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燃えてますよ? オベロンさん

「へへへっ! 俺たちを相手取るには少しばかりおつむが足りなかった見てぇだなぁオベロン!」


 勝利を確信し、俺は剣を納める。

 あとはクレイオートマタを城に放り込めばミッションコンプリート。

 城の防衛に加わるもよし、ウィルたちの援護に回るもよしだ。

 まぁ、ウイルたち化け物運動会に加われるほどの実力がない俺にとっては前者の方が無難であろう。


「はぁー……しかし疲れる奴だった。しゃべり方と言い能力と言い、神という奴らはみんなああなのだろうか?」


 フットは少しばかり疲労の色を見せながら草原に座り込み、腰のバッグから取り出した軟膏を自分の傷口に塗る。


 エリシアの魔法からオベロンが脱出をする様子はなく。

警戒を解き、俺も腫れを抑える薬草をしみこませた包帯を取り出す。

 

「背中、怖い色になってるぞ」

「爆風の時だな……土くれの破片が背中に直撃した。まったく人の体とはもろいものだ」


「巻いてやるよ」


「かたじけない」


 俺の半分ほどの身長の体に俺は包帯を巻きつける。

 先陣を切るフッドはいつも傷だらけだ。


「なに、お前ばっかりケガさせてるからな。これぐらい当然さ」


「鉄傘を忘れたな……槍の雨が降るぞこれは」


「うるせーや」


「いっ!?」


 珍しいものを見たとカカカと笑うフットに俺はそう毒づき、巻き終わった包帯を少しばかりきつく締める。


「はぁ、はぁ! どーよ! 一発かましてやったわよ! 見てた? ねえ見てた? ほめてほめて!」


 そうして治療を終了するころ、遠方にて魔法を放ったエリシアが息を切らしてこちらに戻ってくる。

 階位に数えて第十二階位クラスの大魔法を放ったエリシアではあるが、その様子に疲労の色は見えない。


 それどころか、普段隠すようにくすぶらせている魔力を一斉に放出して気分が高揚しているのか、どこか興奮気味だ。


 かわいい顔が鼻息の粗さで台無しである。


「はいはい……すごかったよすごかった」


 子供のようにはしゃぐエリシアに対して、俺は自分でも適当だなと思うほど雑にエリシアをほめちぎるが、テンションが上がっているのかエリシアは満足そうに胸を張る。


 やはり鼻息が荒い。


「むふー! これでウイル達に頼まれた任務もおしまいね」


「油断大敵だ……まだ伏兵が潜んでいるやもしれん」


「そうだぞエリシア、前も行ったかもしれないが、勝負に勝ち誇ったときそいつはすでに敗北している。じっちゃんが言って」


「前から思ってたけど、親の顔も知らないあんたがどうしておじいさんの言葉を語るのかが甚だ疑問なんだけど?」


「いいんだよ細かいことは気にすんな。特に俺が十三歳から十五歳の間のことは気を使って気にするな。寝込むぞ」


「やれやれ、寝込まれても困るからな、さっさと任務を終わらせてしまおう」


「はーい」


 フットの提案にエリシアも納得したように返事をし、俺は引きこもり次代の痛々しい記憶が封印の扉から漏れ出し憂鬱な気持ちになりながらも、手を挙げてクレイオートマタに指示を出す。


 

「よーし、お前らー。あの城まで援護するからついてこーい」


 【【!!】】


 足もとで待機をしていたクレイオートマタ。 彼らに声をかけると、命令を受けた人形たちは即座に立ち上がり、命令を実行する。


 親鳥のあとに続くひな鳥のようでかわいらしい。

 ローハンはこの土くれ人形尾を守らせるためにあえてこんな愛嬌のある存在にクレイオートマタを作り上げたのだろうか? だとしたら相当な策略家だ。 

 しかし。


【土くれは……土にかえるものだ】

 

 順調に思われた作戦行動は、その一言ですべてが白紙に戻る。


 ぐにゃりと世界がゆがみ、同時にクレイオートマタたちは一斉に崩れ落ちる。

 土に身を潜めたわけでも、動作不良を起こしたわけでもない。

 命を失う様に生気を失いながら崩れていくその姿は彼らにとっての死が訪れていた。


「なっ!?」


 魔法を放った感触も、何かによる物理的干渉を受けた形跡もない。

 それはただの言葉。


 そんなふざけたことができる存在に心当たりは一つしかなく、エリシアが作り出した巨大な拳を睨みつける。


「ふふっ……ふははは……本当に人間は面白い」


 笑い声をあげながら、エリシアの魔法【ジャイアントグラップ】は崩れていく。

 魔力により押し固められた土は、岩石に近い密度と硬度をもってボロボロと音を立てて抱懐をするが……一部分だけやけに不自然に崩れ落ちる箇所があり、その中からは妖精王が当然のごとく現れる。

 

「おいおい、今度はいったいどんな手品だよ?」


 エリシアの放った魔法は、先ほどの雷の槍よりも、ましてやフットのナイフなどよりもよほど殺傷能力に優れている。 土と魔力と石を用いて放たれる握撃は、炭素をダイアモンドに変質させるほどの密度と圧力であり……たとえ体を鋼鉄のように変質させたとしても全身破裂は免れない。


 だというのに、オベロンはまるでベッドから起き上がる様に自然に、崩れた拳の中から伸びをしながら現れた。


「世の理では確かにこれで余はゲームオーバーなのかもしれぬ。しかし余の理ではこのようなものでは余は倒せん」

 

「駄洒落かよ」


「偶然だ。けしてこのセリフを考えるのに一晩など費やしていないからそのつもりで」


「わかったよそう必死になるなよ」


「わかればよろしい」


 こほんと咳払いをするオベロン。その姿に俺は愉快なものを覚えながらも剣を構える。


「それで? 自分ルールでやりたい放題のオベロンさんに質問だが、さっきあんたは一度に自分を殺せば勝負はつくといったはずだが?」


「嘘はついていない。余の力は事象の書き換え。 幻想を現実に変える力……だがお前たちに言っていないことがあるとすればこの力は、指定した物の事象を書き換えることもできれば」


 片腕を上げ、オベロンはにやりと口元を緩める。


 悪寒が走り、同時に俺たちは気づかないうちに剣や杖を構え身構えていた。

 しかし武力を用いようが、魔法を用いようが……その人の思い描く世界を止めることなどできないように。


 オベロンは自分の世界を夢想する。


「……干渉できる範囲も好きなように変えられるのさ」


 気が付けば世界は反転し……気が付けば俺たちは次元の彼方へと……オベロンが局地的単独発生をさせた幻想異世界へと閉じ込められる。


 青色の草原は焼けつくような炎の海へ。

 輝きはじけるような空は、曇天と共に嵐吹き荒れる暴風域へ。


 雷が響き、大地が燃え、豪雨が身を叩く。

 

 皮肉が聞いていることに、吹き荒れる雨は水でありながらそれを受けて燃える大地はさらに炎の勢いを強くする。


 まったくもって俺たちの常識の通用しないオベロンだけの世界。

 先ほど、ジャイアントグラップが発動したときも、とっさに自分の周りだけ都合よく書き換えたのだろう。

 オベロンの周りだけが不思議な崩れ落ち方をしていた謎はこれで解けたが。

 さらなる難問……どうすればこいつを倒せるのかという問題はさらに難解となった。


「これが私のフェアリーテイル……楽しんで行けよ? 人間」


 燃える大地に背中の羽を焼かれながら、オベロンはそれでも愉快そうに俺たちに笑いかけたのであった。



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