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ダイアモンド・イエティ

同時連載で、神父シンプソンは教会を追放されたので拾った女神とお金を稼ぎます~異世界投資は何でもありです~を連載しています! シンプソンの大活躍もぜひぜひお楽しみいただければと思います!

【ウイル・シオン王城付近荒野】


【【双爪迫撃!】】


 王城が近づくと同時に響き渡る怒号。

 その声と技の名前がサリアの者であることに気が付くのに時間はかからず、王城近くでサリアが誰かと戦っていることを理解し、同時に聞こえた声からサリアが誰と戦っているのかも理解する。


「……今のはサリアちゃんの声……相変わらずおっきな声だねー」


 のんきにそう語るシオンであるが、僕は聞こえるはずのない人間の声に身を震わせる。


「そんなこと言ってる場合じゃないよシオン……今のはルーシーの声だ」


「ルーシー? ルーシーってあのサリアちゃんのお師匠さんだった? なんでわかるの?」


「一度迷宮であったことがあるから聞き覚えがあるんだ」


「迷宮? いつ会ったの?」


「え、あーえと……迷宮のそで引きにあったときにちょっとね」


「あぁ、あの時かぁ……ティズチンが大泣きして大変だったやつ」(メイズイーター2巻参照)


「その節はご迷惑をおかけしました」


「ボロボロで出てきたときは本当にびっくりしたけど、なるほど剣聖に切り刻まれてたんだねー」


「まぁ、戦ったのはルーシーのゴーストなんだけどね……でもルーシーは迷宮の石の中に半分取り込まれていて、迷宮から抜け出せないはずなのに……こうしてサリアと戦っている。 ゴースト状態なのと、ゴースト化に抗っていたから僕は何とか勝てたけれど……今サリアに奥義を打たせたということは、生前かそれ以上の力をもっているってことでしょ?」


「誰かがサリアちゃんのおししょーさんを石の中から助け出したってこと?」


「そういうこと、まぁ石の中から取り出すだけなら、恐らくオベロンでも可能なんだろうけれども、一番の問題は誰が一体ゴーストになったルーシーを蘇生したのかなんだよね」


 その言葉にシオンはなるほどとうなずく。


「確かにねー、アンデッド化した人間をもとに戻すのは私の大魔導炎武か、それこそシンプソンの神物語ぐらいしか……」


 …………一瞬、僕の頭の中にお金をもらって喜んでルーシーを蘇生するシンプソンの姿が見える。

 そしてそれはシオンも同じだったのか。


「いや、何もおかしくないか」


「おかしくないねぇー」


 ぽんと手を打って納得をしてしまう。

 

 そもそもこのフェアリーゲームにシンプソンが参戦したのも、僕が彼を雇ったからだ。

 それよりも先にロバートたちがシンプソンにルーシーの蘇生を頼んでいても何も不思議なことはない。


 人ではなくお金の払いによって契約を選ぶ……それが神父シンプソンなのだから。


「しかし困ったな、そうなると僕たちはスロウリーオールスターズを三人も相手どらなきゃいけないってことだよね」


「そうなるねぇ」


 のんきに相槌を打つシオンであるが、僕は激しい頭痛に見舞われるような感覚を覚える。


「二人ならまだ何とかなるかと思ったけど、三人はさすがにきついぞ……カルラがアルフを抑えているからいいかもしれないけど、ロバートはさすがにサリアがいないと」


「まぁまぁー、きっと大丈夫だよー。 私もいるしー、ウイル君強いもの」


 シオンはそう語り、僕の肩をポンと叩く。


 その手は頼もしいくらい温かく、シオンは何も恐れないといった表情で神の色を少しだけ赤く染め上げる。

 それは、彼女なりの信頼の証と……最悪ここで魔族としての力を存分に振るうことをいとわないという覚悟の表れ。


 能天気などとんでもない……彼女は僕のために、すべてを投げ出すつもりで隣に立ってくれているのだとその時の僕はようやく気が付いたのだ。


「シオン……」


「えへへー、なんたってウイル君のお嫁さんですからねー」


 はにかむシオン。 僕はその言葉に微笑み返し、握られた手を強く握り返そうと力を籠めると。


「……うっほほ、火傷してしまいそうな暑さですね。 少し冷やしましょうか!」


 聞き覚えのある独特なハスキーボイス。

 

 空中から降り注ぐようなその声と同時に晴れ渡る迷宮の空は曇り。


 【アイスエイジ】


 同時に自分たちの周りだけ、氷河の時代が訪れる。


「っ!? 古代魔法!」


 僕が保有するスキル・古代魔法アイスエイジ。

  

