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31.サリアの華麗なる寺院脱出作戦

クレイドル寺院礼拝堂に存在する大きな女神像……生命をつかさどるその女神は

我々の象徴であり、全てであるはずだった。


「だが、私は違った」


懺悔をするように私は女神像の前に跪き、頭をたれる。


死体となった部下は5人であり、生存者は7人……。


あの後、洞窟から脱出をし、エレベーターを使用して逃げることに成功し、ゾンビたちを閉じ込めることには何とか成功はしたが……あろうことか奴らは、中庭に設置されていた階段を発見したらしく、そこから無尽蔵に沸き続け、私達を付けねらっている。


教会の中に階段を設置していなかったことは本当に不幸中の幸いであったが、今現在ゾンビたちに教会を取り囲まれ手いる状況が絶望的であることには変わりはない。


「あぁ、神よ」


ターンアンデットもメイスも効かない。 頭を潰しても何をしても死なないアンデット。


それは紛れも無く神の怒りと神罰であり、私は仕方なくその現実を受け止めた上で神に許しを請う。


生き残った僧侶と私を含めた八人は皆、祈りを捧げる。


「私が間違っておりました、私腹を肥やし、人々から財を巻き上げた……私に出来ることならば何でもいたします。 お願いします……。 お願いしますので……どうか、お助けを」


神など信じていない。 どうせ声も聞こえなければ何もしてはくれないだろうが……こちらの方が落ち着くことができ、敬虔な神父として死ぬことが出来るかもしれない。


【その言葉に、嘘はないな?】


しかし、神は私の前に現れた。


響き渡る声がステンドグラスよりも奥から響き、確かに僧侶の誰でもない女神の声が私達の頭上から響き渡り、僧侶達にどよめきがおこる……。


と同時に。


豪快な音と共にステンドグラスが割れ、天使が舞い降りる。


「あ……」


翼を失った天使は華麗に夜空より舞い降りる。


その姿は金色の長い髪に、長い耳……その青い瞳に神々しいまでの御姿はまさに神でなければありえないほど端麗……異国の服を身にまとっているが……恐らくは異国からの帰還の最中で……


いや、エルフか……うん、どうみてもエルフの戦士だ。 


そしてそれに続くように、その仲間達が二階のステンドグラスを破って中へと侵入し、私達の前に舞い降りる。


「な……なな!? なんだあんたら!?」


僧侶の一人が突如降って来た天の使いにそう言葉を漏らすが、その少女は微笑を浮かべたまま。


「マスターの意志により、お前達を救出に来た……」


そう短く返答をする。


それに続くように、光り輝く妖精が一匹夜空から舞い降り、少女の肩へととまる。


「門の前にいないと思ったら、みんなでお祈りしてたのね……それするんだったら裏側の門しっかり押さえときなさいよ!」


まさに神が使わした救いの手……私は神の慈悲深さに感謝をし、同時に己がまだ死ぬ定めではないことを実感するが。


「……酒くさっ」


同時に鼻を突く酒のにおいに気付いてしまった。


「え? なに? 酒入ってんの貴方達」


「まあな」


「しょうがないじゃない。 お酒飲んでるところに依頼が来たんだから。 大丈夫よ、お酒が入ってたって、仕事に支障はきたさないわ」


 不安だ。


「ちょっと待ってよ二人とも~」


「シオン、落ちないようにね」


「それは大丈夫―」


私が不安に思っていると、続けるようにまた二人の冒険者がステンドグラスから教会に侵入をしてくる。


先程の二人とは違い、この状況に似つかわしくない呑気な声を上げながらロープをたらしておりて来た二人は、恐らくこのエルフの従者と魔法使いといった所だろう。


「ご無事ですか?」


「え、ええまぁ」


そしてこの二人も当然のように酒臭く、白い髪の女にいたっては足元がふらついている。


あ、神様今日私のこと殺す気だわ……。 聞いたこと無いもん、救出に来た冒険者が全員酔っ払ってるなんて。


しかもよく見たら、この人たち、蘇生費用金貨一万枚のところを十倍の値段払わせたパーティーじゃないこれ。


アー終わった……助かったとしてもこのパーティーに殺される落ちだこれ……。


神様完全に怒ってるよこれ……どーすんのこれ。


あ、でもとりあえずこの人たちに蘇生費用ぼったくったことはばれてないから、ばれなければ……。


「神父」


「あ、はい!? 何でしょうか」


失礼なことを考えていると、最初に降りてきたエルフの少女は私に声をかけてくる。


この子は他に比べてしっかりしているようだ。


「これから貴方達の救助を開始するが、ここにいる以外に僧侶はいるか?」


「いえ……ここにいるだけです。 残りは皆殺されたかアンデットの仲間に」


「なるほど、先程裏手の敵は殲滅して来ましたが、ここに侵入するまでにはすっかりまた囲まれてしまっていた。 最善は尽くすが、貴方達にはあのゾンビの中を通り抜けてもらいます」


