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マスターテレポーター

「三つのみか……今の私の力では、しかし」


 己の敗北を知る。


心臓へと走る槍。 上空から頭蓋へと走る槍をサリアは認識することができなかった。

 

だが。


「それを補い合うのが」


「仲間ってもんだよー!」


 心臓に向かい走る槍を、カルラはその手でつかみ。


 上空から迫る槍を、シオンは爆炎により吹き飛ばす。


「決め手をしのぎました……正面から一気に片を付けますよカルラ!」


「了解です!」


「ふむふむ、まぁ確かにこちらが二対一で殺しにかかっているのですから、三対一で迫られても文句は言えないですが、人外レベルの化け物三人を相手取るとか、マッピラなんですけど」


「じゃあなんで切りかかったんらよ」


「だって、奇襲に成功してれば二体二じゃないですか」


「お前、ほんろに馬鹿らよな」


「なっ!? 飲んだくれに馬鹿呼ばわりされるなんてマッピラごめんですよ!」


 言い争いの最中にも、数度槍が放たれ、今度はシオン、カルラの心臓へと走るが。

 

「せいや!」


 槍を増やせる数も限界があるらしく、その攻撃には先ほどまでの苛烈さは見受けられない。


 人を殺すための技術の最奥……しかしそれが通用するのはあくまで人間だけだ。

 人を超え、魔物を超え、神の首をも撥ね落とし。伝説の怪物の腕を切り落とす。


 そんな化け物二人相手に、人を狩る技など通用するはずもない。


サリアはカルラと共に槍を叩き落しながらマッピラ爺さんとルーピーへと走る。


 もはや騙し槍は通用せず、真正面からの戦いになればどちらが勝利するかは火を見るよりも明らか。


 それに加え。


「……槍を増やせるのは、おじさんだけじゃないんだよー! くらえー!」


「げえ!?」


 正面から迫りくる猛獣にも似た二人の怪物。


 しかしそれに身構えることすらも許さないというように、今度はルーピーとマッピラ爺さんのことを、無数の炎の槍が取り囲む。


 多重詠唱。 魔力を重ねることにより、一つの詠唱で魔法を重ねることができる補助呪文であるが、炎の魔族であるシオンは、スキル【大魔導炎武】により炎の呪文の魔力コストをゼロで放つことができる。

 それ故に、メルトウエイブはもちろん、その他炎熱系の魔法を彼女は無尽蔵に拡散させ放つことができる。


 人の極致により、確かにルーピーは槍を五本に増やせたかもしれない。


 だが、シオンの【才覚】は、その極致をたやすく凌駕する。


「ちょー!? なんですかそれ!? 反則級の化け物級ですぞ!」


「ははは、どうしようもねえら、この力の差は、お嬢さんちょっとタイムアウトは有効ら?」


「問答無用だよー!」


「「ですよねー」」

 

ラースオ(ブゴッド)り】


 かつて、雷は神の放つ裁き、もしくは恵みとされ、神の落とした雷より、人は炎を知ったという。


 ゆえに炎とは、神の与えた英知であり、雷とは神そのもの。

 だからこそ、無限に降り注ぐその雷はまさに、神が人を蹂躙するさまに他ならない。


 それに加え。


「「これで終わりです!!」」


 

 雷光は一瞬、全方位全方向から放たれた【ライトニングボルト】の魔法をよけるすべはなく、閃光があたりを包み込み、その光に飛び込むように、サリアとカルラはその剣と拳を振るう。


