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女子トーク

「敵襲!! 敵し……があぁ!?」


 そんな声が上がると同時に、王都リルガルムを守護する世界最強とうたわれる騎士団、王国騎士団の団員は、巨大な竜の羽ばたきを受けたかのように吹き飛ばされ、大地に叩きつけられてその魂を飛ばす。


 しかしながら目前には巨竜などいなければ、突風を巻き起こせるようなものも存在しない。


 ただ、袖のゆったりとした青い東洋風の服を身に着けた、エルフの少女がいるだけだ。


「……手加減をしないでよいというのも、なかなかに気分がいいものですね」


 にこりと笑みをこぼしそう漏らすエルフの少女は、二振りの刀を抜くと。


「断空・かさね

 再度二十を超える兵士の命を散らし。


「いざ……」


 騎士団の中へと単騎飛び込み、文字通り血と死体の雨を降らす。

  

「な、なんだあれは」


 聖騎士サリアの名前を知らないわけではなく、その光景に兵士長は声を漏らす。


 兵士長とて彼女の伝説は聞いている。


 最高難易度と呼ばれる迷宮、アルムハーンの迷宮を単身攻略し、ナイトオブラウンドテーブルの一人に名を刻んだ最高の騎士であるという伝説。


 タイタンを両断し、ブラックドラゴンを片手で持ち上げた剛腕の伝説。 


 ノックトップ平原での、鬼人オーガ千人切りに、その翌日に行ったドワーフ五百人組手。

 

 大人気小説、豪傑騎士十番勝負にて主人公として描かれている主人公アリサも、彼女の戦いをまとめたものであると言われ。


 かの剣聖・ルーシーを師匠に持つという噂すらある。


 だが、その実物を目にするまで、兵士長アンゲルスはそれはただのおとぎ話だと思っていた。

 そんな化け物じみた人間など存在するわけもなく。


 彼女が聞いたら激怒するだろうが、伝説の騎士もサリアも……すべてを兵士長はペテン師であると軽蔑している節もあった。


 だが、目の前に広がる光景は、伝説がすべて事実であるということを物語る。


 自分が率いる最強の騎士団、リルガルム王国騎士団の兵士たちが空を舞う光景。

 その事実は、少なくとも今まで聞いてきたサリアの伝説が。


彼女にとってはごくごく当たり前の日常であるということを思い知らされる。 


彼女の前で、自分たちはうちわで仰がれたタンポポの綿毛でしかない。……兵士長なんげ留守はその事実をすぐに認識する。


 


「……で、伝令……すぐに王に報告を……化け物だ、化け物がいる!」


 王城前にいる王に伝えなければならないと、使命感からアンゲルスは伝令を呼ぶ。


 しかし。


「あ、ご、ごめんなさい。この人のことでした?」


 ごとりと、そばに居たはずの伝令役の首が目の前に転がる。


 どこから来たのか、いつからいたのか……フリルの突いた黒服に身を包んだ少女はさも当然のように指揮をとる兵士長の目前に現れる。


 護衛として四方に配置させていたはずの重装歩兵を見回してみてみると。


 四人とも、首がない状態で茫然と立ち尽くしており、足もとに首が転がっている。


 自分が死んでいることにも気が付いていない様子だった。


「あ、ええと……痛くはないので、安心して下さい」


 可愛らしい少女のそんな声。


 同時に兵士長の意識はぶつりと途切れる。


 宣言通り、傷みすら感じる暇すらなく。


「これでよしと……え、えと。 こほん て、てきしょー! うちとったりー!」


 目前では暴風のように暴れるエルフ族……そして背後には高々と掲げられた指揮を執るものの首が掲げられる。

 その事実は、まだ1000近くは残っているはずの兵士たちの心を完全に抹殺した。

 たった二人の少女に、王都リルガルムの王国騎士団は敗北を喫することになるのだ。


 戦意はすでになく、まるで足並み乱れた役者のごとく兵士たちは完全に大混乱に陥る。

 

