。受け入れるしかなかった妄執は執念に変わる。失われた永遠の日曜日を取り戻すため、訪れる月曜日を抹殺するため、あの呪いはその執着を叶えるために姿を現したんだ」


「ですが、願いを叶えるために現れたと言うなら、何故街を襲うのです? 労働者達も多くが巻き添えになっています」


「だから祟り神と呼ばれる。番外魔法が止められた今、永遠の日曜日を得る方法は失われた。だからこそ、あの呪いは歪んだ形で願いを叶えようとしている」


「歪んだ形?」


「消滅による、日曜日の存続。魂ごと日曜日に消滅させることで、あの呪いは労働者達に月曜日を迎えさせないつもりなんだ」


「そん……」


神と呼ばれる理由をサリアはようやく悟る。


常識も、人間的な感性も持ち合わせない、ただ結果だけを機械の様に求め、人の気持ちなど理解するつもりもなく善意で厄災を振り撒くもの。


これを神と呼ばずして、これを祟りと呼ばずして何と呼ぼう。


「相手はこの街に住む労働者5万人の、休日を終わらせたくないと言う妄執……剣一本で断ち切るのは至難の業だ」


そう呟いてルーシーは童子切安綱を構える。


「ではどうするのです? 尻尾を巻いて逃げ出しますか?」


「そうは言ってない、ただ正攻法では難しいとそう言ったんだ、だからお前だけでも……」


「成程、では私の領分ですね。おまかせを」


避難しろと言う命令を遮り、サリアはルーシーの横に並び立つ。


「本当、生意気な弟子だよ。お前は」


不遜な態度を取る弟子にルーシーは呆れた様に笑って、腰に刺したもう一本の剣を抜き、二刀を構える。


「合わせろ。一旦時間を稼ぐ」


「了解です」


呼吸を合わせ、サリアも日本のロングソードを全く同じ形に構え。


「「不知火流、黒龍葬送奥義」」


【!!!!!】


合わせて四爪の奥義を放つ。


【【双爪迫撃】】


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