表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
427/459

閑話 ウィルくんはお年頃


 フェアリーゲームが終わり、誰しもが祭りの様に浮かれ踊る、妖精王がもたらした7日間の日曜日。


 街はパレード。 道には紙吹雪。空を舞うのは無数の風船。


 誰もが魔王の勝利を褒め称え、口々に英雄達との激闘の感想を口々に語り合う。


「シオンの爆炎は凄かった」


「剣聖と剣帝の戦いは本当に感動で泣けてきちゃったよ」


「カルラとイエティの殴り合いは、手に汗握ったぜ!でも、一対一ならイエティの方が強かったな!」


「ここをああすれば、レオンハルトも勝てたかもしれないのに」


「リューキって強いんだな、卑怯だけど」


ああでもないこうでもないと、町中は蒸し返す様に戦いの感想を延々と繰り返す。


もはや伝説の騎士にして魔王フォースオブウィルの存在は、スロウリーオールスターズを凌ぐ伝説となったことは疑いようもなく。


古き伝説と新き伝説に感謝の言葉を皆が皆心の中で叫びながら、日曜日はずっと続いていく。


いつ終わるともわからないまま。



⬜︎


「ロバート王からの伝言です。フェアリーゲームの報酬は日曜日が明けた後、最初の月曜日に王城で行うとのことです」


家がなくなって以来、何日泊まったのかも分からないほど懇意にさせてもらってる宿屋の一室にて、王城から戻ったサリアから報告を受ける。


ルーシーと再会を宿して食事をするとは聞いていたけど、ロバート達からちゃっかり伝言を頼まれているところを見るに、場所はどうやら王城だった様だ。


「報酬か……」


「ええ。時間はあるからゆっくり考えておけ、と言うのがロバート王からの伝言です」


ゲームの準備で奔走していたせいで忘れていたけど、そういえば勝った方が負けた方の願いを聞くなんてルールだったな。


「報告ありがとうサリア。ルーシーとの再会は楽しめた?」


「えぇ、剣戟にて半生を語り合いましたが、やはり思い出は言の葉に紡ぐのが一番楽しい。良き一日を過ごすことができました。マスター、感謝を」


「別に、感謝されることなんてしてないよ。と言うより,せっかくの再会なんだからもう少しゆっくりしてくれば良かったのに」


「いえ、いかに父との再会とはいえ私は騎士ですから。それに」


そう言葉を止めて、サリアはジィッと僕の顔を見つめる。


「それに?」


「いえ……なんでもありません」


「?」


なんだったんだろう?


少し顔が赤い様な気もするけど。


少し気になったので聞いてみようかとも思ったが。


その言葉は。


「あー! サリアちゃんおかえりー!」


街から戻ってきたシオンの声にかき消される。


「おやシオン。どちらに行っていたのですか?」


「えへへー!呪われた本のお買い物!! 新しいお家に引っ越すから、在庫を新調しようとシオンちゃんは思ったのです!」


「成程、確かにあなたの呪いの本も、ブリューゲルに焼き払われてしまいましたからね」


「そういうことー!」


「いくら広い家になるからって、また大量に買ってきたりしてないだろうね? キャパシティがあるんだからね?」


「大丈夫大丈夫―!! 呪いの本は本棚いっぱいまでって

リリムっちと約束したからー! それと、他にもいっぱい買うものがあったから、呪いの本は少なめなのです!」


「他のもの?」


「えっとー。新しい枕でしょ? パジャマに髪留め。お化粧品にー、ふかふかのベッドー!」


「へぇ、珍しいね。シオンがそんなに日用品を買うなんて」


生活用にと言ってお金を渡すと、決まって袋いっぱいの呪いの本を買って来ていたシオン。


そんな彼女が寝具を買い替えるなんて、随分と珍しいことがあるもんだ。


「そりゃそうだよー。これからウィルくんとの新婚生活が始まるんだもの!! 気合いが入るってもんですよー!」 


「「……なんて?」」


サリアと僕の声が重なり、宿屋に響く。


「何って、私とウィルくんはもう夫婦なんだから、新居では当然一緒の部屋でしょ?」


「なな!!? 何を言ってるんですか貴方は!!」


「何って……ちがうのー?」


きょとんとした顔で首を傾げるシオンに、僕は思わず口籠る。


「違くはありませんが、あの時マスターが貴方を妻としたのは、あなたを助けるためであってですね!!?」


「でも、助けるためであったとしても私はウィルくんのお嫁さんだよね? ウィルくんがそう言ったんだよ?」


「いや、だから」


シオンの問いかけにサリアは口籠る。 


「私はウィルくんのお嫁さんになれてとっても幸せだよ? ウィルくんは私がお嫁さんだと迷惑?」


ズルい言葉だ。

迷惑かなんて聞かれて、僕が首を縦に振るわけないとわかってるくせに。


それに、シオンのいう通り、成り行きだったとはいえ結婚を申し出たのは僕の方なのだ。


「……はぁ。分かったよ、僕の負けだよシオン」


「マスター!?」


「いえーい!!シオンちゃん大勝利―! ピースピース!」


嬉しそうにVサインを作るシオン。


「ただし、僕だって男なんだ。一緒の部屋で寝ることになって手が出ないとも限らないよ。間違いが起こらないって保証はできないからね」


呑気に喜ぶシオンに、僕は忠告のつもりではそう言ったのだが。




「ふふ。何言ってるのウィルくん。夫婦なんだから間違いじゃないでしょ?」




シオンは大人びた表情で微笑むと、ぺろりと妖艶に舌を出す。


あぁ、普段おちゃらけてるからわすれてたけど、シオンはお姉さんなんだなと分からされた瞬間であり。


むしろ手を出されるのはこっちの方だなという確信と期待に僕は絶句する。




「シオン!! なな、何を言ってるんですか貴方は!!」


そんな僕たちのやりとりに、とうとうサリアが吠えた。


「ありゃりゃ、ちょっと悪戯がすぎたかな?」


「当たり前です!! マスターもマスターです!!?何鼻の下伸ばしてるんですか!!」


「あ、いや、その」


詰め寄るサリアに僕は慌てて妄想をかき消し口籠る。こんなにサリアが怒るなんて久しぶりであり、あまりの気迫に気圧されながら言い訳を考えていると。


「サリアちゃんもしかして……嫉妬?」


「%:…÷○々\#/&&#_/!!!!!!!」


シオンが油を注いだ。


「何やってんのシオン!!? なんかサリアがすごい別な生物みたいになっちゃってるよ!!?」


「てへ」


顔を真っ赤にして怒るサリアに、シオンはやっちゃったぜ、と言いたげに今度はぺろりと舌を出す。


何でもかんでも燃やせば良いってもんじゃないんだぞ炎熱魔導士!


「とと、とにかくマスターもシオンも!! 軽々しく結婚という言葉を使いすぎです!! 一生を添い遂げる相手なんですよ!! 人生でたった一人のパートナーとの最上の誓いなんです!!ですからもっと慎重に、こんなノリと勢いだけじゃなくてですね……!!」


「でもそういうけど。リルガルムって4人までならお嫁さんOKだよ?」


「……………………ならばまぁ良いでしょう」


「良いんだ」


こうして、シオンと僕は相部屋になることが決まったのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