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322.魔王の嫁 シオン


「だ、誰だ!?」


突然の声に、進行を務めていたピエールは驚愕の声を漏らし、怒りを込めてその声の主を探す。


と。


【-―――――――――――!!】


轟音が響き、クレイドル教会の入り口の扉が、ひしゃげ……そして悲鳴を上げる様な音を上げて取り外される。


その先にいたのは、一人の鎧姿の男。


あろうことか、その男は人の丈の十倍はあろう大扉を、片手で引きちぎるようにこじ開けたのだ。


「なっ!? ななななな……なんっ!?」


放り投げられ、音をたてて街に打ち捨てられる扉。


会場は静まり返り、その光景に人々は声一つ上げられずにただただその姿を見守ることしかできなかった。


「で……伝説の騎士」


誰かが言った。


伝説の騎士。


大国リルガルムを救い、アンドリューの幹部を打ち倒した伝説の男。


その鎧は闇よりも黒く、その手に持った螺旋剣は……天を裂き地を砕く英雄の証。


伝説の騎士。 救国の英雄。 騎士の中の騎士。呼び方は様々、されどそのどれもが彼の強さと……そして正義を物語る。



その、伝説の騎士が今……クレイドル教会の執り行う聖なる儀式に……異を唱え、怒りをあらわにして乗り込んできたのだ。


その理由が分からず、人々はただ目を丸くしてその行進を見守ることしかできない。


そして。


「と、とまれ!! この神聖なる処刑の儀式! いかに伝説の騎士と言えども……」


警告をするように、剣を抜き、伝説の騎士へと無謀にも刃を向けた聖騎士。


しかし。


【退け……】


振るわれた左腕一本で、騎士は宙をまい、壁に打ち据えられオブジェクトのようになる。


「!? あっ……なっ……なぁ!」


何が起こったのか……何に怒っているのか。


理由もわからず、そしてその行動理念も不明。


しかし、目前に起こった出来事は最悪であり。


人々は伝説の騎士の乱心に恐怖をする。


理由など言うまでもないだろう。


大国王都リルガルムはこのクークラックスなど比べ物にならないほどの大国だ。


その国を一人で救った男が、理由は分からないが今現在自分たちに牙をむいた。


それの意味することを理解できないものは少なく。


人々は悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとする……が。


「どちらに、向かわれようというのですか? 皆様方)


ひらりと、どこからともなく現れた細身の男……全身ローブに身を包み、顔をフードでかくした男は、逃げ出そうとする人々の前に立つと仰々しく一例をすると。



「抜刀!!」


凛と響いた声と共に……一番外側で処刑を見ていたはずの観客たちが、一斉に剣を抜き、逃げ出そうとする人々に刃を向ける。


「!?!」


その理由は分からず……人々は阿鼻叫喚の悲鳴を上げながら右往左往するが、ネズミ一匹抜け出すほどの穴もなく……クークラックスに住まう人々は全て例外なく、侵略者によって包囲されてしまう。


「なっなっなっ……なんだこれは……なんだこれは!」


大きな窓から外の様子を伺い、ピエールや教皇たちは顔を青ざめさせる。


一体あれだけの武装した人間をどうやってこの街に招き入れたのか、なんでこの街の人間全員が包囲されているのか? 


そもそもなんであれだけの人間が我々に牙をむいているのか……。


街の警護の物は? 見張りの物、物見やぐらの狙撃兵……巡回の騎士……そのどれもが、この異常事態になぜ動かないのか?


思考は真っ白、そして目前には闇よりも深き黒。


司祭たちは慌てふためきながらも教皇の身を守らんと折り重なってその状況を静観するが……伝説の騎士はそんな様子に目もくれることなく、一人処刑されるはずの罪深き少女の元へ一歩、また一歩とゆっくりと、しかし確実に近づいていく。


「……とまれ!? 止まるのだ! 何をしているのか貴様分かっているのか!? あまつさえ神聖なる処刑を止めさせ、神の使いである聖騎士団を殴り飛ばしたのだぞ!? 何か釈明があるなら行ってみよ! それとも、罪びととしてその名を刻みに来たのか! 答えよ、目的はなんだ!」


あまりにも強大なものに対し、その勇気はおろかでしかないが……しかしピエールはその身に持ちうるすべての勇気を振り絞り、迫りくる魔王に対しそう詰問をするが。


【聞こえなかったのか?】


「はっ!? はひいいいぃ!」


まるで真っ向から全身を串刺しにされるような重く、鋭い声が教会内に響き渡り、ピエールおよび教皇たちは死の恐怖に晒される。


中にはあまりの緊張から倒れる者、吐き出すものまで現れる始末。


ピエールが失神をしなかったのは奇跡に近いが……しかし彼の持つ精神力だけではそこまでが限界の様で……伝説の騎士の怒気をはらんだ声に対し、プルプルと目に涙を浮かべ子犬の様な瞳で伝説の騎士を見上げる。


【その処刑に……異議ありと言ったのだ……お前が言ったことだろう】


「はっ……はい、そ、その通りでございます……しかし」


瞬間、右手を振り上げた伝説の騎士は。


【セット……】


そうつぶやくと、瞬時にして目の前から消え。


「……なっ、何を!?」


瞬時にして罪人の元へ音もなく姿を現す。


【待たせたな……】


「う……うぃ……フォース、いったいこれは?」


そっと少女の元へと駆け寄り、手につながれた鎖を引きちぎると、伝説の騎士はそうつぶやきそっと少女を抱きしめる。


【話は後でしよう】


「ふぉふぉふぉ!? フォース!?」


抱きしめられた少女は、目をきょとんとしながらも顔を赤らめ、混乱したように慌てふためく。


「ぐっ!? 罪人が逃げるぞ! 殺せぇえ! 殺せえ!」


だが、ピエールはそんな二人の頭上より、刃を降り注がせるように騎士団に命令し、我に返った断頭台の聖騎士はすぐさま刃をフォースの上に落とす。


だが。


【メイク……】


大地より生えた一本の石の柱が、振り下ろされる断頭の刃を迎え撃つように伸びあがり……。 粉々に粉砕した。


「なああぁああ!?」


驚愕と悲鳴の入り混じった声は教会に響き渡り。


同時に抱擁を解いた伝説の騎士は、ぎろりと黒き鎧の内より光る赤い目がその場にいた司祭、教皇、そしてピエールをにらみつけ……その場にいた者全てを恐怖のそこへと叩き落す。


誰もが確信する……いまここで、我々は終わってしまったのだと。


【……ここに、断罪の刃は砕かれた……神はいたか? クレイドル教会よ】


ガタガタとその場にいた司祭たちは震えあがり、教皇でさえもその場で立ち尽くし自らの死を受け入れる。


威勢の良かったピエールも、その言葉により既に戦意を喪失し。


「な、なぜそこまでその女にこだわる伝説の騎士!? その女は魔族だ、絶対悪だ!?

魔物を操り、邪法に身を染めたものだ……なぜ、なぜそんな女を助けるというのか!? むしろ逆だろう伝説の騎士! お前は、そういうものを打ち滅ぼすために存在しているのではないのか!」


そう懇願するように叫ぶ。 正義の味方であれば、目前の少女を殺すことがお前の役割であると。


だが。


【あぁ、彼女は魔族かもしれない】


「だったら……」


【だがその前に……我が妻だ】


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