魔王の城づくり!? 迷宮の壁で作る最強の魔王城! 草案編
「さてと……フェアリーゲームも大切だけど、実際に何をするのかの連絡が来るまでは、僕たちにすることはないからね……今目の前にある問題に注力をしなきゃいけないわけだけど」
「というと?」
「家を作ります」
「「「あー」」」
クレイドル寺院に戻った僕たちは、シンプソンに借り受けているレストルームに集まり、お茶をしながらそんなことを語り合う。
反応的にすっかりこのクレイドル寺院が自分たちの家みたいな感覚が芽生えてきていたのだろうが、そういうわけにはいかないので僕は一度咳払いをして全員の姿勢を正させる。
「なんだかんだひと月近く家が燃えたのに放置したままだったじゃないか。迷宮がなくなってしまったなら僕たちにできることはないし、慌てても仕方ない。せっかくだから自分たちの住む場所を今のうちに作ってしまおうと思ってさ」
「た、確かに。いつまでもシンプソンさんに頼ってばかりでは悪いですし」
「そうね、なんやかんやで金品巻き上げられそうで気が気じゃないものね」
「ということは!風雲ウイル城をこれから作るってことー!」
「まぁ、そういうことになるね」
「わーい! やったー!」
シオンは両手を広げ万歳のポーズを取り、なにやら胸から羊皮紙を取り出す。
「なにこれ?」
「これねーこれねー!私が考えたさいきょーの魔王城!」
見てみると、羽ペンで殴り書きされた文字に、十代やそこらの人間が描いたかのようなとげとげしい形の城が描かれている。
とげとげしいという表現を使ったのは、城の外壁や、城の屋根が異様にとんがった形をしているのと、ヴァンパイアでも串刺しにするのだろうかと思うほどに中庭部分に杭の絵がたくさん描いてあるためにこういう表現をつかったのである。
「……こんなものいつ書いたのさ」
「ふっふっふー!異端者として閉じ込められている間相当暇だったからねー。ちなみにコンセプトは防衛機能!ストーカーを塵一つ残さず滅殺する女性に優しい安心設計だよ!」
「えっ」
カルラがその言葉に驚愕し、身震いをする。
「シオンいけません。その言葉が本当だとすると、ここに一名もれなくチリ一つ残さず滅されてしまう少女がいます」
「わ、私いらない子ですか……」
カルラはプルプルと目に涙を浮かべてふるえている。
「あ、大丈夫大丈夫!女の子は無事に入れまーす!」
この時点ですでにセキュリティががばがばなのだがいいのだろうか。
「あ、それならよかったです……ストーカーって怖いですものね」
「本当に、ストーカー対策がされている家なら、私も安心できます」
「と、人類最強の二人がそう申しておりますけど、早く突っ込みなさいよウイル」
「うーん、片方は本当に被害にあってたから突っ込みにくいなぁ……それにサリアも女の子だし……」
「え?サリアちゃんには必要ないでしょ……防衛機能……」
言葉を濁す前に、シオンがサリアに突っ込みを入れた。
「ひどい!?わ、私だって付きまとわれて怖い思いをしたことぐらいあるんですからね!」
意外にも語られたサリアの言葉。
やっぱりいくら強くても、好きでもない異性に付きまとわれるというのは恐怖心を覚えるようだ。
まぁそれも当然か……なんだかんだ言っても、サリアは普通の女の子なん……。
「……それで、その付きまとった男はどこに行ったのかしら?」
「地底深くか迷宮の最下層で、その、RIPしているかと、お、思いますけど」
「原型をとどめていない無残なひき肉になってが抜けてるわよカルラ」
「ちゃ、ちゃんと生きてますよ!なんとか!」
「なるほど、死なない程度に再起不能にしたと」
「普通の女の子だと思った僕がバカでした……」
「マスターまで!?しょうがないじゃないですか!怖かったんですから!」
サリアは半泣き状態でそう訴えるが、僕にしてみれば君のほうが恐ろしい。
