表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/459

37.一件落着とサリアの話

「コボルトキングを倒したのはお前達か?」


そんな王国騎士団長レオンハルトの問いに対し。


「ああ」


倒したのは僕達で間違いないし、僕はとりあえずイエスと答えると。


「気付いていたのか?」


 短くレオンハルトはそう聞いてくる。

 それがコボルトキングだと気付いていたのか? という意味だろう。


「いいや、偶然だ」


 まさかいきなりコボルトキングなんて強敵と戦わせられて、気付いてたら足が震えて逃げ出せなかったんじゃないだろうか。

  本当に知らなくて良かったよ。

「なぜ気付いた?」


 随分とコボルトキングについて詳細を知りたがるな……。 


 リリムさんが言ってたけどやっぱり下層の素材ってそんなに価値が高いのだろうか?


「教えてもらった」


この国では、ギルドやクリハバタイ商店だけではなく全ての店というものが守秘義務に縛られる。

顧客情報、誰が何を売ったとか買ったとかいう情報は特に、この前の僕のような強盗事件に直結するからだ。


(だというのに大声で漏らしていた僕は相当間抜けなのだが)


あの神父でさえもその例に洩れず、顧客情報の保護は絶対なものと確立している。


未だに僕が伝説の騎士だとバレていないのは

そこによるところが大きい。


なので、オークの巣の討伐やコボルトキングのはなしは良いのだが。


流石にリリムさんの名前を出すと、リリムさんの親しい友人というくくりから僕のことが分かってしまう可能性はある。


そうなればリリムさんにも迷惑がかかるし、ばれなかったとしても王国騎士団が店の中に入っていくなんて、店の評判を落としかねない。


ここは名前を伏せておこう。


 うん、これが正解だろう。


「オークの巣もお前達が?」


「ギルドに張り出されていて、誰も受注しようとしていなかったからな」


「そして今回の騒動も? 随分と人助けが好きなんだな」


「誰かが困っていたら助けるのは当たり前だ」


「ふふっ。 そうか」


まじめに答えたつもりが苦笑を漏らすようにレオンハルトさんは僕の言葉に笑みをこぼす。


何か変なことを言っただろうか?


「これからはどうするつもりだ?」


「迷宮にもぐる。 それだけだ」


「……分かった、ならば我々王国騎士団も出来る限りの助力はしよう」


え? なんで?


「困ったことがあったら王城を訪ねてくれ……私はレオンハルト、ロバート王率いる王国騎士団の騎士団長を勤めているものだ……引き止めてすまなかったな。 帰って体を休めてくれ」


そう笑うと、兵士達は敬礼のポーズを取ったまま道を開けてくれる。


最後になんで僕達に助力をしてくれるなんていったのかは知らないが、とりあえずその場で逮捕、拘束という最悪の展開は回避できただろう。


サリアがなぜかとても得意げに微笑んでいるのが少しばかり気になったが、そんなことよりも早く帰って横になりたい……。


そんなことを思い、僕はまだ激しく動き続ける心臓を鎧の上から無意味に押さえながら、冒険者の道へと仲間と共に帰る。


背後の親衛隊も撤収のようで、振り返ってみてみると誰が見ているわけでもないので整列をしたまま整った足並みで王城へと向かっているのが見える。


整った足音は結構なのだが、もう少し夜だということを配慮したほうがいいのではないだろうか……。


もはや王国軍の旗の紋章も見て取れないほど距離が離れた場所にいるというのに、その足音はそこらへんの打楽器なんかよりもはるかに大きな音を響かせてしまっている。


「国王新鋭隊長、レオンハルト……最後に随分な大物が登場しましたが、流石はマスター……あの高度な読み合いを制し、助力を約束させるとは」


「どんな内容だかは分かったの?」


「いいえまったく! しかし、レオンハルトがマスターとの問答に敗北し、助力を申し出る……ということだけは理解しています。 やはり、マスターに近づいたなどとおこがましい発言だったようですね……」


そんな現在進行形で市民の健やかなる安眠を阻害しながら町を闊歩する軍隊を見ながら、

サリアは目を輝かせて僕を褒め称えてくる。


「あ、ありがとうサリア」


当然僕としては何が起こったのか僕もまったく理解が出来ていないので、とりあえず褒められたことにお礼を言っておく。 


実際はあの場で何が起こっていたのかをサリアに聞いてみたい心もあったのだが、聞いてサリアを幻滅させたくはないので、ここはサリアの都合のいいように解釈をさせておこう。 


「どうでもいいけど疲れたわよ本当に……こういう日は早く帰って朝まで騒ぎましょう?」


「ティズ、途中に入る言葉がちょっと間違ってる気がするんだけど」


「間違い? ゆっくり帰ったほうが良かった?」


「違うそこじゃない。 疲れているのに朝まで騒ぐって言うのは、矛盾している気がするんだけど」


「矛盾? やーねウイル! 矛盾って言うのはね、辻褄が合わないことを言うのよ?」


「そうだよウイル君、疲れているからこそ朝まで騒いで疲労を吹き飛ばさないと! 病気だってそうやって治すでしょ?」


あれ? おかしいな……疲労ってそんな病気みたいな治し方するんだったっけ……。


というか病気だって騒いでも治らないと思うんだけど、レベル10の冒険者にもなるとそれで治るのか? 


