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319.異端審問は進まない

三日後……。


「して、罪人の様子は?」


もはや襲撃の面影など残すことのない、復活を果たしたピエールの王城。


街は、人柱となる魔族の登場……そして捕縛と処刑という一大イベントに湧き上がり。


そんな光景を領主の城の窓から覗きながら。


ピエールはそう、ジョフロアと共に並んでいる異端審問官に声をかける。


「……現在は大人しく牢につながれております……。抵抗する様子はなく、脱獄の可能性もないかと」


「ふむ……尋問の方は進んでいるのか?」


異端審問官とは、魔族もしくは時に現れる理性を保ったアンデッドを拷問し、司祭の望むような供述を罪人にさせるために置かれた職であり、その仕事の数は激減している職業でもある。


部族戦争以前は大活躍の職業であったが、人の範囲が大幅に拡大したこと……そして、公平かつ平等な裁判が主流になってきたこの時代にはそぐわないものとして淘汰されつつある。


しかし、歴史の長い彼らの仕事がなくなる……ということはなく、魔族の登場であったり……理性を持つほどの力を持ったアンデッド……真祖の吸血鬼の襲撃のようなクレイドル教を脅かすような事態に限りその出動は認められており、クレイドル教を守るためにその拷問技術をいかんなき発揮する。


戦闘力も高く、アンデッドの鎮圧から事後処理までをこの部門一つで綺麗に納めてくれる。


いわばクレイドル教会が持つ最高峰の防御機能である。


今回は、エルダーリッチーの討伐の為に呼び出された彼等であったが……予想よりも大きな獲物の登場に、その胸を高鳴らせながら……日夜磨き上げてきた技術をいかんなき発揮する……予定だったのだが。


