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主神クレイドルVS英雄王ロバート

「風穴開けてあげるわ‼︎ スキル『クイックドロウ‼︎』」


 怒声と共に引き金を引いたのは女神であり、轟音と共にリボルバーから3つの弾丸が放たれる。


 ほぼ同時に聞こえた発砲音。

 しかしクレイドルの攻撃は正確にロバートの心臓、太もも、利き腕である右腕を正確に捉えている。


 常人であれば、距離10メートルをコンマ1秒にも満たない速度で0にするその45口径弾を回避することはできない。


「遅い」


 だがロバートは剣を引き抜くと、他愛無いと言わんばかりにその弾丸を3つ空中で弾く。


 切り落とされた銃弾は真っ二つになり床に転がる。

 常人では考えられない身体能力。

 齢50を超える老人だと言うのにその剣筋は衰える気配すら見せていない。


「良かった、老いさらばえてこれすら避けられなかったらどうしようかと思ったわよ」


「はん、甘くみるのも大概にせんか悪神め。 あまり舐め腐るようだと次はその首が床を転がることになるぞ。それとも、貴様こそ歳を重ねすぎて魔導術式ロストマジックの扱い方を忘れたか?」


 挑発をする様に笑うロバート。


 それと同時に剣を構えると、銃弾のお返しとばかりにクレイドルへと突進する。


 まるで獅子の突進かの如く荒々しく迫る巨体。

 咆哮すらあげない物のその振り上げられた刃は触れたら命がないことをクレイドルは悟り、回避行動をとる。


 しかし。


「逃すかぁ‼︎」


 ロバートはそう叫ぶと袈裟斬りに降った刃の軌道を変えてクレイドルを追尾する。


「あいっ変わらずしつこい剣ね」


 しかし、クレイドルは冷静にリボルバー の銃口を剣の刃先に向ける。


「!」


【First act】


 短い詠唱。


 同時にクレイドルの手にあるリボルバーの銃身から光が放たれ、無数の文字が浮かび上がり。


「ばーん」


 クレイドルの少し間の抜けた声に続けて、銃口より放たれた閃光がロバートの剣を弾き飛ばす。



 魔導術式(ロストマジック)


 現在の階位魔法とは異なる、古の鉄の時代に存在した文字を使った魔法。


 ルーン文字を参考に編み出されたこ魔法。


 魔法を宿す文字により神秘をこの世界に体現すると言う構造こそ同じであるが、この魔道術式に用いられる魔法の文字の量はルーンのざっと五千倍。そしてさらに、文字の組み合わせによりより事細かにより複雑な魔法を作り上げることを可能とした魔法技術である。


