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327.迷宮の母 ティターニア


「あんにがフェアリーゲームだおらあぁ!」


首根っこを掴まれたままのティズであったが、怒りと怒声を込めた咆哮を上げると、そのままオベロンの顔面へと回し蹴りを放つ。


「ほぶぅっ!?」


顔面にクリーンヒットした蹴りは、オベロンを吹き飛ばす。


よくもまああの小さな体で十倍以上もあるオベロンを蹴り飛ばせるものだと感心していると。


「痴話げんかに巻き込まないでいただけますか? ティズ」


その光景に、サリアはため息を漏らしてティズをいさめる。


「これが痴話げんかに見えるのかっての! ストーカーよストーカー!! こいつ、尾てい骨へし折ってやったのにまだ私のことを追い回してやがるのよ! ゆがんだ愛情もいい加減にしろって言ってやってよウイル!」


「おめでとうティズちん。結婚式には呼んでね」


「今夜は御赤飯ですな」


「どうか、ティズをよろしくお願いします」


サリア、シオン、カルラ、そしてレオンハルトともども、僕はオベロンに頭を垂れる。


「ちょっとこらぁ!? 渡すな私を!!? 守れ!」


「よかったじゃないですかティズ。 やはり蓼食う虫も好き好き、世の中には物好きな人も……い、いたたたた!? み、耳を引っ張らないでくださいティズ!?」


「こんの筋肉エルフ!? アンタがそれを言うのかってのよ! こうしてやる! こうしてやるぅ!」


「でも、ティズ、妖精族の中でも結構年な方なんだろう? だったらそろそろ身を固めないと……」


「ウイルまで!? ひどい、ひどいわよ!? そんなこと言うんだったらあんたが私を貰いなさいよばかー!」


「え……それは」


「悩め!! 少しは悩んでよ、相棒でしょ!? パートナーじゃないの!? ここは過去の出来事を思い出して頬を赤らめるところじゃないのかってのよ!」


「ティズちん、そう言うことになるのは今まで女の子らしいことをしてきた人だけなんだよ」


「そうですね……思えば貴方、酒場でげろ吐くことぐらいしかしてないじゃないですか」


「……たしかに、です」


「言い返せない過去の自分のバカやろおおぉ!」


号泣をしながら叫ぶ妖精。


「あれ、なんか余が想像してたのとぜんぜん違う反応。 でもまあいいか。 ふはははははは!! どうやらお仲間も祝福をしてくれている様だぞティズ! では早速式を上げようじゃないか! 盛大な花火を打ち鳴らし! この世のすべての妖精を呼び幾千幾万の魔法にて空を覆い、大地を埋め尽くそう! 我らの挙式は世界から一日だけ夜を奪う! 世界の記録に残るフェアリーブライドとなるだろう!」


威厳はどこへやら、そんな言い争いを繰り広げていると、鼻からだくだくと大量の鼻血を垂れ流しながらオベロンはそれでもなお楽し気にこちらへと歩み寄ってくる。


ある意味狂気を感じる映像だ。


「何でもフェアリーつければいいってもんじゃないわよバカ!」


「オベちゃん、本当にティズちんでいいの? 後悔しない?」


「むろんだとも! 私がこの世に生まれ落ちたその日からティズと私は結ばれる運命であった! たとえ幾千幾万年たとうとも余が彼女を愛しているという事実は決して変わらない」


