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30.寺院への潜入

裏道を抜けていくことを選択した僕達であったが、騎士団は本当にゾンビたちが入ってこないようにするためだけにいるだけらしく、少し人気の無い所から通っただけで簡単にクレイドル寺院には近づけた。


裏通り、繁栄者の道を抜けた先にある小さな小道から粗大ごみを一時的に処理する施設を抜けて寺院の裏手に回ると、裏口にもゾンビが大量に押し寄せており、既に扉は殆ど破壊されかけていた。


「……表に比べれば数は少ないけれど」


「魔法で切り抜ける?」


「いえ、貴方の魔法は表の奴らを片付けるのに必要です。 マスターいけそうですか?」


サリアは心配そうな表情を僕に向ける……目前のゾンビはオークやコボルトとは非にならない数であり、少しでももたつけば表のゾンビを呼び寄せてしまう。


その為、滞りなくあのゾンビたちの殲滅が出来る自信があるかどうか、サリアはそこを心配していたのだ。


本当は少し不安はあったが……そんなことを言われては、成功させないわけには行かなくなるじゃないか。


「勿論」


僕は自分を心の中で奮い立たせて、ホークウインドを引き抜く。


「いい返事です。 マスター」


それにサリアは満足そうに力強くうなずき、同時に剣を抜く。


「合図したら、左をお願いします……」


「分かった……」


一瞬の間を置き、サリアは一つ息を吸い。


「行きます!」


僕とサリアは突進を開始する。


「はあああああああ!」


「でやあああああああああ!」


生きのいい生者の声に反応したのか、ゾンビたちはゆっくりした動きで振り返り僕達の存在を認識し、捕食行動を開始する。


「っ!」


ゾンビの動きは緩慢であり、背後を取れば確実に先制攻撃を当てることが出来る。


その為僕は一番後ろにいたゾンビの体に一撃を放ち、そのまま行動不能にさせる。


流石はホークウインド、通常のロングソードではアンデットを行動不能にさせるには数度切りかからなければならないが、一撃の下にアンデットは唯の死体へと戻っていく。


「あああああああああ!」


しかし、安心するのも束の間、伸びる手が一つ僕の頬をかすり、同時になだれのように腕が伸びてくる。


「あっぶな!?」


伸びてきた手をのけぞって回避をした後、僕は体勢を低くして横に飛ぶ。


僕が飛びのいた後には、ゾンビの手が伸び、方向転換をしてまたこちらに向かってくる。


「数が多すぎる……」


掴まれば即アウト。 そして剣では一体一体しか破壊することは出来ず、そうなるとやはり長期戦のリスクを背負うことになる。


こいつに殺された場合、僕自身もゾンビになってしまい蘇生が出来なくなるという恐ろしい特殊能力を持った存在……。


迷宮で何度も戦うことはあったが、十体以上群れているときにまともに戦ったことは一度も無い。 


痛みも心も全てをうしない、食欲のみで動き続ける死者は不気味であり、攻撃に怯まないため熟練の冒険者もそのことを忘れて殺されることが多々ある。


だからこそどんな熟練の冒険者であっても、範囲攻撃魔法を持たない人間がアンデットの大群と戦うことはありえない。


「っせい!」


もう一度ホークウインドを振るい、ゾンビの腕を落とす。


本来ならば頭を落とすのが定石だが、そこまで近づいてしまっては簡単にその伸びる腕に絡め取られてしまうし、僕の腕では一撃で頭を跳ねることは不可能だ……だからこそ、機能が停止するまで斬り続けるしかない。


「ああぁあ」


かといって時間をかけすぎては、表のゾンビたちがこちらに集合してきてしまう。 


そうなれば人命救助など絶望的だ。


「……何か……何か一度に倒す方法は」


繰り出される腕から逃げながら、思考をめぐらす。


ゆったりとしたおぼつかない足取りで僕を追い詰めていくゾンビたち……このままでは……。


「……足」


そうか。


後退から転じて前方に進撃をする。 人間であれば奇をてらった不意打ちにより正常な判断を阻害することが出来たかもしれないが、思考も何もないアンデット相手にはまったく関係の無いことであり、アンデットの集団は変わらずに腕を伸ばし僕をつかまんとする。


だがそれでいい。 予想通りの動きをしてくれるからこそ、こちらも思い通りの作戦を実行できる。


「ぐっ!?」


ぎりぎりまで姿勢を落とし、腕を回避して、その体勢のままホークウインドを振りぬく。


「そこだ!」


「あ? があああああああ」


斬るのは最前列にいるゾンビたちの足。 


脚首を切りとられたゾンビはその場に倒れふし、それにけつまずいたゾンビたちが次々に転んでいく。


「……っよし」


足元が既におぼついていないゾンビたちだ。 一つが崩れれば一斉に倒れ付す……。


倒れていれば、ゾンビの数多の腕も気になることはない。


倒れて立ち上がろうとするゾンビたちへと刃を振り下ろし、僕は任されたゾンビの殲滅を完了した。


                    ◇

「はあっ!!」


刃を振るい、ゾンビの首をはねる。


「あああああああああああぁ」


時間の無駄になると判断をし、私はターンアンデットを打つことはやめた。


僧侶と神父のみで構成されたこの寺院がアンデットに占拠されているということはすなわち、ターンアンデットがこのゾンビたちには効かないということ……なので、少々手間だが剣のみでゾンビを駆逐するほかはない。


