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35.さっき何でもするって言ったよね?

「……さて、報酬の話だが」


そう切り出したサリアは、脱力しきった神父たちの前に立ち、微笑を見せる。

微笑みという名の暗黒微笑という奴だ。


「え? ああ、報酬ですね……ええ、もちろんギルドを通じて」


「それは当然いただこう。 だが……神父よ、貴方は確かいったな? 助かるのであれば何でもすると」


「え、うそ聞こえて」


はっとして神父は口を押さえるがもう遅い。


「私の耳は飾りではないのだよ」


「あ、ははーんそういうこと」


ティズもサリアの行わんとしていることを理解したのか、いつもはサリアに突っかかってばかりの癖に今日に限っては同じような表情をしてサリアの肩にとまっている。


『宝物庫を見せなさい!』


あぁ、とうとう声までかぶってしまった。


流石にやりすぎなのでとめるべきだろうか、できればシオンがそんな恩を売りつけるような行為を忌避する人間であってくれれば二対二であの状態の二人に対して議論まで持っていけるのだが。


「宝物庫って、なんだか素敵な響き!」


だめだ、それ以前の問題だ。


仕方が無い、こうなれば僕も一緒に宝物庫に行って、あまり追加報酬を貰い過ぎないように監督をすればいいだけだろう。


神父も強引にとはいえ、サリアとティズに詰め寄られて宝物庫まで自ら案内を始めてしまっているし……文句は言えないだろう。


僕はそう心の中で決心をして、渋々と涙目になりながら宝物庫へと案内してくれる神父と僧侶達についていくのであった。


「ここが、宝物庫です」


神父が肌身離さず所持していた扉の鍵を開けると、そこには金銀財宝が眠っていた。


黄金色に輝くその金貨の山と黄金に輝く鎧や武器、そして神代に振るわれたとされる刀剣類が宝物庫の中で精一杯に輝いて見せている。 まるで、主を捜し求めているかのように。


「これが私の宝物たちです」


「おおおー!」


シオンは子どものように瞳を輝かせて、金貨の山の中にダイビングをして泳いでみせる。


「あああ!? やめ、やめてください!?」


「これ全部貰っていーのー?」


「そんなわけ無いでしょうに!」


「え?」


「え?」


神父の言葉にティズが驚いたような表情でその顔を見やると、神父も素っ頓狂な表情で見つめ返し。


「いやいやいやいやいやいや!?」


「なによ、あんた死体放置してたのが原因で騒動が起きたってのばらされたいの?」


完全に脅迫の部類に入ってしまっている。


「ちょっとティズ、それは流石にやりすぎだ」


「なによウイル! いいじゃないのさ、この神父はなんでもするって言ったのよ?」


「だからって身包みはぐのは僕達冒険者のやり方じゃないだろ?」


「先に私達の身ぐるみ全部剥ぎ取りやがったのはこっちじゃない! サリアも何とかいってやりなよ!」


ああ、ティズとサリアに結託されてしまっては一応このパーティーの頭という名目があっても為すすべがない。 なぜならこのパーティーのヒエラルキーでは僕の立場は下から数えて一番目に位置しているからだ、これは僕のレベルが低いせいなのか、それとも人徳が足りていないせいなのか……誰か分かる人がいたら是が非でも教えていただきたい。


しかし。


「まてティズ、私は別に宝物庫の中のものを全て奪い取るだなんて言っていないぞ!」


サリアのモラルはまだ正常に作動しているようで、慌ててティズの口を閉じることに一役買ってくれる。


「ちょ!? いまさら何言ってるのよ! 宝物庫開けさせたんだったらその中のものは全部私達のものでしょう!?」


「それじゃ泥棒と同じだティズ……マスターがそんなの喜ぶと思うのか?」


「あうぐ……ず、ずるいぞ! ウイルの名前出されたらどうしようも無いじゃない!」


嘘つけ、僕のいうことなんて一切聞かなかったくせに、なんで顔赤らめて悔しそうにしてるんだよ、なにか、僕以外にウイルって人でもいるのか? いるんだな?


「じゃあ、アンタはどうして宝物庫開けさせたのよ!」


どうやら僕とお金を天秤にかけてもまだ答えは出ないようで、ティズはサリアに噛み付くことにしたようだ。


「私のせいで失ったものを取り返すためです」


そういうと、サリアは壁に立てかけられた刃一振りと、闇の勢力、魔王が装着していたとされる鎧を一つ取り出し、ついでに金貨の山で泳いでいるシオンを引っ張り出して僕の前に持ってくる。


これは。


「螺旋剣ホイッパーと……魔王の鎧……」


「神父よ、私の蘇生費用にこの二つを要求したようだな」


「あと更に金貨二万枚ね」


「え……は、はい!?」


神父の表情が硬くなり、その暑苦しい顔面から冷や汗をだらだらと垂れ流し始める。

ゾンビに囲まれていたときよりも、その顔には絶望の色が色濃く浮かんでいるようだ……。


「……そうか。 返してもらっても、構わないな? 『手違い』だからな?」


サリアは微笑みながらも、その眼光は鷹よりも鋭く神父を射抜く。


「は、はひ!? そうです手違いなんです!! ど、どーぞどーぞもって行ってください!

あ、そーだ! これからこの寺院の利用代金も割引しちゃおうかなー! 命の恩人だしなーあっははははは……」


「割引?」


「無料でございまーーーーす!」


顔にばれてーらと書いてある。


薄々感づいてはいたのだが、やはりサリアの蘇生費用に金貨十万枚というのは高すぎる要求だったらしい。


「この 自主規制 神父」


ティズがぼそりと恐ろしい表情で何かを呟いたが、聞こえない振りをしておこう。


「さ、マスター」


「すっごい大きな鎧ー」


サリアに差し出された螺旋剣ホイッパーに、魔王の鎧を僕は受け取りると、懐かしい重みが僕の腕の中に納まる。


血のりとかは綺麗に拭き落とされており、細かな傷等もしっかり修理されており、鎧はまるで作りたてのように輝いている。


「まさかサリア、最初からこれを取り戻すために……付いてきてくれたの?」


そう聞くと。


「……さぁ、どうでしたかね、シオンの魔法が凄過ぎて忘れちゃいました」


とても素敵な笑顔で、僕に笑いかけた。


              


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