少女の言葉は力強く、絶望的かつ危険な脱出方法であったが、誰一人として怯えることは無かった。


彼女ならば私達を助けてくれる。 そんな理由の無い安心感と、その少女の圧倒的な強さを誰もが感じていた。 


普通の人間が語ったのならば、我々のうち誰かがゾンビの手にかかり命を落とす姿を想像しただろう。


しかし目前のエルフの少女が語る言葉からは、自らがゾンビの手に掛かるイメージが湧いてこない、せいぜい、怖いゾンビの姿を見てしまう……これから身に降りかかる恐怖のイメージが、それだけしか湧いてこないのだ。


これがマスタークラスの冒険者……、私は語らなかったが、この場にいた僧侶の全てが彼女がマスタークラスであることを肌で感じ取り悟ったことだろう。


それだけ彼女の言葉には絶対の自信と強者の余裕が存在しており、我々は逆らうなどという言葉を自らの辞書から抹消をする。


「貴方に従います。 どうか私達を助けてください……えーと」


「サリアだ。 聖騎士のサリア」


「サリア様」


「ああ。 では脱出の作戦を説明する。 簡単だがな」


「はい。 お願いします」


「外のゾンビは恐らく私達が知っているゾンビとは違うというのは気付いているはずだ」


「ええ! ターンアンデットが効かないんです」


「そうだ。 ターンアンデットが効かないし、頭を潰しても死なない。 私はしばし迷宮を離れていたため知らないが、ここ最近で新しいアンデットが確認されたという例は?」


サリアの言葉に、全員が首を横に振るう。


「そうか、お前達の考察の通りやつらは今まで誰も見たことの無いアンデットであり、その大群から逃げるとなると情報が足りなさすぎる。 今まで有効だからという経験論を元に君たちを引き連れれば、恐らくは全滅、少なくとも一人が犠牲になる可能性があるだろう」


