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38.サリアの不安とウイルの決意

「メルトウエーイ……」


「ちょっ!?メルトウエイブ撃つ馬鹿がどこにいるのよ!馬鹿! 火力抑えなさい!」


「丁度、お風呂場の二人も少し長引きそうですし」


……サリアの表情を見てみると、そこには柔和な口調であるが真剣な表情が見て取れた。


「コーヒーでも淹れるよ」


「そこまで長話じゃないので、大丈夫です。 ただ、少しお隣かもしくは前に座って、私の話に耳を傾けていただきたい、それだけです」


サリアはそう優しく僕にお願いの言葉を漏らす。


その言葉には確実に、コーヒーを飲むよりも先に、聞いておいて貰いたい大事な話が有る。

ということを暗示していた。


「わかった。 話を聞くよ」


僕は一つうなずいて、サリアの対面のソファに座る。


「ありがとうございますマスター」


「君がわざわざ二人を遠ざけてまで話したいことだもの、何か重大なことなんでしょ?」


「いいえ、どちらかといえば重大になるかも知れないことです」


そういうとサリアは、少し伏し目がちに話を始める。


「重大になるかも知れないこと?」


「今日、話すことは私の感じた違和感についてです」


「違和感?」


「ええ、今日マスターは王国騎士団長レオンハルトに会いましたが、どう思いました?」


「……え? どうって……なんだろう。 大きいとか強そうとか?」


「そうですね……私が感じたのは早すぎる……という感想でした」


「早すぎる?」


「王国騎士団長の部隊とは文字通り国王の懐刀……王を守護するこの国最高にして最奥の刃なのです……その地位に君臨するものが、あの場所に、騒ぎのあった一時間後に現場へと到着をしていた……。 たかがアンデットの襲撃に……」


「クレイドル寺院はこの町の唯一の蘇生の場所だから……王も早期解決を計ったんじゃ」


「だとしたら逆になぜあそこで待機をしていたのかが説明できなくなります……私は、アンデットの襲撃の先にあるものの為に控えていたのではないかと……そう考えました」


「先って?」


「分かりません、だが私達が帰ってきたとき、レオンハルトは事態が収束したことに安堵していたように思えました」


「問題が解決して安堵するのは当然なんじゃ?」


「ただ傍観していたにしては……随分な安堵の仕方でした。 私達が、事態を解決した人間……つまりこの国の人間だったことに安堵したのではないでしょうか?」


「……それって」


「ええ、恐らくあの襲撃には、第二のなにかがくる可能性があった……それも、国王を守護する最奥の懐刀を前線に立たせなければならなくなるほどの大きな……何かが。 騎士団はそれを警戒していたように思えます」


「考えすぎじゃ」


「それだけでは有りません……今日のオークの巣の討伐依頼……相場の3倍以上の額です……だれもやらなかったからとはいえ……あまりにも額が多すぎる 本当にあの依頼は誰も手をつけなかったものなのでしょうか……私には、早期に解決して欲しい難題……であったようにも感じるのです……そしてそこにいたオークは実際にオーガを飼育していた」


「……オークがオーガを飼育するのは良くあることだよ。 動きな緩慢なオーガはオークに食事の世話してもらうことが自然では多いし、オークもオーガにだけはなつくから」


「それに、最近あまりにも地下から上層に上がってくる魔物が多すぎる。 コボルトキングにオーガ……スケープゴート……そのどれもが、上層の魔物と友好関係……群れや統率をとることができるモンスターばかりです……そして今回の死体とマリオネッターの組み合わせ……私には、誰かが魔物を使って魔物の軍隊を作ろうとしているように感じるのです、現にレオンハルトはコボルトキングのことを知っていた……マスターはモンスターハウスのトラップの所為だと考えていたようですが……本当は最初から一階層にいたのではないでしょうか? それも誰かの意思によって……」


サリアは少し不安そうな表情のままそう自分の思いを伝えてくる。


たしかに、昨日今日と遭遇した魔物は全て大きな群れをなして軍として動いていたような気もする。

だが……迷宮の外には結界があるし、それが破られるなんてことは信じられないし想像もできない


だから僕は。


「気にしすぎじゃないかなぁ……考えすぎだよ」


そう返答した。


「しかし……」


「勿論用心するに越したことはないけれど、今からビクビクしていても何もできないでしょ? 今はただ、いつもどおりやればいい……僕はそう思うんだけど」


何かが起こってからじゃ遅いのかもしれないが、何もわからない状態で闇雲に探し回っても、逆に空回りしてしまうだけ……ならば今はいつもどおりに行動をしていけばいい……。

そう僕の思いを伝えると。


「……そうですね、確かにマスターの言うとおりだ。 すみませんでした、変な話をして」


サリアは一つ微笑んで、ソファから立ち上がる。


「もし、魔物の軍隊が王都に現れたら、サリアはどうするの?」


ようやく少し重い空気から解放された僕は、気分転換に興味半分でそんな問いをサリアに投げかけてみた……すると。


「何も変わりはありません……たとえ何が起ころうとも私は貴方を守る剣となり、盾となる……それだけなのですから」


サリアはいつもどおりの凛々しくこちらも惚れ惚れしてしまうような笑顔を向けてそういい、僕は胸にちくりと何かが刺さるような感覚を覚える。


……本当は、僕が君を守りたいのに……。


「うわっちゃあああああ!? 死ぬっ!煮えるううぅ!?」


そう呟こうとする前に、家の中にティズの絶叫が木霊し、案の定シオンが湯加減を間違えたことを告げる。


「私が助けてきますね……マスター」


「ああうん……後できればお湯加減も見てあげて」


「はい、任せてください」


女湯と化している風呂場に入るわけにも行かず、僕はサリアに全てを任せて一人リビングに残る。



「……強くならなきゃ……」


一人残され、静寂が包み込むそんな場所で、僕はひとり天上を見上げたままそう呟いた。


                   ◇


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