「酒場でゲロを吐くんですよ?」


「彼女から湧き出したものが汚く恥ずかしいわけがあるまい!喜んで受け入れよう!」


「酒場で乗せられてストリップショー開いちゃったしー」


「……ぶふっ」


満面の笑顔のまま、勢いよく鼻血を噴き出す妖精王。


どうやらそちらの方への耐性はもろいようだ。


「と、ともかく……余はティズを愛している。 この世の誰よりもな……だからたとえ今振り向いてくれなくとも何度でもアタックをして見せる」


「す、すてきです……その気持ちわかります! ウイル君、私オベロンさんとは仲良くなれそうです!」


「おぉ! その若さで愛の道を知るというのか娘よ! どうやら余は君たちのことを誤解していたらしい! ふはははは! 許せ許せ!!」


ストーカー同士の奇妙な友情がここに芽生えつつあった。


「……ちょっとカルラ!? 変態が移るから近づいちゃだめよ!」


「いい人じゃないか……ちょっと変だけど。 どうしてそんなに毛嫌いするんだいティズ?」


「それは……こいつが変態で……それで……」


一瞬……ティズは困惑したような表情をし……。


「あれ…………」


「理由が見つからないの?」


    その、封じられた記憶の琴線に触れる。


「て、ティズさん?」


ぽろりと……ティズの頬から涙がこぼれる。


「え? あれ? あれ?」


ボロボロと、しかしティズは困惑するように手で涙をぬぐうが。


それでもとどまることのない涙が……今までの喧騒がなかったかのように静寂を生み出す。


「……ど、どうしたのですかティズ!?」


サリアは慌てて泣きじゃくるティズを手で救い上げる。


「……わ、分からない。 分からないけど」




「……分からない? いいや、分かろうとしていないだけであろうティズ?」



そんな光景に、オベロンは一つ険しい表情をしてぴしゃりと言い放つ。


それは、ティズを非難するようでも……同時に慰める様なトーンであった。


「分かろうとしない?」


「いい加減、逃げるのはやめたらどうだ? ティズ」


「何よ……アンタに何が分かるって」


「記憶のない君が、自分の何が分かるというんだ?」


「!?」


その言葉に、僕やティズは目を見開く。


「え? 記憶喪失?」


シオンは首を傾げ、ティズは困惑したように涙を流しながらオベロンを見つめる。


「どうして、それを知って……」


「気づかないわけないだろう……君が何もかも忘れて、彼等を仲間だなんて言ってるからだよ」


嘲笑の笑いは、さすがの僕でも見過ごすわけにはいかず。


一歩前に出てオベロンに言葉を投げかける。


「悪いけど、ティズは僕たちの大切な仲間だ……君がティズのどんな人なのかは知らないが、そこを否定はさせないよ」


「おっと、少年……済まなかったな。 悪気はないんだ……だが、真実は非情に残酷だ」


「残酷?」


「余が親切に単刀直入に言うとだな……君はティズに騙されている……そしてまず間違いなく君たちの仲間の内誰かは殺される」


「!?」


「っ……」


ちらりと……オベロンはロバートの方を見やると、ロバートは鼻を鳴らす。


「随分な言いがかりだ……彼女は確かに横暴で破天荒だが……決して誰かを裏切るような人間ではありません……訂正を」


「……そう噛み付くな……彼女に悪気はない……いや、悪気はあるが忘れているのさ」


「……いい加減なことを言うんじゃないわよ!?」


「では聞くが、君は何のために彼と一緒にいるんだ?」


「……それは、私が奪われたフェアリーストーンを……取り戻すためよ」


「ティズは今、フェアリーハートを失っている状態なんだ……僕とリンクしているから生きていられるけど……ハートが無ければ妖精は生きていけない、君も知っているはずだよ?」


「……それは知っている。 余が聞いているのは……なぜこんなところに来たのだということだ」


「それは、アンドリューの魔術工房では、フェアリーハートを複製、移植する技術があるからで」


「ふむ……それがまず嘘だ」


「?」


「君は知っているはずだ……私のワールドスキルを」


「……………」


「君のフェアリーハートなんて……簡単に治せるんだよ」


ふいと、一つオベロンは指を振るう。


瞬間。


「!? !」


……いとも簡単に、僕たちの冒険の目的は達成された。


僕とティズをつないでいた、魔力のパスが一方的に遮断……強制終了を全身に伝える。


それは、破壊されたのではない……体を流れる魔力が増幅され、その感覚から、ティズの体が正常に戻ったということが感覚で解る。


「……なっ……」


「えっ?」


それが何を意味するのかは簡単だ。


 

 ティズのフェアリーハートが……彼女の内に戻ったのだ。



「これで、君の冒険の目的は消えた」


「アンタ、一体何を?」


「妖精族が知らないはずがない……ワールドスキル・現実喰(フェアリーテイル)らい。 我が願い、我が思い、我が空想全てを……現実と変えるこの余のスキルをな」


「アルフと同じ……?」


「ワールドスキルー?」


唖然とする僕たちに、なおも愉快そうにオベロンは笑う。


「……君は私を避けたのだ、フェアリーハートを取り戻すために、迷宮へと向かうという口実が消えないようにな」



「そんな……」


「記憶を取り戻そうとも思わずにいたことが何よりの証拠だ……君は記憶を失ったんじゃない、自分でふたをしたのだ」


「そんなわけない記憶喪失だって……一部だけ……ほんの少しだけよ!」


「一部? 一部だって? あぁ、確かに悠久の時を生きる君にとってはスロウリーオールスターズと共にいた記憶なんて一部かもしれないな……妖精女王……いいや……迷宮メイズマザーティターニア!!」


【迷宮】 ティターニアと呼ばれる妖精から生み出される、世界の破壊と再生の装置

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