「どうしよう、段々と自分が抱いていた常識が揺らぎ始めた……」


「落ち着いてくださいマスター。 マスターの常識は間違ってはいませんよ」


サリアが壊れかけた僕の日常を優しく癒してくれる。 よかった……僕の常識が間違っていたわけじゃなかったんだね。


「そうだよね、騒いで疲労回復なんて……」


「お酒で回復するんですよ」


一瞬にして常識が瓦解する音がした。


「あ、そっか。 うっかりしてたよー」


「お酒は百薬の長。 ある伝説のエルフの剣豪Sは言いました、 ~酒一日忘るるもの三日の疲労を背負う~とね」


Sって絶対サリアじゃないかそれ!


「そーよそーよ! というわけで帰ったら飲み直しよウイル! 金貨一枚分一日で飲み干してやるんだから! これで今日の頑張りも報われるってものよ!」


「ティズちん基本的に何もしてなかったけどその意見にはさんせー」


「今日は騒ぎましょう、皆さん……無礼講、です!」


「近所迷惑でまたお隣さんに怒られる……」


僕はため息を一つつき、冒険者の道の先にある我が家へと歩いていく。


王国騎士団の凱旋とは程遠い、騒がしく馬鹿みたいなでこぼこな凱旋だが振り返れば幸せそうな三人の女の子の表情が並んでいる……。


「まぁ……いっか」


騒がれたり巻き込まれたり刺されたり……本当に色々あった一日ではあったが、この笑顔で全てが吹き飛んだようだ……。


お酒ではないが、僕にとっては彼女達の笑顔が、一番いい薬なのかも知れない……。


「い、いつつつ!?」


あ、ごめんやっぱ嘘……帰って寝よう。


                    ◇

「ただいまー! つかれたー オフローそんでもっておさけぇ!」


扉を開ければ家をでたときと何一つ変わらない状態でそこにあり続ける我が聖域は、いつものように明かりを灯すと僕の到着を喜んで迎えてくれる。


「私の部屋は、ここにすることにしたんだー。 ねー?ティズチン」


家具等や日用品を購入する前に、一応シオンはティズとうちを訪れていたらしく、シオンは使われていなかった客室を指差してニコニコと笑顔を振りまいてくる。


丁度サリアの隣の部屋のため、男性の部屋と女性の部屋はリビングを挟んで隔離できたようだ。 うん、これなら年頃の僕も悪い出来心を生み出すことがなくて安心だ。


「しかし、本当にいい家ですよねマスター。 レベル1冒険者は馬小屋で寝泊りするのが普通なのですが」


「ふっふーん、ここは昔ウイルのお父さんが住んでたらしい家でね! 息子だって話をしたら大家さんが一月銀貨一枚という破格の数字で提供してくれたのよ!」


「銀貨一枚!? すごーい!やっすーい!ウイル君のお父さんってすごい人だったんだねー!?」


「すごかったかはわからないけど、まぁ助かってはいるかな」


お父さんを褒められて少し嬉しい気持ち反面なんだかこそばゆく、僕は頬を書きながら苦笑をもらす。


「さて、早速飲みなおしといいたい所ですが、マスター。 先にお風呂にしましょうか」


「えー! 先に飲もうよー!?」


「だめだ、お酒の後の湯浴みは体に悪いし、なにより潰れて寝ちゃうでしょう二人とも」


「あう~すごい時間掛かるじゃない! 今から火をたいて! お湯張って!」


時間を刻む水晶を見てみると、時刻は既に11時を回っている。


お風呂が沸くころには恐らく次の日を迎えているだろう。


「大丈夫だ、問題はない。 今日からなんたってシオンがいるのですから」


そういわれると、シオンは一瞬目を丸くして何で私? なんて素っ頓狂なことを言ってくる」


「先ずは、ウオーターでシオンに水を張ってもらって、炎武のスキルで一気に水だけを熱してもらう……炎を操るんだからいい感じの湯加減にすることも簡単なはずです」


「おおおお! 今までそんな便利なことに使えるなんて、思いもしなかったよ」


なぜ気付かない。もしかして炎武の村の人間がみんなこう天然なのか?


「え、つまりシオンがいれば、毎回お風呂を好きなときに好きなタイミングで……しかも

薪も水汲みもなに一つ必要なくすることができるってこと!?」


「そういうことだ」


サリアはとてもいい表情のまま胸をはり、ティズはその現実に目を輝かせる。


「すごいじゃないシオン!! あなたって本当に最高の仲間だわ!」


「本当!?」


「ええ、早くお風呂沸かすところみたいわ! シオンお願い!」


「分かったよ! 私に掛かればお風呂なんてちょちょいのちょいだよ!」


「レッツゴー!」


ティズとシオンはもう酔っ払っているのかと思うくらいのハイテンションで浴室へと走って行き。


「メイク! ウオーター!」


「きゃー! すごい!すごいわよシオン!」


浴室の扉を閉めているというのに元気な声がリビングまで聞こえてくる。


元気なことはいいことなのだが、間違って熱湯風呂とかを作らないでくれればいいけど。


「さて……二人きりになりましたね……」


浴衣姿のサリアはそういうと、苦笑を漏らしてソファに腰をかける。


「今日のことで少しお話があるんですけれどいいですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