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ワンハンドシェイクデスマッチ

「うほお‼︎」


動きのとまったカルラに対し、イエティはすぐさま上に乗るカルラに対し頭突きを飛ばすが。

カルラは迷わずに凍りついた腕を手刀で切り落とし、飛んで離脱をする。


「カルラ⁉︎」


右腕を失ったカルラに僕はすぐさま駆け寄る。

ぼたぼたと腕から赤い血を流しているが、カルラは平然とした顔をしている。

しかも、それどころか。


「ごめんなさいウイルくん、あそこで仕留めるつもりが……」


なんて謝ってきさえしたのだ。


「カルラ、そんなことより腕が」


「問題はありません、自動回復のスキルは発動していますのですぐに血は止まるはず。 腕もシンプソンの元に行けば繋げてもらえますから、そんなに心配しないでください」


片腕を失いながらも笑顔を見せるカルラ。

そんな表情に僕はつい声を荒げて強引に腕を取る。


「バカカルラ‼︎心配しないわけないだろう‼︎ 腕がちぎれて痛くない奴なんていないだろ⁉︎

蜘蛛糸で縛って止血するから……痛み止めは、確かティズの作った軟膏があるから」


スキルの蜘蛛糸でかるらの腕を縛って血を止め、ティズの作った軟膏で傷口を覆う。


「これで一安心な筈だ」


「あうぅ……ありがとうございますウイルくん……でも、ゲームが終わったら全部元に戻るのに」


「終わるまで痛みに耐える必要もないだろう? スキルを使えばそんなに時間がかかるものじゃないんだ。それに、出血状態であんなのとまともにやり合ったら、それこそ勝率を下げちゃうだろう?」


そう言って僕は、顎で本物の怪物を指し示す。


呆けたようにたちあがり、ため息を漏らすイエティ。

カルラの攻撃はたしかにイエティに手傷を負わせたものの、有効打にはならなかったらしく煙を上げて傷が修復されていく。


「ちょっとー、反則じゃないのあれー⁉ 普通の人間はあんな速度で傷治らない筈なんですけど⁉︎」


「まぁ私、ゴリラですから」


「あ、そっかーそれならしょうがないねー」


「ゴリラでもあれだけの速度で傷は治らないと思いますが」


「そうですね、野生の力に鍛え上げられた肉体が融合して生み出されたスキルのようなもの。 体を硬質化させるのも、元々は私の一族に伝わる遺伝的なスキルでありまして……えぇだから驚いていますよ。 磨き上げられたスキルと生物として生まれ持ったこの体。 その天然の鎧をまさか素手で抜かれるとはね……その鋭さ、一体いくつもの研鑽を積み重ねれば辿り着くというのか……さしずめ私の体が磨き上げられた鎧だとするならば、あなたのこの手は鍛え続けた刀といったところですか」


肩をすくめてそう語るイエティは、カルラが切り落とした腕に目をやり呆れたような言葉を漏らす。


「へっへーん! あったりまえでしょー、カルランは強いんだから! それに我慢強くて、それでいて可愛くて、さいっきょーなんだから!」


称賛の言葉を送るイエティに対し、なぜかシオンは胸を張る。


「し、シオンちゃん恥ずかしから⁉︎ なんで私よりもシオンちゃんの方が得意げなの?」


カルラはそんなシオンを慌てて止めようとするが。

シオンが言ってくれてよかった、もしだれもやらなかったら僕がシオンと同じように胸を張っていたところだ。


「ですが、鍛え上げ同じ極地にたどり着こうとも生まれ持った肉体の差分私はあなたと異なり魔法を取得しています。あなたが無くした左腕。 それが私とあなたの決定的な差なのですよ」


にこりと笑うイエティ。

たしかに、魔法がある分イエティとカルラの間には決定的な力の差が存在する。


彼のいう通り、一対一では勝ち目はない。


「そんなの当たり前じゃないですか」


「うほ?」


「私はとっても弱いです。 こそこそと日陰を歩くことしかできなくて、いつもビクビクして1人じゃ人とお話しすることだって満足に出来ません。 でも、シオンちゃんがサリアさんがティズさんがウイル君が居てくれるから、私は戦える。 あなたみたいに強い人にでも勝てる」


