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オベロンVS転生勇者たち


 魔力も、威圧感も桁違い。

 一目見てそれが人ではない何かであることは容易に理解ができ、それが妖精王オベロンであることは明らかであった。

 

「オベロン……王様が城を離れてこんなところに遠征なんてして大丈夫なのか?」


 出来るだけ平静を保ちつつ、俺は頭上のオベロンにそう問いかけると、オベロンは鼻を鳴らす。


「心配無用さ。この世界すべて余の庭であり、余の城である。すべては結局遊び事なのだからね」


「遊び事ねぇ。友達の家迷宮に沈めたりするのも遊びで済むのか?」


「当然だろう? 余は神だ。 この世界の全ては余の思うがまま、許されぬはずがない。許さぬというならば、そいつの方が消えるべきなのさ」

 

「そりゃ神様にとって世界なんてもんはその程度なのかもしれないけどな、心は痛まないのかよ。遊びっつったって色々あるぜ? ゲームだって言ったって、切られりゃ痛いし、外で見てるお子様たちにとっては教育上もよろしくない」


「なんだ? 余のフェアリーゲームに不満でも? 神という存在に不条理でも感じたか?」

 

 にやりと笑うオベロンに対し、同じく俺も笑い返す。


「いいや、別にどうとでも。正直この会話、ただの時間稼ぎだし……後ろを見てみな」


「むっ!」


綺麗ばかがみるだ」


飛燕貫バードストライクき!!】


後ろを振り返ったオベロン。その背中に向けてエリシアによる魔法が放たれる。

触れた相手の体に潜り込み、内側から食い破るというなかなかにえぐい魔法であり、鳥のごとく敵を自動追尾し襲い掛かることから、第六階位魔法とされている。詠唱に少しばかり時間と集中力が必要になるため時間を稼いだが。 その効果はあったようで四方を取り囲み、燕たちは獲物に向かい攻撃を仕掛ける。


「ははは、神を謀るか! その意気やよし!」


「と、蜻蛉が燕食ってやがる!?」


 愉快そうに笑いながら、オベロンは指を鳴らすと。

 中空に召喚された大きな蜻蛉のようなものが、飛燕たちにかじりつく。

 蜻蛉が燕を食う光景はまさに圧巻であり、もともとの世界にいたら一生見ることのなかった光景に、戦いの最中だというのに少しばかりの感動を覚えてしまう。


「ふはははは、それで終わりか!」


「まさか! これがとっておきよ!」


「むっ!」


 エリシアは怒声と同時に、魔力を編み上げ、槍の形へと変貌させる。

 それは魔力により編まれた雷の槍。


巨人殺ジャイアントキリングし!!】


 か細いエリシアの腕から放たれた槍は、まっすぐにオベロンへと飛んでいき、燕を喰らう蜻蛉を蹴散らしながらオベロンへと走る。

 その速度は雷のごとし。

 

 オベロンはわずかに体をひねって回避行動をとるが、間に合わずに背中の羽を抉り取られる。


「小癪な!?」


 槍により貫かれた羽はぼろぼろと崩れ落ち、同時にオベロンは地面へと落下。

 

