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英雄王の過ち

「届かないか」


魔王の鎧は、聖剣の一撃により砕かれる。


幾たびも魔王を凶刃から守った魔王の鎧は、砕けながらも最後の意地とばかりにすんでの所でロバートの剣を食い止める。


ロバートの渾身の一撃を受け砕けた鎧は、主人に傷一つないことに安堵をするようにボロボロとその身を崩れ落ちさせ、黒い霧となって消滅をした。


「……魔王の鎧を、一撃で……これが英雄王。すごいな」


黒い霧の中から、息を呑みながら姿を現したのは、まだ幼さの残る顔立ちの少年。


スロウリーオールスターズの中でも特に個性の強かった二人の血を継ぐとは到底思えない優しい顔をしているそんな少年を、ロバートはもう一度正面から見据えて、残酷な運命に哀れみを覚える。


なぜ、ティターニアはこんな子供に残酷な運命を背負わせたのか。


もっと誰でも良かったはずなのに、メイズエンドシステムの理不尽さを知りながら何故……。


「何故自分の子に、こんな業を背負わせたんだ? ティズよ」


「? ティズが、なんです?」


小さく呟いた言葉に少年ウィルは反応をするが、ロバートは首を振ってその言葉をしまう。


「こんな年はもいかない子供を魔王に仕立て上げるなんてな、ティターニアの横暴に怒りを覚えていただけだ」


咄嗟に代わりの言葉をロバートは紡ぐが、その言葉にウィルは反論するように首を振るう。


「それは違いますよ王様。僕がメイズイーターになったのは確かにティズの計画だったのかもしれない。でも、冒険者として迷宮に挑んだのは間違いなく僕の意志だ。メイズマスターもメイズエンドも知ったことじゃない。僕は、僕の意思でアンドリューを倒すと誓ったんです。同情されるいわれはありません」


「与えられた目標なんて傀儡と変わらないだろ。いかに自分の意思だって、そう誘導されたのならば意味はない」


「分からない人だな、僕がそれでいいって言ってるんだよ。他人からの同情なんてまっぴらだし、何よりこの力があったから僕はみんなと繋がれたんだ。それすらも否定される筋合いはないよ」


ロバートの憐れむような言葉に、ウィルは少しムッとして言葉を崩す。


「その行く末が破滅だとしてもか?」


「破滅なんてしないよ」


「根拠は?」


「無い」


「話にならんな……そんな根拠のない自信で……」


「でも理由ならある」


「理由?」


根拠はないが理由はある。


そんな不自然な言葉にロバートは首を傾げると、ウィルは表情を緩めて魔剣ホークウィンドを抜く。


それは初めての繋がり、リリムと紡いだ最初の絆。


「今までの繋がりが、友達が、仲間が……どんな不可能だって可能にしてくれる。僕はそう信じてる」


「仲間、そんなもの破滅を前には塵芥の役にも立たない。現実はそんなに甘かない、その根拠のない自信が傲慢さが、自分の大切なものを巻き込むんだ。その時になってその無鉄砲さを嘆くことになるぞ」


かつての自分に語るように、ロバートは言葉を荒げる。


ともに視線をくぐり抜け世界を救った仲間がいれば、なんでも叶うと信じていた過去の自分。


メイズエンドシステムなどと言う運命も、みんながいれば塗り替えられると迷宮に挑み結局、ルーシーとイエティを失い、狂王として民からも見捨てられ、アルフや他のオールスターズたちすらも失った。


その傲慢さが、無知が、浅慮が……何もかもが恨めしく、目の前に立つその過ちを、ロバートは看過することなど出来なかった。


だが。


「地獄の沙汰も繋がり次第……この街の冒険者なら誰もが知ってる、あなたが言った言葉だ」


そんな過ちが、今の自分を否定する。


「くだらん言葉だよ、過去の過ち、傲慢さが口をついて出た後悔をする前の愚かな若造の戯言に過ぎない」


「いいや、これが英雄王ロバートの本心だ。この先に待ち受けるのが破滅だろうと地獄だろうと…….みんながいれば絶対に乗り越えられる」


「青いセリフを……お前みたいな奴が、全部を失って絶望するんだ」


「そうかもしれない。だけど、少なくとも僕は諦めないよ。あなたの計画も、アンドリューも、メイズエンドシステムだって乗り越えて、僕は迷宮を攻略する」


「不可能だ」


「そんな言葉、もう聞き飽きたよ」


ウィルの言葉に、ロバートは次の言葉が浮かばない。


自分とウィルには決定的に違うものがある。


その何かまでは知ることが出来ないが、ロバートにとってそれは致命的な物であることを、直感は告げた。


だからこそこれ以上の会話は危険だと判断して、ロバートはウィルへと切り掛かる。


ウィルの手に握られた細身の剣はまごうことなき名刀であるが、螺旋剣には劣る代物。


打ち合いになれば、間違いなく聖剣が勝利する。


しかし。


「メイク!」


ウィルはホークウインドではなく、形を変えた迷宮の壁を、剣の形にしてロバートの聖剣を迎撃する。


「!!? そんな事まで出来るのか!!?」


剣の形をとった迷宮の壁。切れ味こそ鈍ではあるが、決して壊れない破壊不能の迷宮の剣は、螺旋剣をも砕いた聖剣の一撃を容易に食い止める。


「英雄王ロバート、あなたの間違いは運命に抗って迷宮に挑んだ事じゃない!! 仲間を失ったと思い込んで、全部を諦めてしまった事だ!!!」


「何を……俺は!?」


ウィルの叩きつけた、本当の過ち。


ロバート王はその傲慢な言葉に怒りを露わにするが、ついぞ否定することができなかった。


確かに、アンドリューの救出に向かったルーシーとイエティは敗れ、迷宮に囚われた。


だが、結局二人は戻ってスロウリーオールスターズとして力を振るっている。


一人は類い稀なる生命力で、一人は類い稀なる精神力で……諦めることなどせず、迷宮の中で待っていたと言うのに……仲間を信じられず、失ったと思い込んで運命を受け入れてしまった。


メイズイーターを探したのも、自分の手で運命を切り開く覚悟を失ったから。


そう。結局自分は諦めてしまったのだ。


鍔迫り合いの最中、ロバートは思わず背後の玉座にふりかえる。


もう無理だと、不可能だと決めつけて……友の言葉も、何もかもに耳を塞いで、あのちっぽけな椅子に閉じこもっていた。


「あぁ、そうか。繋がりが切れたんじゃない。俺は自分から繋がりを絶ったのか」


そんな真実に、ロバートは己の本当の過ちを知る。


仲間を信じ切れなかったこと。


それが彼の最大の過ちであった。


「やっぱり、アルフの言った通りの反応ですね、英雄王」


「!?」


それは、致命的すぎる隙であった。


「メイク!!」


ここにきてロバートは少年の術中にハマったことを悟る


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