メイズイーターレベル4
言葉を荒げて反論をしたのも、今までの問答も、全ては、自分の動揺を誘うための布石だったのである。
「ちぃ!!?」
まんまとしてやられたと、ロバートは舌打ちを漏らす。
斬撃を飛ばすことのできるはずだと言うのに、気が急いて間合いへと完全に誘い込まれてしまっている。
「捉えた!!」
怒声とともに、ウィルの全身から迷宮の壁が一斉に湧き出し、ロバートへと迫る。
それは、剣聖であろうが神であろうが消滅させる反則技、いしのなかにいる。
破壊不能のいしのなかに封じられれば、消滅は免れず、不死であろうとも破壊不能のいしのなかに閉じ込められれば脱出は不可能。
そんな理不尽の塊が、一斉にロバートに濁流のように押し寄せる。
「舐めるな!!」
だが、その濁流すらもロバートは乗り越える。
全身の骨を軋ませながら、全力で地面を蹴り、津波のように覆い被さろうと迫る迷宮の壁から距離を取る。
迷宮の壁は確かに脅威だが、その動きは鈍重。
完全に不意を突いたとしても、ロバートの動きを捉えることは叶わない。
「まさか……こんなに」
驚愕したように、ウィルは呟きながらロバートを視線で追いかける。
その姿にロバートは口元を緩め、勝利を確信する。
「万策つきたなメイズイーター!!揺さぶりはもう効かない、この勝負俺の……」
───────ドッ。
勝ちだ。
その言葉が出るよりも早く、鋭い金属音とともに王宮の床から真っ直ぐに伸びた槍が、ロバートのつま先を貫き、まるで油断を戒めるかのように勝利の宣言を阻害する。
「んなああああぁ!!?」
貫かれた足の甲は鮮血を巻き上げ、ロバートは驚愕と痛みに声を上げる。
そんなロバートの様子にウィルは満足げに頷くと。
「こんなに上手くハマってくれるとは思ってませんでしたよ」
予定通りと言わんばかりに口元を緩ませる。
「!!!?この力、お前まさか!?」
「メイズイーターレベル4 トラップイーター。迷宮の罠を僕は自在に操れる……貴方の着地点に串刺しの槍を設置しました。これで機動力は削ぎました」
「いつの間に!?」
「トラップイーターの設置に宣言やモーションは必要ないですから。会話の最中、貴方が玉座を見た瞬間、この部屋の中にはすでに無数のトラップを敷かせて貰いました。そして……」
そういうとウィルはロバートを取り込むためにはなった迷宮の壁を蜘蛛の糸のように玉座の間全体に張り巡らせる。
「これで、逃げられる心配はありません」
ホークウインドを構えながら、ウィルはそうロバートを挑発する。
「逃げられないだと? 馬鹿な、それではお前も迷宮の罠のせいで身動きが……!?」
取れないはず、と言う言葉を発する間もなく、ウィルはロバートの元へと一直線に走り、ホークウィンドの一撃を叩きつける。
「!!」
防ぎ切れないと言うほどでもない一撃。
しかし、軸足を貫かれたロバートはその一撃に踏ん張りが効かず、一歩後ろに後退する。
カチ
「しまっ!?」
【高圧電線!】
何かを踏んだ音と共に、足元から電撃が走り、ロバートの体はばちばちと音を立てて黒煙を上げる。
「っぬううがあああああああああ!!?」
常人ならば、一瞬で魂ごと焼き尽くされる電撃。
しかしながらロバートは絶叫を上げながらも意識を手放すことなく、いつのまにか距離をとっていた電撃に耐えて剣を構え直す。
「まさか、これも耐えるなんて。さすがは王様ですね」
称賛の声を上げるウィルに、ロバートは息を切らせながらも口を緩ませる。
「はぁ、はぁ、見事な手際だが倒し切れなかったのは痛手だなメイズイーター。貴様が通った場所にはトラップは存在しない。気が付かれないように距離を取ったつもりかもしれないが、俺の目は見逃さない!!」
電撃で麻痺が残る体に喝を入れ、ロバートはウィルの距離を取るまでに通った道を辿り、聖剣の一撃をウィルに叩きつけようとする。
だが。
「残念、そこは爆発床」
爆炎が上がり、ロバートの全身が炎に包まれる。
「がっ……かっ!?」
何故?
と言う疑問すら浮かべる間もなく、ウィルは急襲をロバートに仕掛ける。
高圧電線に爆発床。
それに加えて先程から連続で行っている体の酷使。
いかにロバートであろうとも、体は悲鳴をあげ迎撃のために剣を構えようとした右腕が力無くだらりと垂れ下がる。
最早この一撃は受け入れるしかない。
そう冷静に判断をしながらも、ロバートは左腕だけで聖剣を構えるが、いまだにつきぬ疑問が頭の中を巡る。
どうして、奴には迷宮の罠が発動しない?
先代メイズイーター。
アンドリューも確かに使うことは少なかったが罠を張り巡らせることができた。
しかし、その罠は自分に対しても牙を向くため結局アンドリューでさえも実戦で使うことはほとんどなかった。
それなのに何故、この少年には迷宮の罠が発動しないのか。
振り下ろされた迷宮の壁で作られた剣の一撃をロバートは聖剣でかろうじて防ぐも。
ついで放たれたホークウインドの刃がその肩に深く食い込む。
「っく、何故だ、何故お前には罠が発動しない」
渦巻く疑問に、ロバートはついそんな言葉を漏らす。
技術か、スキルか、はたまた魔法か?
始祖の目でも見切れないそのカラクリは一体どんなものなのか。
質問に答えてくれるとは当然思いはしないが、問いに対する
反応を見れば始祖の目は答えを導き出すだろう。
しかし。
そんなロバートにウィルは不敵な笑みを浮かべながら。
「僕は運がいいですから」
他愛もなく、しかしどうしようもなく理不尽な現実を叩きつけたのであった。