狂王の試練
ロバート王はその日、再び魔王と相対する。
世界のルールを変え、この世の滅びを迎えさせ、そして、スロウリーオールスターズを作り上げるきっかけとなった伝説の騎士。
今の魔王はまだ知ることは無いが、この後数々の偉業を積み上げる魔王フォースオブウィルこそ、人生において最大の障害になることをロバートは直感で感じる。
「よくぞまいった」
剣を構えながら、ロバートはそうまだ未完成な英雄に対しそう言葉を漏らす。
その言葉に魔王は少しだけ首を捻ると、螺旋剣を抜き放ち一礼をする。
「全てを教えてもらいに来ました、ロバート王……貴方は何をしようとしているのか」
魔王は、少年ウィルとしてロバート王に問いかける。
フェアリーゲーム中、国家機密の多い場内には観戦用の魔導石を置かないことが、ロバート達の条件でありそのため主神が人間のロバートに敗北をするなどと言うこの世の根底がひっくり返るような出来事を知るものは誰もいない。
それを知っていたからこそ、ウィルは兜を取って素顔をロバートに見せる。
その覚悟に、ロバートは少しばかり頷くと。
「我が目的は友であるアンドリューの救済。世界を救い、平和を作り、そして自らの犠牲とともに我らを救った。そんな大馬鹿者を、今度は私が助けるのだ」
今まで誰にも語ることができなかった本心を吐露する。
「友達のため自分の体を犠牲にして、一緒に戦った仲間をも犠牲にして……貴方はそれでも、迷宮に挑むんですね? それが世界を滅ぼすことになりかねないと分かってても」
「あぁ、王としてあるまじき行為だろうな。だが魔王よ、お前も同じだろう? 同じ立場に立った時、お前だって同じことをするはずだ。大切な友が、恋人が、家族が、誰にも相談すらせずに、勝手に自分を犠牲にして迷宮に囚われたら」
ウィルは少し想像をして、肩をすくめる。
困ったことに、彼の仲間にはそんなことをやりかねない人物しかいなかったからだ。
「やる事は一つですね。何が何でも助け出して、三日三晩お説教です」
ウィルの言葉にロバートは賛同するように口元を緩めて頷き。
ウィルはそんなロバートに少しだけ安堵する。
そこにいたのは狂った傍若無人な愚王でも、冷酷非道な暴君でもない。
ただ、必死になって友達を助けようとする一人の人間だった。
やり方は間違ってたかもしれない。
気が流行って仲間を失ったかもしれない。
しかし、理不尽極まりない迷宮という災害に振り回されながらも、彼は彼のやり方で…….王ではなく一人の人間としてメイズエンドシステムなんてふざけた運命に抗っていただけなのだ。
「嬉しそうだな、メイズイーターよ」
自然と、ウィルの表情は歪んでおり、指摘をされて慌てて兜を被り直す。
「安心しただけですよ。勝手に貴方のことを神様みたいな超常的な存在だと思ってましたが、貴方も一人の人間なんだと分かって」
「ほう? なぜ安心する?」
「相手が人間なら、まだ勝ち目がありますから」
最強の男を前に、未熟な魔王はらしくもない挑発をこぼす。
「抜かしおる」
そんな不遜な言葉にロバートは怒るでもなく静かに鼻を鳴らすと、聖剣エクスカリバーを構える。
「決着をつけましょう。このフェアリーゲームに」
「あぁ。覚悟して挑めよメイズイーター。 こここそがメイズマスターに至る最後の難関! 狂王の試練場だ!!!」
怒声と共にロバートはエクスカリバーを振り上げ。
「!?」
「次元断!!!!」
空間ごと魔王を切り裂いた。
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