 たとえ魔法障壁がライトニングボルトを防ぎきったとしても、彼女たちの攻撃を防ぎきることができるアーマークラスの防具や魔法などは存在しない。


 第十階位魔法を目くらまし代わりに使うという、贅沢極まりないその至高の一撃に防ぐすべはどこにもなく、ルーピーたちに残された道も敗北以外はあり得ない。


 しかし。


「ま、そんな化け物を狩るのもまた、人間何らけどな」


 その場から退場をしたのは、サリアとカルラであった。


「!」


 閃光は走れども、その雷が地面をたたくことは無く、遥か遠くで雷の音が鳴り響き、草原にはマッピラ爺さんにルーピー、そしてシオンしか残されていない。


「な、なんで」


 突然の出来事に、シオンは驚愕するように目を丸くし、同時に魔力の痕跡をかぎ取って何が起こったのかを探りはじめる。


 その答えは単純だった。


「いや、なんですかあの魔法!? 魔力の概念とかまったく無視して……本当ごめんですぞ! 私なんて、この魔法しか使えないというのにうらやましすぎです!」


「まぁしかし、いくらすごい魔法でも……見えてりゃそれなりの対処のしようがあるってもんら……転送魔法使いに、見える攻撃はつうようしないんらよ」


 全方位に放った転移魔法。

 それにより、ルーピーとマッピラ爺さんはいかずちをすべてほかの場所へと飛ばしたのだ。

 それも、サリアとカルラと一緒に。


「流石に市街地に魔法を逃がすわけにもいきませんから、このフィールド内に飛ばしましたが、結局戦士二人は仕留められませんでしたぞ……マッピラ御免ですよ」


「なぁに、もともと三人全員をまとめて仕留められるなんざ思ってねえらろ? だが見たところこの爆炎姉ちゃんはやつらの切り札の一つら……広域を焼き払う能力者を仕留めら、それだけで大勲章も乗らろ?」


「ふぅむ、確かにその通りですねぇ。 詠唱破棄は確かにまっぴらですし魔術師としてのレベルも才覚も絶望的な差はありますが、あの様子では精神系ではなく純粋な火力お化け系統の魔術師……私の大好物ですぞ」


 にやりと笑みを浮かべ、ルーピーとマッピラ爺さんはシオンに向きなおる。


 もはや警戒もしていないという様子のその姿は、シオンのいかなる攻撃を防ぎきり殺すことができると確信をしたゆえの余裕であり。

 

 シオンもそのことを胸中で認める。


 物理炎熱系魔法を主軸とする彼女は、防御魔法を破壊したり、装甲を爆散させるといった防御破壊は得意なのであるが、テレポーターや透過による攻撃の無効化に対する手札を持ってはいない。


 詠唱破棄とはいえ、魔術を行使するのには時間がかかる。


 彼女の速力をもってすれば、確かにマッピラ爺さんの魔法発動を上回る速力と、無尽蔵に爆炎を巻き上げ続けることにより、ごり押しで勝負を決めることは可能ではあるが。


 そんな暇を与えてくれるほど、ルーピーの槍は甘くはない。


「どーしよー……これ、絶体絶命ってやつだよねー」

 

 ごくりと息をのむ。


 近接戦の切り札二人がどこかへとばされてしまった今、彼女にこの場を切り抜ける方法はない。


 攻めればいなされ、逃げても槍の射程から逃げられはしない。


 ともすれば、彼女に残された道は潔く敗北を認めることだけなのであるが。


「そんな格好悪いとこ! 旦那さんには見せられないよー!」


 シオンは悪あがきにも等しい全力のライトニングボルトを、もてる全力の速力をもってマッピラ爺さんへと放つ。


 だが。


「むだですぞぉ!」


 並な術者なら直撃をしていただろうその一撃だが。


 マスターテレポーター……テレポーターの魔法一つでこの王国の魔術師のトップにたどり着いた男の前には、そんなものはただの悪あがきでしかなく。


「万策尽きたのならこれで終わりら」


「っっ!」


 シオンの頸椎に向けて、ルーピーの隠し槍が放たれる。


 槍を分けることのない、死角からの槍のひと突き。


 魔術師であるシオンにとっては、それだけで十分であった。


 しかし。


「少女一人に二人がかりか……」


 その槍を、どこから現れたのか、黒色の鎧の男が握りしめる。


「なっ!?」


「お前は!」


 赤ら顔のルーピーが青ざめ、マッピラ爺さんはその脅威に思わず自らとルーピーを転送により間合いを開ける。


 警戒も無理はない、驚愕も無理はない。


 息をするだけで喉が焼けただれそうなほどの威圧。

その手に握られるのは青く輝く魔剣ホークウインドに、悪魔の角が如くうねり捻じ曲がる螺旋剣ホイッパー。

 

 身にまといしは黒色荘厳の魔王の鎧であり。


 その声は静かなれど、草木に頭を垂れさせる。


 例え見たことがなかったとしても、間違えることなどありえない。


 伝説の騎士・フォースオブウイル……迷宮の覇者が現れたのだから。


「さて……私の妻に手を出したのだ、ご退場願おうか?」 




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