くびをはねられた!
「ぐぐあああああ!?」
またも大地に叩きつけるように放たれた一撃が、アルフの顔面へとヒットし、勢いよく大地へと衝突したアルフは、ボキボキという音とともにとげがへし折れていき、ワンバウンドをして中空へと跳ね上がる。
衝撃吸収のために体を撥ねやすくでもしていたのか……まるでゴムまりのように高く跳ね上がったアルフは、そのまま二度三度地面を撥ねてやがて止まり、新たなとげが生えてくる。
「なるほど、とげには神経毒ですか……折れやすくして毒の注入がしやすいようになっているんですね。調合も私の免疫に存在しない全く新種。 こほっ……呼吸困難に血液の凝固……心臓麻痺を同時に誘発すると……」
そう語りながら、カルラは手に刺さったとげを引き抜くと、握りつぶして放り投げる。
「……カルラ様冷静に自分の症状語ってますが、死にますよね? あの症状一遍に出たら普通死にますよね?」
「まぁ、カルラお姉ちゃんだから」
「その一言で片づけていいような問題ではないと、神父は思うんですよねぇ」
「この世で最も死なない男が言うセリフではないと思うのよね、シンプソン」
冷静なマキナの突っ込みが草原に響く。言われてみればそうだなとは思ったが、今は関係はないので置いておくことにした。
「な、ナマイギ……ナ!! ドグハ……ギイテルハズダ!」
死なないとはいえ、アルフの言う通り確かに毒は効いている。
カルラの顔は蒼白であり、咳と共にぼたぼたと口からは血が滴り落ちる。
心臓が止まっているのだし、そもそも神経毒だと言っていた。
人体構造のことはよくわからないが、心臓が止まって動けているだけでもすさまじいことであることはわかる。当然のごとくカルラの体はふらついており、苦しそうに足もとをふらつかせた。
そんな隙を見逃すことなくアルフはカルラへと反撃を仕掛ける。
「GAAAAAAAAAAAA!!GUA! GUA!GUAAAA!」
奇声を上げながら放たれる、鞭のようにしなる手足。
その先端にあるかぎづめはカルラの柔肌を容赦なく裂いていく。
あれでは受け身を取ろうがとるまいが関係ない。一方的な蹂躙だった。
「くっ……このっ!」
鞭のように幾度も振るわれる攻撃に、カルラは嫌がる様に拳を振るうが、しなる腕はその拳を容易く躱しカルラの体を刺し貫いていき、周りを血で染め上げていく。
「体重が載ってない分ダメージは殴られるより少ないかもしれないけど……カルラお姉ちゃんには確実にダメージが入っているな……うまく防いではいるけど、このままじゃ体力が持たないぞ」
「しかも空を飛んでいるというおまけつきです。カルラさんの攻撃は届かず。投げ飛ばそうにもあのとげの山が攻撃を防いでくれる。関節がないから投げられる心配もない……まさにカルラさんを倒すためだけに進化した姿と言っても過言ではないでしょう」
「あわわわわ!? 見ているだけでも痛々しいですよあれ!? ちょっとマキナさん、何とかできないんですか?」
「無理だな、あんな状態のアルフに銃弾なんてぶっ放しても、カルラお姉ちゃんのほうに跳ね返されるだけだ。それに」
「え?それに?」
「あの程度なら、カルラお姉ちゃんにとってはハンデにもならないよ」
マキナはそういうと、同時に鞭のような腕が止まる。
視線を戻すと、カルラがアルフレッドの腕をつかんでいたのだ
「バ、バカナ……ドクジョウタイデコノウデヲ」
恐ろしいものを見たとばかりにアルフレッドはカルラに叫ぶが。
「まぁ、もちろん効いてますが、これぐらいならもう完治しちゃいますよ? 私」
ぺっとカルラは口にたまった血を吐き出す。
それは口を切っただけのように少量であり、カルラはそのままアルフの腕を引き、引き寄せる。
「ば、バカナ!?」
「あ、ありとあらゆる新種の毒や呪いを物心ついたころから投与されてきているんです。こ、これぐらいで死ねたら……その、苦労しなかったですよ……ただ、刃物付きの鞭でたたかれるのは昔を思い出して少しばかり、胸の奥がずるりと崩れ落ちたような感触がしただけです……えぇ……本当に」
笑顔で、しかしながらカルラの全身から今まで感じたことのないようなどす黒い殺気がこぼれだす。
「ウグ……」
ゆらりと、カルラの体が揺らぎ……空気が凍る。
「覚悟……してくださいね?」
この場合、アルフレッドは何も責められるようなことはしていない。毒を使ったことは、確かに客受けこそよくはないだろうが、ルールに禁止されていない以上、それを責めるのは筋違いというもの。
しかし、彼が何を間違えたかというのをあえて指摘するのならば……カルラという女性の地雷を踏み抜いてしまったことが大きな問題なのだろう。
「!!?」
それは格闘家ではない暗殺者の目。
握られた拳は平らに開かれ、手刀に変る。
そして同時にアルフの腕は両断された。
刃物で切り裂いたかのようにすっぱりと。毒の刺ごと見事に両断をされたのだ。
「燃え上がる闘志は炎のように、静かなる殺意は刃のように。それがナイトストーカー。私です」
「GSAAAAAA!」
しかし、アルフレッドもそれで終わりではない様子であり。わき腹からさらに二本の腕が伸びてカルラの両腕を縛り上げ、切られた腕と爪はまるでトカゲのしっぽのようにカルラのわき腹を貫かんと走る。
しかし。
「全身凶器……裸の忍が最も強い理由をご存知ですか? それは、凶器を覆うものが何一つなくなるからですよ」
放たれたカルラの白い足による足刀は、手刀よりも鋭く飛び掛かった爪を両断し、同時に自らの腕をつかんでいたアルフレッドの腕を切り落とす。
「疾!」
それだけでは終わらない。
腕を切り落とされ、無防備になったアルフへの疾走。
「NAMERUNAAAAA!!」
迫りくる死に、アルフレッドは悪寒を感じながら全身より武器となりうるものを掃射する。
それは骨をはじき出したものだろうか? あばらを引き裂いて現れた白い刃はカルラを覆いつくすように広がり、濁流のようにカルラを飲み込む。
だが。
「遅い!」
カルラはその間をすり抜けていく。
大地に覆いかぶさる津波でさえも影をからめとることができないように。
ナイトストーカーはたやすくアルフの攻撃を越えて……その眼前に舞い降りる。
とびかかる小さな体に、振りかぶられた左手による手刀。きっとアルフレッドは、その姿が鎌を振るう死神に見えたことだろう。
いかに成長をしようが……いかにその力を高めようが……怪物であろうが何であろうが、逃れられない一つのルール。
それは、人は死ぬという当たり前のこと。
「チッ……モウオレハヒツヨウネエカ……ウィル」
「首おいてけ!」
アルフレッドはくびをはねられた。
 