この短時間で……ここまで新しいアンデットについて分析し、それを踏まえた上で安全な逃走方法を考え出すとは……。 


一人神に祈っていた自分を恥じる。 


「そこで、だ。 今回はこのアークメイジのシオンに、誘い精霊を使用することで敵を

引き剥がし、その隙に脱出をすることにした」


「誘い精霊……ですか」


誘い精霊とは、その言葉の通り、魔物を引き寄せる精霊を召喚する魔法であり数分の間敵をひきつけるうるさい精霊を出す呪文である。


「……確かにそれであれば、アンデットが新種であろうがなんだろうが、切り抜けられますね」


作戦は本当に単純であり私達に出来ることはないと宣告をされてしまったようなものだ。


誘い精霊は鈴の音を響かせて飛び回る精霊であり、それでいて術者とその周りに認識阻害の結界を張る。


その為、自らは襲われず、魔物は幻の幻影を追い掛け回し、道を安全に勧めるという簡単な呪文であり、失敗することも先ずない。


理にかなった脱出プランにより、私達の不安は更に消え去った。

「何か、質問があれば受け付けよう」


最後に付け足された一言に対し、私も含めた全員が首を横にする。


「よし、では皆さん一つに集まってください。 今から外に出ますから」


そういうとサリアはシオンという少女に何かを語りかけ、シオンは顔を明るくして杖を構える。


「よし、じゃあ出発するわよ」


なぜか仕切る妖精の指示に従い僧侶達と共に正面入り口の場所まで避難をしに行く。私達は正面入り口の扉の前に立つ。


扉からは拳で力強く扉を叩く音が響いており、扉を開ければすぐそこに生者の命を狙うおぞましい怪物たちがいることを教えてくれる。


今はまだ魔法の力でなんとか扉は耐えていてくれるが、あれだけの大量のゾンビがなだれ込んできたら耐えられるものではなかっただろう。 


扉にくっきりと現れている大きなヒビが、その予想が正しいことを私に告げており、

私は寒気を覚える。


「じゃあ、心の準備が出来たら開けてください」


サリアの従者であろう、気弱そうな少年の言葉に私はうなずき、深呼吸をして開門の呪文を唱える。


「ああああ」


扉はゆっくりと内側に向かって開いてゆき、開いた扉の隙間からゾンビたちの声が入り込んでくる。と同時に隙間に向かって三十体程のゾンビの手が伸びてくる。


「こ、これだけのゾンビをどうするつもりですか?」


誘い精霊はこれだけ敵が近くにいる状態では発動はしない。 

つまりは、このゾンビたちは少なくとも倒さなければいけないということだ。


「大丈夫だ。 少し下がっていろ」


そういうと、少女は開ききる扉の前で抜刀の構えを取る。


エルフの少女がなぜ異国の服を身に纏っているのかが気になったが、ようやくここで私は気付く。


このエルフの少女は、異国のサムライの技を習得しているのだと。


「戦技」


短く、少女はスキルを発動する。 姿勢を少し前のめりにさせ、納刀した剣の柄にそっと小指と薬指を沿え、扉が開ききるのを待つ。


緊張感と、その姿勢の美しさに誰もが言葉を失う。


そして。


「ああああああああああああああああああああ!」


なだれ込んでくるゾンビたち、その数は40体は確実にいるだろう。


当然目標は最前線にいるエルフの少女であり、この数を剣一本で捌くのは常人には不可能である。


ましてや、身動き一つせずに、その腕を回避しようともしないならばなおさらだ。


まさか酔いによって冷静な判断が出来なくなっているのか、そう心配してしまうほどに少女は迫り来るゾンビを前に微動だにしない。


腕が伸びてこようが、ゾンビが胃の中のものを飛ばしてこようが、少女はピクリとも動かない。


しかし、だというのに、仲間の誰一人として少女を心配するような表情は見せなかった。


「あっ!? あぶなっ!?」


ゾンビの腕が少女を引き寄せて食らいつかんと伸ばされ、少女の髪に触れようとしたその瞬間。


 何かがぶれるような……そんな目前の映像の乱れが一瞬だけ起こる。


「……断空」


響いたのは鞘を納刀する鞘と鍔がぶつかる甲高い金属音のみ。


しかし、目前にはその胴体と腕を全て丸太切りにされたゾンビの姿。


「あああああああああ――」


「ん?」


操り人形の糸が切れたかのように、ゾンビたちは声を失い、その場に倒れ付す。


「え? あえ?」


声が出ない。 何が起こったのかさえもわからなかった。


ただかろうじて見えたことは、少女はあの一瞬で刃を抜き、そして納めた。 


それだけだ。


そして予測できることは、その高速の抜刀術により、斬撃を飛ばしたということ。


斬撃を飛ばすなど、普通の人間には不可能であり、ましてや人間の体を四十も丸太切りにするなど、御伽噺の世界や安値で売られている小説の中でしか見ることはない。


だが、それが出来るからこそ、目前の少女はマスタークラスにいたることが出来たのだろう。


これで蘇生費用ぼったくったなんてばれたらと想像するだけで背筋が凍る。


「さて、綺麗になった。 シオン、頼めるか?」


「了解りょうかーい!」


ゾンビの丸太切りになった死体をまたぎながら、シオンという魔法使いは扉の前へとやっていき。


「いっくよー! 騒がしき精霊のまがいもの! 飛び出てはしゃいで敵を欺け!!


楽しいこと! 面倒ごと もっと起これ! 誘い精霊! 10連発―!」


「じゅっ!?」


僧侶達が最後の呪文で一斉に吹き出す。


そんないい加減な詠唱で十個も魔法が発動するわけが……。


「おーー! これが誘い精霊っていうんだ」


でちゃった。


白の精霊に擬態した魔法の塊が十個その場に杖から発せられた光により形作られ、可愛らしい笑い声を発する。


「え? あんなので十個も出るの?」


「でるよー?」


さも当然のことのように魔法使いの少女は首をかしげる。


「え? え?」


え?私がおかしいの? 常識だったの? 恥ずかしい。


「そんな簡単に魔法って連打できるものなの? ティズ?」


従者の少年もそのことを知らなかったようで、隣の妖精に私が抱いていた疑問を投げかけてくれた。 ありがとう少年。


「スキル・魔力拡散っていうスキルのおかげよ。 普通は結構修行しないと手に入らない特殊スキルなんだけど……まぁ、あの様子だと生まれつき持ってたんでしょうね」


「あぁ……なるほどね」


少年は納得したようにうなずき、私は魔力拡散という魔法使い特有のスキルについて学んだ。


私ですら知らないのだ……恐らくあの妖精の言うとおり相当高レベルの魔法使いにならなければ覚えないのだろう。 


酔っ払った状態で助けに来てくれたときは本当に神が私を殺そうとしているのではないかと本気で疑ったが、この実力にレベルを見せ付けられれば嫌でも痛感する。


彼らにとって、ゾンビに包囲されることなど、酒に潰れていても容易に達成できてしまう程度の任務なのだと。


そうして私は、彼等の任務達成を見届ける。 天才とマスタークラスの冒険者による……鮮やかな救出撃を、その少し後ろという最高の観客席で……。


「いっけーーーー!」


全身全霊の力をこめたのか、魔法使いは浮いていた精霊を一気にバラけさせて放出をする。


敵を誘導するこの呪文は、知能が低い敵をその精霊の元に引き寄せる。


範囲は精霊の声が聞こえる範囲のみになってしまうため、一つだけでは心もとないが、


十個も放てば庭園の全てのゾンビを精霊の元に引き寄せることが出来る。


後は、精霊にゾンビたちが引き寄せられている間に、悠々と脱出をすればいいだけだ。


「いくぞ、離れるな」


誘い精霊の笑い声が響き渡ると、サリアは私達を連れて教会の一歩外にでて……。


「え?」


すぐに足を止める。


「何か、あったのですか?」


後ろにいるため、その光景を見ることはかなわなかったが、何か問題が生じたことはすぐに分かった。


「いや……ええと、シオン」


だが、あれだけの技術と魔法を見せ付けられたあとで、自分たちの生還以外の未来など誰も想像できないだろう。。


「へ?」


「どういうことだ……ゾンビたちが一直線にこちらに向かっているぞ」


『えええええええええええええ!?』


だからこそ、その言葉に私達は卒倒してしまう。



あぁ……やっぱ神様私のこと今日殺す気だ……。


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