 とはいえ膨大な文字の全ては鉄の時代の崩壊と共に失われてしまった。


 いや、正確には鉄の時代崩壊の引き金となったロストマジックをクレイドルが意図的に失わせたと言うのが正しいか。


 危険すぎる故に、主神によりその存在を否定された魔法。


 故にロストマジック。


 そのため、この世に残されている魔道術式は、主神の親の形見である45口径リボルバー【クローバー】のみである。


「ちっ、ただの鉛玉が稲妻(ライトニングボルト)レベルの破壊力を持つか……相変わらず出鱈目だな。魔道術師(ロストマジック)って奴は!?」


 苛立たしげにそうロバートは呟くと、クレイドルは口元を緩めて今度はロバートに銃口を向ける。


「稲妻程度に感じたなら、これでこの戦いはおしまいよロバート!」


「!?」


 体制を崩したロバートに向かい、クレイドルはシリンダーに残った銃弾を放つ。


 薄緑色に光るオリハルコン製の銃身から放たれる二発の弾丸。


 その銃弾は、ロバートの体を貫いた。


「っぐう!?」


 致命傷を狙った心臓と頭部を狙った二発の弾丸は、稲妻さえも見切るロバートの右肩と左腕に命中し、赤いものを噴出させる。


「へぇ、これを躱すなんてね。あんたやっぱり人間じゃないわね」


 感心するように膝をつくロバートの目の前で、クレイドルはリボルバー に新たな銃弾を装填する。


 そんな姿にロバートは舌打ちを漏らしながら、「ふざけやがって」と小さく漏らした。


「今まで、私は戦えないとか言ってのらりくらりと金集めばっかりしてたくせに、しっかり戦えるじゃないか。大嘘つきめ」


 苦言を呈するロバートだったが、クレイドルはいいえと首を振る。


「過干渉して世界がおかしくなるのはもう勘弁なのよ。それに、戦えないってのは本当よ……今あなたに手傷を負わせられたのも、全部この銃のおかげだから」


 そう言ってリボルバーを膝をつくロバートに突きつけるクレイドル。


「そうか……ならばその神秘をまずは断ち切ろう」


 瞬間、ロバートの体が陽炎のように揺れる。


「なっ!? 嘘でしょ!? 幻覚!?」


 驚愕にクレイドルは声を漏らす。


 同時に。


「戦いから逃げたこと、それがお前の敗因だクレイドル!」


 背後からの凶刃が主神の背を切り付ける。


「っつーーー!!?」


 苦悶の声と同時に、赤いものを噴出させるクレイドル。


 天衣無縫なる白いドレスは赤く染まり、翼を力なく羽ばたかせながら、クレイドルは膝をつく。


「確かに、恐るべき魔弾だが、使い手が素人では恐るるに足らん」


「影分身……王様が騙し討ちとか、随分と卑怯な真似するじゃないの」


「何を戯けたことを、王だからこそ影武者で人を欺くのが許されるのだろ?」


「減らず口」


「お前が言うか」


 殺し合いの最中というのに、二人の会話は友人とのやり取りのように他愛無く。


 クレイドルはよろよろと立ち上がるとクローバーを構える。


 だが。


「まずはそのおもちゃを壊させてもらおうか」


 一足でロバートはクレイドルの元まで踏み込むと、流れるような切り上げでクローバーの銃身を両断する。


「!? オリハルコン製の銃身を!?」


「終わりだクレイドル……どんな心境の変化かは知らないが、舞台を降りたお前に今更出る幕はない。迷宮の終わりを、いつも通り傍観してるがいい!」


 そう叫び、ロバートは戦う術を失ったクレイドルに剣を突き立てる。


 一撃はクレイドルの胸を貫き、赤いものが噴水のように大地に降り注ぐ。


 だが。


「あーあ。負けちゃったかぁ。もう少しいけると思ったんだけどなぁ」


 口惜しそうにクレイドルはそう言うが、その表情と台詞は軽い。


「ふん。心の臓を潰されて表情ひとつ変えぬか。相変わらず気色の悪い生命だ」


「あったりまえでしょうが。何年生きてると思ってるのよ。今更心臓ひとつ潰されたぐらいでギャーギャー騒ぐほど子供じゃないわ。一回死んだら終わりなんてルールなけりゃ、いくらでも食らいついてやれるのに。そう言う意味ではこのゲーム私にとって不利すぎよ」


「何をしても死なないお前と耐久戦などごめんだ……さっさと消えろバカ女神」


「ええ。ちょっとは可能性があるかと思って挑んでみたけど、やっぱりあんた強すぎね。完敗だわ……だから」


「!?」


 勝負がついたと油断していたロバートの眼前に、もう一丁のクローバーを突きつける。


「なっ!?」


「いつも通り、嫌がらせだけして退場させて貰うわ?」


「!?貴様、それは!?」


「ずっと黙っててごめんなさいね。実は私の愛銃は、二丁拳銃なのよ」


「この、大嘘つきが!?」


「安心しなさい、この弾丸があなたを傷つけることはないわ。ただ、私の愛(呪い)がかかるだけ。計画通り、あなたに私の祝福をあげる。そうしないとあなた、この戦い負けちゃうんだもの」


「!!!?」


 そう言うと、クレイドルは引き金を引いた。


 轟音と同時に、クレイドルの脈拍は止まり魂は迷宮の外へと弾き飛ばされる。


 残されたロバートに外傷はなく、静けさを取り戻した玉座の間でロバートは苛立たしげに鼻を鳴らす。


「あの女神、何を考えている」


 女神の言うとおり、自らの体に外傷はない。


 むしろその身を包む感覚は、長年の疲労や魂の摩耗さえも消え去った、全盛期さながらの状態へと戻っている。



 スロウリーオールスターズのリーダー。


 かつてメイズマスターを打ち滅ぼしたもの。


 そんな自分が、メイズマスターにすらなっていない少年に負けるわけもないと言うのに、女神の祝福は全力で挑めと鼓舞をするように力を漲らせる。


「わけがわからん……わからんがまぁ、やることに変わりはない」


 そう。


 女神の横槍が入ろうが関係はない。


 王である以上、そして友を助けるために、邪魔になるものは皆排除する。


 このフェアリーゲームに勝利すれば、その目標は目前になるのだ、女神が背中を押してくれると言うならなおのこと。


 それがどんな思惑だったとしても、利用できるものはすべて利用して、必ずアンドリューを助け出して見せる。


 そう、何度も誓った覚悟を心の中で復唱し、ロバートは聖剣を鞘に収めようとし、その手を止める。


「きたか」


 扉に視線を向けると、ゆっくりと玉座の間の扉が開く。


 護衛や衛兵がどうなったのかなど、疑問にすら感じることはなく、当然のようにロバートは聖剣を構え。


「決着を付けようか、メイズイーターよ」


 静かに歩み寄る魔王(ウィル)に向かってそう呟いた。


大変長らくお待たせしました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 生きとったんかワレェ! 思わず昔読んでた頃に何故か入れてなかった星入れたよ!
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