役得シオンちゃん
「おー、さっすがフォース」
ぱちぱちと手を叩くシオン。その様子に僕は大きく息を吐きだす。
「だーーー……危なかった……。槍が飛んできたときなんて、本当に何が起こったかなんて見えなかったよ」
魔王の鎧のおかげで攻撃を阻むことができたが、鎧がなかったらあのままゲームオーバーだった。
「まぁまぁ、運も実力のうちということで。かっこよかったよーフォース」
「茶化さないの。それよりも飛ばされちゃった二人は?」
「んー、サリアちゃんもカルランもどっかに飛ばされたみたいだけど、まだ戦場にはいるねー。慌ててたから場外まで座標を指定する暇がなかったみたい」
「じゃあ心配はいらないね」
彼女二人なら、何処に飛ばされたとしても問題はないだろう
「そのセリフ、二人ともショックを受けちゃうから言わない方がいいと思うよ」
「そうなのかい? 僕としては最大限の信頼のつもりなんだけど」
「わかってないなーウイル君は。魔王は女の子の気持ちがわからない」
「……え? あぁごめん」
やれやれとため息を漏らすシオンに、僕は首をかしげて謝罪をする。
意味はよく分からないが、なんとなくシオンの方が正しいような気がしたからだ。
「まぁウイル君の女の子の気持ち勉強会は後にするとしてー、お願いされた大隊の殲滅は終了したよー。カルランが調べた通り、リルガルムの兵団としては最大規模の物だったはずだから、これでとりあえずこちらに向かうリルガルムの兵団は殲滅完了って言ったところかな……サリアちゃんとカルランがいなくなっちゃったのは予定外だけど、たぶんこのまま二人ともそれぞれが王城へと向かうはずだよ。ついたときにはサリアちゃんによる死体の山が出来上がってたりして」
「怖いこと言わないでよシオン……」
僕はシオンを軽く諫めるが、簡単に想像ができてしまうところがサリアという女性の恐ろしいところだ。
「えへへー。それでなんでウイル君がここにいるの? 王様が戦場出てきたらだめじゃないのー。お城ががら空きだよー?」
「え? あぁ。とりあえず城の防衛はマキナとシンプソン。それにローハンに任せてあるから大丈夫だよ……話したはずだけど?」
「ふーんそーなんだー」
「あ、その顔。また作戦会議聞いてなかったね?」
「えへへ―、聞いてませんでしたー」
「まぁだろうと思ってたけど」
だからこそサリアとカルラを護衛につけたのだけど。
ブイサインを作るシオンに、ウイルはため息を漏らして一つ咳払いをする。
「城の防衛はローハン。リルガルムの城は僕たちが、オベロンの城はリューキたちが攻め入っているよ。僕は用事を済ませてきたから、少しだけ遅く到着をしたってわけ」
「なるほどねー。懇切丁寧に教えていただいてとてもありがたいですが―、きっと少し歩いたらわすれちゃうよー。ごめんねー」
「いいよ、今に始まったことじゃないし」
「ふふふー」
あきれられているというのにどこか楽しそうなシオン。
僕はそんな彼女に苦笑を漏らしつつもホッとする。 その笑顔は、今まで見せてきた負い目のある笑顔ではない、彼女本心からの笑顔だからだ。
太陽のように笑う彼女はとても美しい。 形だけとはいえ、こんな彼女と夫婦の仲である僕は幸せ者だろう。
「さて、予定外の事態があったとはいえ。順調と言える範疇だろう……僕はこのまま城に攻め込むつもりだけど、別行動をとるかい?」
「あーひっどーい! 私の生命力の低さなめちゃいけないよーウイル君!? うっかり飛んできた流れ弾に当たったって死んじゃうんだからね! 約束したんだからちゃんと守ってよねー」
「はいはい……冗談ですよ。ほら、じゃあ僕から離れないで」
「喜んで―!」
一つはシオンを守るため、一つは監視するため僕はシオンにそういうが、やけに嬉しそうにシオンはぴったりと僕にくっつく。
「……近すぎない?」
「普通だよー。夫婦だもん。声は聞こえないけどこの試合みんな見てるんだよ? 距離感があったらおかしーでしょ?」
「むぅ……確かに言う通りだけど、なんか恥ずかしいな」
「少年は恥を捨てたときに大人になるものだよー。二番目にお姉さんの私が言うんだから間違いありませーん!」
「確かに……」
実は最年長であると発覚をしたティズのことを僕は思い出しつつ……。
「……そう考えると、大人になりたくないなぁ」
「なんで!?」
そんな感想を漏らして、僕たちはリルガルムの城へ向けて歩き出す。
リューキたちはうまくやっているだろうか……。
そんな少しの心配を抱えながら。