「……ダメですね……魔力が強すぎます」


「我々の力をはるかに凌駕する魔法……思い通りに作業が進みません」


「うっかり触れそうになってしまった結果がこれです」


一人の審問官は、消し炭になった自らの左腕を振るい、そう苦笑を漏らす。


「うむ、しかし抵抗する様子は?」


「一切……詠唱をする様子も、23時間の監視体制の中で一度も魔力を練る様子が見受けられませんでした」


「ちなみに、一時間はおやつ休憩の時間です」


「水攻め、ペンチ、電気椅子、三角木馬、苦悶の触手に精神汚染魔法……爪剥ぎに寄生虫……この三日で我々が持ちえるカードは全て使ってみたのですが」


一瞬ジョフロアはその拷問の数々に一度むせ返るが、ピエールも異端審問官も平然とした顔で話を続ける。


「ですが、なんだ?」


「……拷問にかけようと近づけば、そのまま腕を炎で焼かれます……守りの護符なんて役に立ちません……」


「精神魔法は?」


「我々よりもはるかに力のある魔法使いです……数々の呪いを織り交ぜた魔法をかけたところ、大喜びをされた挙句」


【うーん、ここの恐怖演出はすごい良かったけど、もうちょっと冒涜的な言葉をならべた方がいいよー、うん! 45点!】


「……微妙な点数で評価をされ、呪いを作った審問官が心に傷を負いました……彼です」


「自信作でした……うっ、うぅっ……」


「元気出せって……」


「ありがとう……」


その時の光景を思い出したのか、呪いを作った審問官は目に涙を浮かべる。


「あー……それは気の毒に、だが相手は魔族だ、魔法は聞かないと考えた方がいいだろう? 寄生虫はどうだった? 触手は?」


「ええ、竜の炎袋に寄生をする寄生虫と回復魔法により、無限に内臓を喰らわれ続けるという拷問をしようとおもい、放ったのですが」


「が?」


「見事に丸焼きに」


「ウナギのかば焼きみたいになっていました」


「食べてみた人間が、腹を食い破られて死亡しました、昨日生き返ったのですが……彼です」


「次こそは必ず、食べつくして見せます」


「まぁ、資源を余すことなく使う気構えは大切だな……しかし、何か成功したものはないのか? これだけの術者がそろっているんだ……守りを固めれば一度ぐらいは」


「ええ第十階位の大魔導による防御をもってようやく耐えられたのが一回だけ」


「魔力切れで魔導士が三人緊急搬送されましたが……」


「その結果が聞きたかった! 魔族はどのような悲鳴を上げて許しを乞うたのかな!」


「いえ、耐えられはしたのですが……結界を張ってしまっているため、触れることができませんでした」


「馬鹿なのお前ら!? ねえバカなの!?」


怒声が響き渡り、ピエールの堪忍袋がついに切れる。


「……面目ない」


「あぁ、もういい!? それで、肝心なのは処刑だ処刑……ここまで大騒ぎで盛り上がっているんだ……殺せないでは済まされないぞ?」


「ただいま全力をもって、魔族の処刑方法を探しておりますので、いましばらくの辛抱を」


「……本当に大丈夫なのだろうな? 任せて」


「ええ、我らはクレイドル教会本部に代々仕えし異端審問官……我らに与えられぬ苦痛はありませぬ」


「お前らさっき手持ちのカード使い切ったって言ったよな?」


「ふふ、無粋なことは申しますまい」


「雰囲気だけかお前らは!?」


見た目だけ、セリフだけは一人前に異端審問官は笑みを漏らし、そんな光景にピエールはため息を漏らすと……。


「もういい、下がれ」


そう話を終わらせる。


「御意」


異端審問官たちは一度頭を垂れると、そのままピエールの部屋から出ようと踵を返す……と。


「お話は、終わりました?」


甘く、脳がとろけるような甘美な音が部屋の中に響き。


同時に。


「ぎょっ!?」


「ふべぇ!?」


「カバヤキ!?」


「ふぶっ!?」


一瞬の断末魔のみを残し、足元から伸びた白い腕により、次々に異端審問官は闇に自分の影に引き釣りこまれる。


「へっ!? なっ!」


先も述べた通り、異端審問官はクレイドル教会が持つ最高峰の防御機関であり、戦闘と拷問のエキスパ―トである。


その、審問官が全員……一瞬にして消えたのだ。


「……なっなっ何が起こって!?」


「ピエール様!下がって!」


ジョフロアは、健気にもピエールを守ろうと傍に駆け寄り剣を抜き姿の見えぬ敵に威嚇をするが……。


【―――!!】


不意に開いたクローゼット……。


その中から伸びる二本の白い腕が、ジョフロアの顔を掴むと。


「ひっ!? ひあああああああああ!?」


今度は断末魔の余韻を残しながら……ゆっくりと人が二人も人が入るはずのないクローゼットへと飲み込まれていく。


「なっ……なななななっななっ」


ぱたりと閉まるクローゼット……。


そして。


「さて、これで二人きりになりましたね」


「ひいいぃ!?」


自らの影の中から、一人の女性が顔を出し、ゆっくりと這いあがるようにピエールの元へと現れる。


齢20~25ぐらいだろうか、豊満な胸は揺れ、全身、そして表情からは色気という色気が溢れ出している。


どこかで見たような気もするが……。


その姿は全身黒い服に、まるで闇に飲み込まれてしまいそうなほど妖艶。


そして、少女ながらその姿は蠱惑的であり、自らを誘惑するようにゆったりと、自らの頬を掴んで舌なめずりをする。


その表情は魂の価値を値踏みするような……自らの命が掌の上で転がされる感覚に、ピエールは震えが止まらず全身から脂汗が噴き出す。


「あっ……はっ……はっ……貴様は」


「あらあら……そんなに吐しゃ物をまき散らしそうな表情で怖がらなくたっていいじゃないですか……お友達になりましょう?」


「貴様は……一体何者だ」


「私は拷問愛好者……ええ、しがない拷問好きでございます」


少女はそう、心底愉しそうに微笑を零すと……深々と軽率に一礼をしたのであった。

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