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309.狼よ神を喰いちぎれ

「あらら、なんだか知らないけど化け物二人が目前の化け物を殺してしまいそうなんですけれども……」


目前で繰り広げられる聖騎士と忍の万国超人びっくりショーを、もはやなれたもんだと

驚愕をすることなくシンプソンは淡々と語り、サリアでも倒せないと豪語したマキナへと視線を移すが。


「マキナ、サリア単体なら勝てないっていっただけだからな。 同じレベルの化け物二人いたらそりゃレヴィアタンもきついって……マキナも絶対勝てないからあれ」


マキナはそれに対してそう言い訳をする。


「神様が白旗上げるんじゃもはやなすすべ無いですねそれは、ですがそんなことよりも槍の準備済んじゃってるんですけども、私この振り上げた拳どうすればいいんですかねえ!」


既に、神物語により【オモイヤリ】の準備は万端であり、シンプソンはノリノリで船首に立って槍の準備を始め、いざ振り下ろさんと格好いい不必要な詠唱や祈りの言葉まで並べていたのだが……その直後にレヴィアタンが落ちたため、シンプソンは少し不貞腐れ気味だ。


消化不良といってもいい。


「あはは! かっこつけて無駄なことばかりしてるからよあほ神父! 其の槍はあなたの人生そのものよ!!」


「私は神に愛されてますううぅ! それに、まだレヴィアタン生きてますからとどめにこの槍投げちゃえばいいんですよ! ねえマキナさん!」


「いいんじゃないか? レヴィアタン、翼もがれただけだし。下手するとあそこからでも巻き返しちゃうぞ?」


「ゑ?」


【あああああああああああああああああああああああああああああ!!】


マキナの言葉に呼応するように、地に堕ちたレヴィアタンが咆哮し、激音と共に大地から大量の水が噴出する。


その量は先ほどの津波をはるかに超える量であり、この力こそがレヴィアタンの本当に力であることを示していた。


「あー、なるほど、そりゃ元が蛇っぽいもんね。 おまけもがれたぐらいじゃ弱らないか……くそ神父急ぎなさい! 私達が死ぬ前に!」


「変わり身の早さは忍者以上ですねティズさん! ですがこの際はそれは不問にしましょう! なぜなら私も久しぶりに英雄伝説の真似事ができるのですからね! ちなみに、私が仕留めたらあの化け物の素材は全部私がもらいますよ!」


「あ、なんかノリノリだと思ったら狙いはそこか!? それなら羽はよこしなさいよ、筋肉エルフとレズ忍者が切り落としたんだから!」


「人間の欲は醜いなー」


二人の醜い争いを見ながら、しみじみとマキナはあきれたように嘆息を漏らし。


「それは良いけど二人とも、もう津波が目の前に迫ってるからね……」


数十メートルまで迫ったツナミを前に、リリムは困ったように現実を語る。


「ぎゃああぁ!? いつの間に! 死ぬ、死ぬわよ神父! 早く何とかしなさいよ!」


「ええい、ティズさんが余計なこと言わなきゃよかったんでしょうに!」


「あによ、あたしのせいだっていうの!?」


「それ以外に何があるっていうんですか!? そもそも私がいなければ……」


「もう、いいから投げなさーーい!」


しびれを切らしたと言わんばかりに放たれたリリムの怒声に、シンプソンは反射的にそのまま槍を投擲する。


【かみものがたりいいぃ!】


もはや詠唱も祈りの言葉も何もない不格好で文字通り投げやりな一投。


しかし、その神秘の再現は……穿った解釈を挟む余地もなく。


ツナミを屠り。


真っ直ぐに敵へと走り、その身を貫く。


【ぎゃあああああああああああああああああああああぁ!?】


これまさに神の一刺し……。


レヴィアタンはなすすべも回避も間に合うことなく、250のエンチャントがかけられた槍をその身に受け、大地に串刺し状態になる。


だが、それで終われば終末などと呼ばれるわけもなく。


【ぎゃあああぁああばばああああああ!】


怒りと痛み、そして憎悪の混ざった咆哮を上げながら、自らの血でどす黒く染まった槍を、終末へと挑む愚かな船へと放つ。


「ぎゃああぁ! なんか、なんか来てるんですけど!? これで終わりじゃなかったんですかあ!?」


まだ息のあるレヴィアタンに、シンプソンはパニック状態になるが。


「どいて!」


そんなシンプソンを、リリムは押しのけ自らが船首に立ち。


最後の始動キーを発動する。


〖これが最後の大仕上げ! 愛しき意思よ、高き壁を打ち砕かん!!〗


エルフ語により折られた独自の詠唱。


目前に立つ絶望……死への恐怖……しかしそれをもはるかに超える熱情を心に刻み……。


少女は終末を凌駕する。


【ゲイヴォルフ・ゼロ!!】(棘よ、内から這い伸びよ)