「大きく出ましたね? この埋めようがない力の差をどうやって埋めると? 伝説の騎士の攻撃はわたしには聞かず、最高位のメルトウエイブも私を傷つけることはできない……そしてあなたは片腕。1が3つあっても、10であるわたしには勝てないのですよ?」


単純な足し算ですとイエティは語るが、その言葉をシオンは鼻で笑う。


「バカだねーお猿さんは、計算間違えてるよ」


「うほ? バカな、算数はちゃんと迷宮内で習得しました、計算は間違っていないはず」


「ううん、間違えてるよ。 確かに数字の上では足りないかもしれない……だけどねー、私たちにとっては、1足す1は無限大なんだよ‼︎」


そう言って、シオンは自らの体を赤く染め上げ、魔族である真の姿を表す。


「シオンダメだ⁉︎ こんなところで姿を見せたら、リルガルム全土に君の正体が……」


慌てて僕は彼女の変身を止めようとするが、シオンは首を振り僕の制止を振り切る。


「もうそんなの気にしないよー……誰かに嫌われようが、石を投げられようが構わない……。だって、今はもう私の帰る場所がちゃんとあるんだもん。 魔族こんなの私におかえりって言ってくれるひとがいるんだもん……だから、もう怖くないよ」


にこりと笑い、シオンはカルラへと視線を送る。


「五分保たせて、最大火力でぶっ飛ばすから……」


「了解です……シオンちゃんには指一本触れさせません」


「頼もしいねぇ、流石カルラン……あぁそれとウイルく……じゃなかった、フォース。 あなたは先に王城に……」


「え? 何言ってるんだ……僕も戦うよ? 足止めなら2人の方が……」


「だーめ。魔王の鎧があるからって、ウイルくん実際私の次に打たれ弱いんだから。万が一があったら誰がロバートを倒すの? きっと私もカルランもこれが終わったら役に立たない……それならウイルくんだけでも先に行って」


「シオン」


「だいじょーぶ‼︎ あんなゴリラ、私たちだけでよゆーだよ」


Vサインを作るシオンに、カルラもつられるように片腕でサインを作る。


その姿は、相打ちを狙ったものではない勝利を確信した表情。


「わかった……ちゃんと追いついてくるんだよ」


「もっちろん‼︎」


僕はその笑顔を信じ、王城へと走った。


「おっと‼︎ まさか私を無視して先に往生へダッシュするとは、それを私が許すとでも思ったんですかねぇ‼︎」


叫びながら一足飛びで僕の前へと立ちふさがるイエティ。

しかし、着地をし僕へと拳を振り上げるより早く。

影から飛び出したカルラがその腕を……失った方の腕で掴む。


「これは形与え……‼︎?」


カルラの能力の1つ形与え、ブリューゲルの元で習得した自らの霊体を具現化し、素手で霊体を触ることや、霊体の状態で物に触れることができる力。


それによりカルラは自分の霊体の腕に形を与え、イエティの左腕を握手するように握り動きを封じたのだ。


「イエティさん……我慢比べといきましょう‼︎ 言っておきますが、私我慢強さだけは誰にも負けませんから」


「ぬぅ、迷宮の孤独に耐え続けた私に我慢比べを挑むとは、身の程を教えて差し上げましょう‼︎」


イエティの脇をすり抜けた際……カルラのそんな声が僕の耳に届く。


在ろう事か……カルラはこの巨人に対し、その小さな体でワンハンドシェイクデスマッチを挑んだのである。


「ウイルくん‼︎ 行ってください‼︎」


不安がないといえば嘘になる。

しかし僕はカルラとシオンを置いて王城へと向かった。


なぜなら、一抹の不安はあれど……カルラとシオンへの信頼が不安を上回ったからだ。



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