「よし、シオン。この防衛機能最優先の設計は気に入ったよ。これ以上サリアの犠牲者を出すわけにはいかないからね」
「もおおおぉ! マスターのバカ――!」
サリアの噴火に、一度は暗い影が落ちていた僕たちの中に笑いが広がる。
僕が世界を滅ぼすと知っても、僕がこのままだと死んでしまうと知っても。
彼女たちはいつも通り……強く、そこにあり続けるのだ。
きっと僕がいなくなったら彼女たちは悲しむだろう。
だけど、これだけ強い彼女たちのこと、きっと僕がいなくなっても、彼女たちはきっと、彼女たちの伝説を作り続ける。
だから……。
「ねえねえウイル君!」
「へ?」
不意に声をかけられ、僕は慌ててシオンのほうに向きなおる」
「ウイル君のトラップイーターで、この串刺し床は完全再現できるよね!」
羊皮紙を見てみると、カルラとティズたちも何やら設計図にいろいろと書き足したのか。
【ダークゾーンの小屋】とか、【サクランボ農園】とか好き勝手なことが書いてある。
というか、サクランボ農園は僕の力じゃ作れないだろうに。
「まぁ、串刺し床のトラップはあるけど……ずいぶんと串刺しにこだわるね。 なに?シオンは人間の串刺しオブジェクトを飾りたいの?」
「違うよー!私がそんな女の子に見える!? これはあくまでヴラドよけだってば!」
「この程度でヴラドが止まるようには思えないけど」
「違うよ! ほらここみて!この前のスーパーシオンちゃんバリアでもあったように、ウイル君のトラップイーターと私の魔法を組み合わせるのー!」
「すると?」
「串刺しの床を踏んだ瞬間、一斉に杭が飛び出してね、その杭が一つの魔法陣になってー!」
そういうとシオンは一つ呪文の名を呟くと。
「ぼーん!」
炎が舞い上がり、無残にも串刺しとして描かれていた人型の絵はシオンが起こした爆発により白い灰と化す。
「……いくら爆発させても!迷宮で作った外壁は傷つかないし!串刺しのトラップだって、出せる数に制限はないんだもん!これで完璧なセキュリティーを守ることができるんだよー!?まぁ、ヴラドは殺せないから仕方ないけど、大気圏の外ぐらいには吹き飛ばせるんじゃないかな?」
力説するシオンであるが、作った三日後にシオン自信がその罠に引っかかり大惨事になるという光景が、その時の僕の脳裏には浮かんだ。
「あの、もう少し安全で静かなセキュリティをできればお願いしたいんだけど」
「えー!?じゃあ、もうちょっと火力下げる?」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「ちょっと貸しなさい!そも、あんたら化け物をストーカーする奴らが串刺し床なんかに引っかかるほどおとなしい奴らかってのよ……ここは、踏んだら酸の雨が大量に……」
「いやティズも何言ってるんだい!?爆発よりも罠発動後に悲惨な光景が残るじゃないかそれ!?自分の家の庭の話だからね?わかってる!?」
「落とし穴にして、その地下に大量の【自主規制】蟲を入れて……」
「カルラさーーん!?うちでそれ飼うつもり、本気で飼うつもり!?」
「いっそのこと、マキナに頼んで動人形でも配置してはどうでしょうか……暇なときは鍛錬に使えますし」
「はい、脳筋エルフが三日で全部ぶっ壊すフラグがたったので却下―」
「ちょっティズ!? どういうことですかー!!」
自分の家が建つとあってか、みんながみんな仲良く楽しそうにペンを持ち寄り、シオンが書いた家の設計図にいろいろとあれやこれやを書き足していく。
思えば、いろいろと最近はみんな忙しく、こうやってみんなで集まって和気あいあいと雨後すのは久しぶりかもしれない。
「ちょっと、僕の意見も書かせてよね!」
僕は、そんな久しぶりの光景に心を和ませつつ、羽ペンをもってその輪の中に飛び込むのであった。