不意に……レヴィアタンを貫いた槍が形を変える。


まるで、突き刺さり絡みついた茨のように……。


成長するかのように、槍は形を変え……棘のようにレヴィアタンを内側から貫いていく。


一つ……二つ……。


次第に棘の伸びる速度は速くなり。 やがて破裂するようにレヴィアタンはその身を削られていく。


【がああああぁ!?】


もはや絶命は必至。


体の半分を失い、そしてその棘はあろうことかねじ曲がりレヴィアタンへとまとわりつく。


恐ろしいことに、この棘は神を刺し貫くだけでは飽き足らず、喰らおうとしているのだ。


その傲慢さ、その不敬に、レヴィアタンは最後の力を振り絞り、その不敬を働く愚かな船へと最後の一撃を飛ばす。


もはや気力の勝負。


「くっ……倒れない……」


力を籠め、リリムは次々にアダマンタイトの槍を変形させとどめを刺す。


その一刺しは確実にレヴィアタンを死へと近づかせるが。


【ガアッ! ギィアァ! グエアァア! ゴッヴァアァ!】


レヴィアタンは、死ぬよりも早く船を貫かんと全身から血を噴き出しながらも必死に命と意識を保つ。


死が先か……槍が届くのが先か……。


結末は、神の維持とプライドが勝利することとなる。


「っ!? 間に合わない……!」


「いやあああぁ!? こんなところでくそ神父と心中なんていやああぁ!」


「ぎゃああああ!? 間に合いません! 間に合いませんよねこれ!? 死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ!?」


もはや水の槍はリリムの眼前へと迫り、レヴィアタンはその瞬間に、一矢を報いたことを確信するが……。


「アイス・エイジ!!」


不意に眼下で声が響き渡り……リリムの眼前にて……その槍は凍り付き制止をする。


「まずだああう゛い゛る゛うううぅうううぅう!?」


下を見ると、そこには笑顔を向けてリリムの姿を見守る……少年と呼ぶにはもはやあまりにも精悍すぎる戦士の姿。


「っもう……格好良すぎだよ」


リリムの心は……その英雄の姿を見るだけで、何度でも魔力の火をともす。


「大好きな人の前で……かっこ悪い所は見せられないよね!!」


リリムはそうにこりと笑うと……充填された魔力で最後の仕上げを行う。


「これで……終わりだああああああああぁ!!」


咆哮にも似た掛け声とともに、リリムは充填された魔力を一気に放出する。



瞬間。


大口を開く槍から現れた棘。


【フェンリル・バイト!!】(狼よ、神を喰らいちぎれ)


……最後の一撃を防がれたレヴィアタンは失意と絶望の中、やっと気が付く。


これは棘なのではなく……大きな口の化物なのだと。


閉じられた白銀の大口……牙は最後にレヴィアタンの体を貫き……レヴィアタンは自らの終末を受け入れる。


―――――――――――――――――。


一度金属が重なり合う大音が響き……そして聞こえるのは遠くで響く爆発音のみとなる。


「……か、勝ったの?」


レヴィアタンの血でできた氷漬けの槍は、宿主を失ったためかボロボロと崩れ落ち。


ティズは半べそ状態でピエールにしがみ付くシンプソンの頭の上でそうつぶやく。


勝利……。


しかし神を退けるという偉業を成し遂げながらも、少女リリムは誇ることも、猛ることもなく。


ゆっくりと振り返り。


「えっと、レヴィアタンの鱗で作った鎧に、牙の武器は、近日入荷予定なので、お求めはクリハバタイ商店まで♪」


「宣伝したぁ!!?」


「というかちゃっかり持っていかれたぁ!?」


                         ◇

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