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305.シンプソン流平等主義

数時間前。


「津波が、この聖王都に向かっております!? このままでは、この城もろとも水の中に……」


「おー、これぞまさにノアの大洪水って奴だなー」


呑気に笑うマキナは、雨に打たれながらそんな絶望的な状況にそんな言葉を述べ。


「ちょっとー!? 溺死とか最悪ですよ最悪!? 生き返るたびに何度も蘇生されては溺死するんですから!? お金が、お金の減りとストレスがマッハなんですよ!」


シンプソンは相変わらず絶叫にも似た悲鳴を上げている。


「なるほど……アンデッドによる街の占拠ののち、水に沈めることで籠城している人間を余すことなく皆殺しにすると……ヴァンパイアは水死はしないし合理的だね」


「何冷静に分析してんのよ狼女!? 私あんな高くまで飛べないってのよ!? このままじゃ死んじゃうわよ」


「ちょっ!? なんですかあの大波……っていうかあの並みの後ろにいるでかいのはなんだ!? ここは神の国だぞ……なぜあんな化け物が神この場所を……」


「あらー……あれレヴィアタンじゃん。 どーする? サリアおねーちゃんでも倒せないぞあれ……」


「どんな化物ですか!?」


「レヴィアタン……悪魔アクエリアスだと!?……ふざけるなここは神の国だぞ! おおぉクレイドル神よ! 今一度あの忌まわしき悪魔に天罰を!」


「アンタも、分かりやすく信仰と現実逃避をごっちゃにしてんじゃないわよあんぽんたん!? この私よりも役立たずでどうすんのよ!」


ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てながら、ティズは困惑し動揺するみんなにそう喝を入れていく。


効果があったのかは謎であるが。


「到着までおおよそ、ニ十分……最速で外の吸血鬼を排除するとしても、間に会わないね」


「あららー、残念、この街の運命は終わってしまった」


マキナはどこか楽しそうに笑いながら、この街の命運を笑う。


その笑いは、無邪気な子供のものであったが、その瞳は全てを分かったうえで……この街の破滅を嘲笑であり、その笑みにピエールは不気味さを覚える。


いや、その場にいたすべての司祭がその少女に恐怖を覚える。 


見た目はただのドワーフの少女でありながら、それこそ超常的な存在を目前にしているかのような恐ろしさを感じ……その少女に破滅を喜ばれているという現実が、まるで神に見放されたかのようないいしれない恐怖と、言葉にできない不安感にてその身を包みこむ。


だが。


「ちょっと!? なーにしれっと諦めてるんですか! こんなくだらないことで死にたくないですよ私! 何のためにあなた達の側についたと思ってるんですか! 保身の為なんですからね!」


そんな恐ろしい存在に、シンプソンはおじけづくこともなくそうわめき散らす。


子供相手に喚き散らすその姿はまさに情けないの一言に尽きる。


ただの愚か者……ピエールはそんな落ちた神父の姿に、クレイドルが完全に自らを見放したのだと悟る。


「まーまー、シンプソンの死にざまなんて往々にしてそんなものだ、いーじゃないかクレイドルおねーちゃんを貶める悪いやつらが皆死ぬだけだぞ? マキナ悪いやつは許さないからな……そうなったらこの街はお前のものだ、そうすれば富も財もぜーんぶ独り占め。 きっとおねえちゃんもそれを望んでるはずだぞ?」



その言葉は子供じみながら……残酷な言葉を吐く。


純粋な子供からも望まれる死。


滅んでしまえと……冗談でも何でもなく、我らは心から望まれた。


誰よりも人間を愛し、神の為に生き続けてきた我々が、悪いやつと子供に断じられたのだ。


だが。


「何言ってるんですか!」


子供を叱りつける……というよりも、とんでもない過ちを犯している人間を正すかのように叫ぶ。


「へ?」


その言葉に、マキナは驚いたような表情をシンプソンに向ける。


「町の人間が死ぬだけとか! そんな気軽に言わないでください!」


「意外だなシンプソン……まさかお前からそんな言葉が効けるなんて、あれか? ツンデレって奴か? それともここにきて神父としての自覚が……」


「そんなわけないでしょう! これだからあなた達神様って部類は嫌いですよ! お金ってものを全くもって理解していない!」


「?」

「?」

「?」


その場にいた全員が、シンプソンの力説に首を傾げる。


「この際だから言いますけどね、神様もそこのピエールもしっかり聞いておいてくださいよ! そもそもピエールは、人間が至高の存在だとか、他の種族が劣等種だとかほざいていますが! それが大きな間違いですよ!先ほどからドワーフの少女を敵視してますが、ドワーフはこの素晴らしくも美しく、純度の高い金から一グラムの誤差もない全く同じ金貨を作り続けることができます! それだけじゃありません、私たちが何気なく使っている小道具、祈りをささげるための十字架や、蠟燭をともす燭台も、全てドワーフの技術によってつくられています!机も、テーブルも祭壇も彫刻もそうですよ! 加えて、戦争終了後の壊滅した都市を復興したのはノームの建築技術です!? 建物はいいです、建てるのも管理するのも大きなお金が動きます! 食糧事情はどうですか? 働くためには最良の食事が必要です! エルフは作物や森の恵みを育てるのに最適な種族です、人間は食べなければ仕事もできませんし経済を回すこともできません! 計算能力の高いハーフリングは当然、その膨大なお金を管理してくれます! いいですか? お金というのは人が生み出した【価値】なのです、ゆえに人間だけではありません、人がいなければそれはもはやお金ではないのです! ゆえに、この世界に必要のない人間なんていません、人は生きて働き存在するだけでお金を動かすのです! だから、奪ってもいい命なんてこの世には一つもないのですよ! 性格も過去も関係ありません! 人は、生きているだけで素晴らしい! だってそうでしょう? お金なんてすばらしいものを使い、増やし、回し、大切にできるのは、この世で人だけなのすから!」


博愛主義なんてものからは程遠い、主観と欲望にまみれた平等主義を唱えるシンプソン。


そんな彼の言葉に、ピエールは敬虔さのかけらもない同僚の言葉に目を吊り上げて怒りに震えている。


だが。


「……なるほどな……おねえちゃんがお前を好きなわけだよ」


その言葉にマキナは納得したように一つ微笑む。


その理由はわからない。


だが、マキナはその言葉にどうやら感銘を受けたようだ。


「……好かれたくもなんともありませんけどね! 私は金さえあれば満足なんですから、だから誰であろうと対価を払わなければ助けませんし、逆にお金さえ払っていただければ魔王であろうと助けますけどね」


「それをこの場で言う勇気とふてぶてしさ、やっぱりお前みたいなのが神になるのが一番だな……おねえちゃんは、失敗したから、お前みたいのに憧れてるんだろう……そして、きっとここでみんなを見殺しにしたら、おねえちゃんはきっと悲しむ。 うん、マキナ決めたぞ、シンプソンのいう通りにする! この街を助けるぞ!」


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