 そこへ……。


「はーい! それじゃあーそこで大人しく並んでてねー!」


 エルフの背後からひょこりと現れた赤服の少女が、杖を高々と掲げて現れ。


【メルトウエーイブ】


 詠唱すら唱えることなく、そんな気の抜けた声と同時に核の炎が残党兵たちを一人の例外も残さずに消滅させる。


 レオンハルトの指揮により配置された千五百の兵団がせん滅させられるのにかかった時間は一分弱であった。


「いえーい! 大成功だったねー!」


 魂が飛び交う草原の中、シオンは嬉しそうにガッツポーズをしたのちにサリアへと飛びつく。


「ええ、いつもよりも火力が高かったですねシオン。それにどこか楽しそうだ」


 そんな少女の様子にサリアも微笑みながら、剣を鞘へと納める。


「そりゃーそうだよー! だって手加減しなくていいんだもん! いやー全力で魔法撃っても大丈夫っていうのは楽しいねー!」


「だからって、いつかみたいに魔法の使い過ぎで倒れないでくださいよ?」


「大丈夫大丈夫―! 今日もシオンちゃんは絶好調なのだ―!」


「……た、楽しそうですね、シオンちゃん」


「あ、カルランおかえりー! はいたーっち!」


「い、いえーいです」


 そんな会話をしていると、草原の向こうから敵将の首を持ったカルラが戻ってきて、カルラとぎこちないハイタッチを披露する。


「王国騎士団っていうからどんなものかと思ったけどよゆーだねー。これなら別にカルランが指揮官を暗殺なんてしなくたって良かったんじゃないの?」


 楽しそうにカラカラと笑うシオンであったが、その言葉にカルラは首を横に振る。


「いいえ、シオンちゃん。恐らくですが王国騎士団の間でもシオンちゃんの炎武対策は万全整ってたみたいですよ」

 

「というと?」


 カルラの言葉にサリアは首をかしげると。


「兵士長を暗殺する前に、一応魔法部隊の人間の首も跳ねといたんですけれど……こんなものを持っていました」


 カルラが胸元から取り出したのは大きな鏡のようなもの。その表面は水面のようにゆらゆらと揺れていた。


「なんでしょうか、これは」


 サリアは指でつつくと、泡のようなものがはじける。


「迷宮の魔道具です。名称は【泡の鏡】と言います」


「あわ?あわ? お母さんのおててー?」


 シオンはわけのわからないことを言い出したが、いつものことなのでサリアもカルラも気にすることなく話を続ける。


「それで、どんな効果を?」


「これに呪文を唱えると、炎魔法に対する耐性を有する鏡なんです。それも数がそろえば揃うほど。兵士一人一人に支給されているところを見ると、シオンちゃんのメルトウエイブや、オールインアッシュを警戒してのことだと思います」


「あー、確かにこのタイプの魔道具1000も集められたら、狐火程度の炎になっちゃうかも」


「ええ、ローハンさんが言った通りにしなければ、シオンちゃんの魔法は恐らく阻まれていたでしょう。流石というべきです」


 カルラはそうローハンを褒め。


「おー、さっすがホネホネ将軍! だてに年食ってないねー」


 シオンはパチパチと手を叩く。


 だが、サリアだけは少し不服そうだ。


「むぅ……」


「どうしたのサリアちゃん?」


「いえ、別に……マスターが確かに仲間と認めている故悪いアンデッドではないのでしょうけど……兵の指揮や統率なら、私だって……」


 今回、サリアはウイルの命令により兵を統率するメンバーから外された。

 

 今回の戦いが、将軍が兵士を護衛しつつ敵の拠点を制圧する戦いになると分かっていた故に、最大戦力のサリアの負担を減らすためだ。


しかし、サリア自身はその両方をこなしつつもウイルを勝利に導ける自信があったようで、こうして先ほどから頬を膨らませて怒っている。


 だが。


「だってサリアちゃんの作戦失敗するし」


「ですね」


 過去の出来事から鑑みれば、その采配は当然と言えば当然でもあった。


「わ、私のせいじゃ無いですもん!? 剣が折れたりしたのも全部全部私のせいじゃ無いじゃないですかー!! きっと今回は大丈夫ですもの!」


「さすが、運最低値の言い訳は説得力が違うねー、全く信用できない―」


「しょうがないじゃないですか! どんなに鍛えても運のステータスだけは上げられないんですよ!」 


 シオンの何気ない一言が、サリアを傷つけたが、それを気にするシオンではなく。


「というか、随分とホネホネ将軍にかみつくけど……もしかして嫉妬してるの?」


 サリアに追い打ちをかける。


「なっなななな! シオン、何を言っているのですか!」


「あぁ、確かにローハンさんフェアリーゲームの作戦会議からずっとウイル君にべったりですもんね……でもサリアさん、ローハンさんの性別は男だったと思いますけど」


「ちっ!? ちがっ! そんな意味じゃ!」


「いやいやーカルラン古いよー? 好いた惚れたにもはや性別なんて関係ないんだよー。私と結婚したからと言って、男の子が好きじゃないとは限らないよ? ほら、英雄色を好むっていうからー」


「な、なるほどなるほど! ウイル君ほどの器の人が、性別なんて些細なことでとやかく言うことはあり得ないということですね」


「さ、流石はマスター……じゃなくて!? 何の話をしてるんですか! 話、私は別にマスターの高潔さに憧れて従者になっただけで、べべっ別にマスターのことが好きとかどうとかそのあのえっと……」


 サリアは耳まで真っ赤にしながらシオンの言葉を否定するが、その様子を見れば彼女の心中など鈍感極まりないカルラでも容易にくみ取ることができるほどであり。


 そんなサリアにシオンはにやりと口元を歪める。


(はっ……悪いこと考えている顔です!)


 カルラはそう心の中で呟いた。



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