「フット! 任せたわよ!」


「任された!」


 それを好機とばかりに、フットは弓矢を放ちながら接近をする。


「おのれぇ! なめるなぁ!」


 放たれた矢を、オベロンは腕の一振りで薙ぎ払う。 

 暴風のような魔力が俺たちへ、そしてフットへと襲い掛かるが。


「ぬぅええぇい!」


 フットは大地を踏み、土の壁を創造する。


「甘い!」


 しかし、急ごしらえ、さらには魔法を不得手としたフットの土壁では妖精王の魔力は受け止めることは出来ず、土壁を破壊するかのように爆発をして吹き飛ばす。


「ははははは! せめて切り刻まれ踊る姿を見せて楽しませるといいさ!」


「フット!」


エリシアの声に、オベロンは愉快そうに口元を緩ませる。


だが。


「そうだな、羽をもがれた蝶のダンスは面白そうだ」


「なにっ!?」


 空中から響くフットの声、見上げるとそこには手斧を振り被るフットの姿。


 そして片手には一枚の幅広の布が握られている。

 爆風を広げた布で受け止め、気球のように上空へ飛びあがり急襲をしたのだ。


「フットの十八番だな」


 体の小さなフットだからこそできる奇襲であり、フットが最も得意とする戦術である。

 人は、小さな敵と対峙したときに必ず足もとを警戒する。

 足もとを救われぬようにと。


 しかし、フットはその虚をつく。 だれが、自分の身長以下の人間が、頭上から攻撃を仕掛けてくると思おうか。


 その虚を的確につき、フットはオベロンの羽を完全に両断する。


「んなにいぃ!?」


 驚愕に絶叫を上げるオベロンは、あっけなく王である証を失い。

 フットは続けざまに斧を横薙ぎに振るう。


「これで終わりだ!」


 その手際はまさに華麗であり、俺たちは黙ってその様子を見ていると。


「と、思うであろう?」


 絶叫を上げていたオベロンはふいにフットに悪辣な笑みを送る。


「なっ!?」

 

 見つめられた瞬間……フットの手斧が音を立ててへし折れる。


「バカな……」


 魔法を行使したわけではない。 物理的な干渉を受けたわけでもない。


 ただ自然に、劣化をして破損した。


 ぼろぼろにさび、持ち手の部分は朽ち果て砂のようになる。


「これは……」


「はっははは……なかなかに素晴らしき攻撃だ……驚きのあまり、本当に死ぬかと思ったぞ」


 幻覚と呼ぶにはあまりにもリアル。

 だが奇跡と呼ぶにはあまりにも不自然がすぎる。


 切り取られた羽はその場で朽ち果て、背中からめきめきと新しい羽根が生え変わる。

 それはまるで蝶の羽化を見ているかのようであり、傷も何もかもがよみがえるオベロンは満足そうににんまりと笑った。


「ふっははは、驚いたか? 再生の魔法でも幻覚でもない、これはすべて御伽噺フェアリーテイルなのだよ……余のスキルは文字通り、私の思い描いたように世界の断りを捻じ曲げる能力。私の羽が切り落とされようと、また生えてくると思えば生えてくるし……」


「口が減らないやつめ」


 フットは会話の途中ではあるが、その羽に向かってさらに弓矢を放つ。


 しかしながら、その弓は羽に触れると甲高い音を発してはじかれてしまう。


「このように、羽が鋼鉄よりも固いと思えば鋼よりも固くなる」


「なんと……」


 やることなすこと何でも思い通り……なるほど、確かにそれなら人が死なない殺し合いなんてものを開催するのもわけはないということだ。


「卑怯とは言ってくれるなよ人間。これは生まれ持った余の力故な。それにこのような能力をかいくぐっても喉笛に食らいついてくる獣はこの世界にいくらでもいる。それに至らなかった己の力不足を【卑怯】という言葉で言い訳をするでない……器が知れるぞ」


 オベロンは指を鳴らすと、草原の草が針のように高質化し、フットへと走る。


「そんなことでひるむか!」


 放たれた針の嵐に対し、フットは腰に下げた薬瓶を投げつける。

 

「爆ぜろ!」


 フットの言葉と同時に、薬瓶に仕掛けられた発火の魔法が起動し、薬瓶の中の液体がはじけ飛ぶ。フット特性破裂ナメクジの体液を使った爆弾であり、相も変わらずすごい爆発だ。

 こんなものを食うのだからフットという人間の生態系は謎に包まれている。

「小癪な」


 爆風により巻き上げられた土埃、それをかきけすようにオベロンは風を起こし、煙を遮るが。


「悠長だな! 妖精の王よ!」


 フットはその風を切りつけながら短剣にてオベロンへと切りかかる。


「余の体は鋼鉄のごとし! そのようなおもちゃでは……」


―――サクリ―――


 傷一つ付けることは出来ない。

 そう言おうとしたオベロンのほほを、フットのナイフはいとも簡単に切り裂いた。



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