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最終兵器ティズ

【なんという膂力か……これが獣の王】


 苦悶を漏らすように呟くレオンハルト、その眼前でティズはなぜか偉そうに胸を張っている。


「ふっふーんだ‼︎ 当然でしょ、伊達にロバートたちと修羅場乗り越えてないってのよ‼︎」


【そのようですね……ですが知っていますよ。 この獣王はかつて、わたしが取り込んだこの魔物、フェンリルに敗れているということも‼︎】


 そういうと、レオンハルトは一度横に飛んでから獣王の側面に爪を立てる。


 膂力に勝る獣王ではあるが、巨大な角のせいでレオンハルトのような機敏な動きは不可能であり、ツノを振るい迎撃をするもののその横腹に爪が突き刺さる。


「―――‼︎?」


 苦悶するように声が漏れる獣王。 そのまま牙を立てようとするレオンハルトを間一髪のところで吹き飛ばすことに成功をするも。


 どちらのダメージが大きいかは明白であった。


【たしかに貴方は獣の王でしょう。ですが所詮は草食動物……肉食動物である獅子に叶うはずがありません】



 勝ち誇ったように前足についた獣王の血を舐めるレオンハルト。

  

 苦しそうに息を漏らす獣王の体は諾々と血が流れる。

 だがそれでもティズは不敵な笑みを浮かべたまま。


「興奮しているところ悪いけれど、あんたこそ忘れてるんじゃない? スロウリーオールスターズを、勝利に導いた女神あたしの力を‼︎」 


【‼︎?】


 その権能を発動する。


「我が微笑みの先にあるは勝利の二文字。苦難逆境恐るるなかれ、常勝の女神ここにあり‼︎結局結末、最後に笑うのはこの私ッ‼︎‼︎『パーフェクト・ヒールオール‼︎‼︎』」


 権能の発動とともに、ティズ……いや、永遠女王ティターニアの体が光り獣王を包み込む。


 それは一瞬の出来事であったが、しかしその光景にレオンハルトは目を丸くする。


 何故なら、自らが与えた獣王の傷が跡形もなく消え去っていたからである。


【なるほど、回復魔法。この巨体の傷を一瞬で消し去るとは、随分な魔力……だが、結局回復には魂の損耗というデメリットもある‼︎ 純粋に振り出しに戻ったわけではありません】


 レオンハルトはそう叫び、驚愕はすれど恐ることなく獣王へと飛びかかり。


「ばかね……ただの回復じゃ、勝利の女神なんて呼ばれるわけないじゃない。ポチ太郎‼︎全力全開‼︎‼︎」


「―――――――‼︎‼︎」


 ティズの声に応じるように、獣王は自らに魔法をかける。

 魔力こそ膨大であるが、展開された魔法はただの身体強化。レオンハルトはその選択を嘲る。


【……身体強化をしたところで、魂を磨耗した状態では弱った体を補うことしか出来ないでしょう‼︎ 愚かな、ただ自らに負荷をかけて敗北を早めるだけです‼︎】


「それはどうかしら?」


 怒号と共に獣王はレオンハルトへと突進を仕掛け、速度で翻弄をしようとしたレオンハルトの腹部を角で突き刺す。


 その動きは先ほどとは比べものにならないほど機敏であり、動きを捕らえられたレオンハルトはなす術もなく血を流しながら大地に横倒しになる。


【‼︎?ばかな、なんだこの動き……さっきとはまるで別物】


「あーっはっはっはっは‼︎ 驚いたかしら‼︎ 私はクレイドルみたいに死んだ人間を生き返らせることは出来ないけれど、そのかわり魂をリソースにせずに人を癒すことが出来る。だからこうやって、本来だったら全身から血を吹き出すようなむちゃな身体強化を施したって、ポチ太郎には一ポイントのダメージも入らないって寸法だし、ダメージを与えたところで即死させなきゃ私が癒す‼︎ 永遠女王の永遠ってのはね、永遠無限に兵士を戦わせられるって意味なのよ‼︎」


【なっ‼︎? そんな無茶苦茶な……】


「無茶苦茶しないで、戦争が止められるかってのよ‼︎ これが私、スロウリーオールスターズのリーサルウエポン‼︎ ロバートの馬鹿に終わったら伝えなさい、あんたの敗因は私たち親子・・を敵に回した事だって‼︎ ポチ太郎‼︎‼︎ とどめ行くわよ‼︎」


 ティズの合図と共にポチ太郎とティズの魔力の奔流がレオンハルトを覆い。

 同時に突き刺された傷から命が芽吹く。


 一つ、また一つと芽吹く双葉はみるみるうちに伸びていき、レオンハルトの体を包む。

 それは触手のように、あるいは蛇のように体の力を奪い、レオンハルトはもがき苦しむも千切られては生まれ、噛み切られるたびに、レオンハルトの血を吸い木々や蔓が生まれ伸びる。


【ぬっ……ぬあああああぁあああぁ‼︎?】


 悲鳴を上げる頃にはすでにレオンハルトの体は大木に挟まれるように封印され……やがて様々な植物が集合して作られた巨木が迷宮に立ち、その巨木から一つの魂が空に消える。


「あーっはっはっはっはっっはっはっはっっは‼︎ 完全勝利―――‼︎‼︎ やっぱりこの私が、さいっきょうなのよーーー‼︎」


 誰一人いなくなった魔王城前にて一人楽しそうに騒ぐティズの笑い声が響き。


 戦いは最終局面へと移行するのであった。


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