 指定した範囲すべてを凍てつかせ滅ぼす氷雪系最強の魔法であるが。

 それが今スキルではなく魔法として放たれる。


 体温が消え去り、同時に周りの命はすべて凍り付く。

 大気中にはダイアモンドダストが舞い、僕たちは白い息を吐きながら、足もとから凍り付く感覚におぞけを覚える。


【炎熱の加護!】

 

 突然の奇襲に完全に不意を突かれた僕たちであるが、シオンは慌てて無詠唱魔法を唱えると、まとわりつく氷が僕の体から吹き飛び、温かい熱が僕の全身を駆け巡る。


 すると、そんな様子を見ていたのか、襲撃者はパチパチと僕たちを称えるような拍手をして吹雪の中から姿を現す。


「おやおや、奇襲と同時に終わりにしてあげようと思ったのですが、そうそう一筋縄ではいかないようで……うっほほ、さすがは伝説の騎士といった所でしょうかね」


 楽し気に語り現れる白毛に囲まれた獣。

 その体躯は人の倍はあろう程の巨漢であり、全身の筋肉は膨れ上がった風船のよう。

 

 手に持ったバナナを食べながらやってくるその男。

 それは紛れもなく、ゴリラであった。


「い、イエティ!?」


「どうも、イエティです」


 にこりと真っ白な歯を輝かせて現れるゴリラ……ではなく白毛の雪男。

 フロストティターン族最強の戦士であり部族戦争においてはスロウリーオールスターズにも引けを取らぬ武勇を見せた大英雄である。


サリアと同じくアンドリューを追いつめるも迷宮に封じ込められ、今は迷宮五階層でバーを経営しているはずだが。


「イエティもロバートに協力をしていたなんてね」


「うっほほ、みなさんよく勘違いをされるのですが私の本業は戦士ですからね。特にロバートの思惑とかどうでもいいのですが……武勇を示す機会が十七年ぶりに現れたのです。これを生かさない手はないというものですよ。 ゴリラ的に考えて」


「古代魔法を操る巨人族の大英雄かー……あははー洒落にならないよー」


 シオンが珍しく表情を引きつらせ、困ったように杖を構える。

 すでにシオンも膨大な魔力を練り上げるが、あたり一帯を凍結させたイエティの魔力がシオンを圧倒している。


「っすごい威圧……これが部族戦争の英雄」


「ええ、そして私にとって古代魔法など飾りに過ぎない……戦士の本分はやはり、殴り合いですなあ!!」


「っシオン!」


 拳を振り上げ、真っ向から迫る巨人族。

 伝説の英雄の拳は幾重にもスキルが重ねられた暴力の塊であり、僕はすかさずシオンに声をかけると、シオンは練り上げた魔力を形にして槍を放つ。


「串刺しだよー! ライトニングボルト!」


 第十階位魔法ライトニングボルト、威力だけであればメルトウエイブにも匹敵するシオンの得意とする魔法であるが。


「ぬるいですねぇ!」


 イエティはその大魔法を拳にて粉砕をする。


 驚愕に声を漏らすシオンと、炎を意に介することなく迫るイエティに、僕はすかさず螺旋剣を抜きはなつ。


「螺旋剣!?」


 放たれる拳に合わせて放つ螺旋の一撃。

 

 エンシェントドラゴンゾンビ、そして地獄道化フランクを葬ったその嵐の一撃は。

 

 容赦なく振り下ろされたイエティの拳を飲み込み、雪原をえぐりながら吹き飛ばす。


「やった!? これならいくら巨人族と言えども粉々だねー! さっすがウイル君」


 嬉しそうに飛び跳ねるシオンは、くるくると杖を回して勝利の喜びを表現する。


 しかし。


「いやー危なかった……硬度を変えていなければ即死でしたよ」


「うそでしょ……」


 イエティは何事もなかったかのように立ち上がり、体についた雪を払う。

 そこに傷のようなものは一切なく、螺旋剣の一撃を受けて血の一滴も流れていない。


 その代わりに、彼の体は宝石のように光り輝き、拳を握るとミシリという音が響き渡った。


「驚きました? スロウリーオールスターズ最硬は確かにアルフレッドでしょう。 ですが、世界最硬は実はこの私……フロストティターン、イエティ C アザトース。またの名を、ダイアモンド・イエティ! うっほっほ、人の超えられぬ最高硬度とくと味わってもらいましょうか、伝説の騎士!」


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