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サンライズ

「うっほ……逃げられてしまいましたか。ですが問題はありません。 ここであなたをすぐに打ち倒し、追いかければ間に合うでしょうからぶぅふ‼︎?」


ニヤリと笑うイエティ。 しかしその言葉が言い終わるや否や突き刺さる拳により、意識が刈り取られかける。


「そんな余裕、果たしてありますか……ねぶふぅ‼︎?」


しかし、世界最硬の生物としての威厳か、踏みとどまったイエティは、返す拳でカルラの顔面をうちすえる。


通常であれば首が飛ぶその破壊力……しかし、カルラの瞳はひるむことなくイエティを睨みつけ、さらにその細腕でイエティの意識を刈り取らんと拳を打ち込む。


「ごっふぅ‼︎? あなた、本当に人げ……ぐふぅ‼︎?」


その激烈な拳はまさに神業。

さらに彼女はあのアルフを打ち倒した直後であるという事実が、イエティの驚愕をさらに上塗りする。


スロウリーオールスターズに、それに肩を並べる大英雄。

その二人を相手取り一歩も引かず牙を剥くこの少女の存在に、イエティの脳裏には人の形をした怪物を相手に戦っているかのような感覚を植え付ける。


(ですが……怪物だろうと関係はありません、なぜならそんなもの、いくらでも退けてきた‼︎)


うちすえられた拳……頬骨が嫌な音を立てて砕かれ、鼻からはだくだくと血を流しながらも、イエティはさらに拳をカルラへと打ち出す。


ごきり、という音ともに少女の口からは血が漏れ出し、雪原へとポタリと落ちる。

血が出る……それはつまり殺せると言うこと。


ひるむことなく打ち出される拳にイエティはそう安堵すら覚えながらも、次に来る拳に意識を一瞬手放しかける。


一度……二度……気づけば十度。


繰り出される拳を躱すこともなく、互いにその身に拳を受け入れる。

そこに戦術はなく、あるのはお互い、己の肉体、もしくは技への信頼のみ。


共に一撃必殺を誇るその拳。


其れを気がつけば、互いに二十もぶつけ合う。


拳の練度も鋭さも体格差を考慮しても互角。


力で圧倒するイエティに、技量で食い下がるカルラ。

ゆえに勝負の行方は純粋な体力に落ち着くわけだが。


(妙だな)


ここでイエティは疑問を覚える。


アルフとの連戦を終えた直後のカルラ。

この戦いにおいてのカルラの負傷は戦闘に支障はない程度のものであったといえど、その傷は確実にカルラの体力を削りきっているはず。


そうなればカルラの敗北は必死。カルラも最初の打ち合いで其れを理解していたはず。


であればなぜ、それがわかっていながらなぜカルラはワンシェイクハンドデスマッチをイエティへと挑んだのだろうか。


「罠か……それともただの時間稼ぎか……イエティさん、あなた今そうかんがえましたね? 当然、両方に決まってるじゃないですか‼︎」


戦いの最中の疑問、それがわずかだが表情に現れたのか。 カルラの言葉にイエティはハッとする。


ボロボロの顔に、不敵な笑顔。


「あなた、まさか」


気付いた時にはもう遅い。


イエティはその腕から逃れるために、古代魔法アイスエイジを発動しようとするが。

体は魔法を忘却したかのように発動を拒む。


「シオンちゃん特製、【魔封じの呪い】純粋に魔法を使用できなくする魔法ですが、もともと魔法の使えないわたしには効果はありません……そして、私の呪いは侵食性……形与えにより、あなたの体にしっかりと呪いをうめこみました……そして‼︎」


「ぐっ……しかし魔法を封じようと、神秘の軌跡ならば止めることはできません‼︎ ディスぺぶふぅ‼︎?」


解呪の神秘を唱えようとしたイエティの顔面に拳が刺さり、詠唱が中断される。


肉弾による物理的な呪文対抗。


このワンシェクハンドデスマッチは、妨害することのできない奇跡魔法を妨害するためのものなのだと、揺らぐ意識の中でイエティは悟る。


単純でありながら斬新なその作戦に、イエティは目を白黒とさせながら、知恵比べにおいて自らが完全敗北をしたことを悟る。


これは個人戦ではなくチーム戦である……仲間を失った時にきづくことができなかった当たり前のことに、イエティはこの時ようやく気がつくがもう遅い。


凍てついた世界に……終焉の炎が舞い降りる。



「我が血は炎、我が身は灰……我と共に歩むは魔獄の主人。 日輪をも焦がす黒き焦熱よ、我が望みに応え再度天を焼き尽くす反逆を示せ。 汝、我が灰の一つ。 叛逆の焔を猛らせ、今軍となり天への復讐を成し遂げん。 赤く、紅く、朱く。先を行くものよ、我が高速の解除をここに許さん」


膨大な魔力があたりを満たす。

溢れ出ると言うよりは、決壊したという表現が正しいほど、胸を焦がすほど濃厚な魔力に、イエティはここに来てようやくことの重大さを理解する。


なんてことはない……こうしてカルラがイエティを拘束したのは。

純粋に今ふたりが持ちうる最大火力を、イエティに全力でぶっ放すためだったのだ


「く……くそっ、離せ‼︎」


慌てるようにイエティは二度、カルラの顔面へと拳を放ち、シオンの魔法の完成をとめようとするが。

カルラの手はがっしりと掴まれたまま振りほどくことが出来ず。

お返しとばかりにイエティの顎に細い腕が三度叩き込まれ、意識が遠のく。


【全666魔術拘束、解放申請受理。 技能拘束、魔力制限、魔力心臓拘束、炎武制限、身体拘束、使用可能魔法制限……その他全項目の拘束、制限の解除……シオン・L・ルシフェリアの承認受諾後実行】


「承認‼︎」


凍てつく大地はその言葉と同時に熱を持ち。

シオンの周りの雪が一斉に溶ける


灰色のシオンの神は朱く染まり、炎を宿らせたかのごとく煌々とした輝きは、一つ光を放つたびにイエティの肌を焼くように大気の温度を上昇させる。


『承認確認。 術式名・大魔道炎武・拘束解除』


「いっくよー‼︎ 変身‼︎ からの……」


魔族の姿を表したシオンは、そのまま杖を振りかざすと、決壊したかのように辺りに流れ出す魔力をイエティへと集め。


……その場に日輪を作り上げる。


「うほおおおおおおぉぉおお‼︎‼︎」


全力を込めて、その一撃を回避しようとイエティは足に力をこめるが、握られたカルラの手がその逃走を許すはずもなく、古代魔法による抵抗を試みるも、魔力は体から漏れ出すこともない。

大地に固定されたまま日輪に二人は飲み込まれる。


【サンライズ‼︎】


まばゆい光があたりを包み込み、氷河の世界は日輪の登場により終了をする。


やがて、光が消えた王城前。


そこには世界最硬を誇る生物の姿はなく。


満足気に芝生の上に大の字になって横たわるカルラと。


赤い髪を煌々とかがやかせながら杖を構えるシオンの姿のみが残るのみとなったのであった。




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