にわかには信じ難いが、私は首を刎ねられても尚私に向かう首なし遺体の存在をその目で確認し、現実を受け入れざるを得なくなる。


ゾンビには二種類が存在する。


一つは、人間の死体の壊死した脳を回復魔法で再生をし、その脳を魔術師が魔法で意図的に操る存在と、もう一つは死体に霊魂が憑依をすることにより生きていた頃の第一欲求~食欲~をただひたすらに実行し続ける存在……その二つの種類がある。


原理としてはどちらも脳に魔法か憑依により作用し死体を動かすというものであるが、どちらも中枢である脳、頭部を破壊すれば機能が停止する。


中には幻影やゾンビに擬態をして獲物を狩るモンスターも存在するのだが、


前者の場合、ゾンビは統率の取れた行動をし、さらには魔術の痕跡が見受けられるのだが、今回のゾンビは統率が取れているとは思えず、発生も教会の人間が死体を放置したのが原因だという分かりやすいストーリーも出来上がっている。


十中八九、唯のゾンビであり、首を刎ねればそれで終了のはずだ……。


だが、まだ動き続ける。


「おかしいな……」


私は一つの疑問を口にして、ゾンビの伸ばす腕を切り落とし、続けざまに三体のゾンビの胴体を両断する。

 

通常のゾンビならば、頭さえ残っていれば上半身のみで活動を続けるが。


「今度は動かない」


頭に外傷を与えたわけでもなく、ただ単に胴体と両腕を切ったのみのゾンビの体は身動き一つとらなかった。


私が石の中にいた間、ゾンビの新種が出たのならばまだ話は分かるが、それであればクレイドル教会が全滅するというのはおかしい。


「ゾンビではないのか? だが……擬態生物であればそもそも頭を刎ねれば動かなくなるはずだ。 首の部分が急所ではない……という可能性もあるが、しかしそれでも……」


奇怪なゾンビの倒し方を工夫しながら、私は新種?のゾンビの分析を行う。


ここの僧侶は守銭奴ではあるが、レベルや僧侶としての技量は一線級であると認められる。


仮に新種のゾンビが出たのであれば既に教会本部の手によって対抗策は取られているだろうし、この程度の敵に遅れを取ることはないだろう。


であれば、このゾンビは今日この日初めて現れた新種のゾンビだという可能性が高くなる。


埋葬を行っていなかっただけで、これだけ一斉に新種のゾンビが現れることはまずありえない……。


となるとこれは……。


「ああああああああああああ」


「検証しようにも数が少なすぎますね」


ある程度の分析は出来たが、戦う数も時間も無いため、とりあえず事実だけを頭の中に押しとどめて最後の一体を両断し、私はマスターへと向き直る。


丁度マスターのほうもゾンビは片付いていたようで、私は報告よりも先にマスターの安否を確認する。


ゾンビは腐乱死体であるため、嚙まれると毒かマヒ状態になることが多い。


それも即効性のものではなく、後日じわじわと侵蝕されるものだ。


早期の対策が明暗を分けるというのに、かすり傷程度では死亡する状態になるまで原因が分からないとなることもしばしばだ。

 

「マスター……お怪我は……」


「あぁサリア、なんとかね。 かすり傷一つ無いよ」


そういってマスターは両腕を上げて元気であることを証明してくれる。


「そうですか。 ご無事で何よりです」


「サリアもね」


見たところ嚙まれた様子もないため、私は胸をなでおろし、茂みに隠れていたシオンとティズに合図を送る。


「すっごいねーウイルにサリア!? ばったばったとゾンビを倒して……ってわわぁ!?」


安全になったところで、シオンとティズは陽気な声を上げながらひょこひょこと茂みから這い出し、シオンはものの見事にずっこける。


「なんで何も無い所で転ぶのよあんた」


「ち、違うの!? なんか糸みたいなのが足に絡まって!? それで転んだの!?」


「糸どころか木のつるさえも無いわよ……まったく」


「ほ、本当だってばぁ!」


呆れ顔のティズと赤面をしたシオンが到着し、無事に裏庭の制圧が完了する。


「扉の裏に生存者がいてくれれば、それで依頼は達成なのですが」


「聞いてみるよ」


後はゾンビが現れる前に、生存者をここから脱出させて、ゆっくりと朝を待てばゾンビは太陽の光で消滅してしまう。


「すみませんー! 冒険者ギルドから依頼を受けてきました、冒険者のウイルです!

開けてください! 脱出しましょう!」


マスターはゾンビたちが集い突破を試みていた扉を叩き、開けるように促す。


だが、返事はない。


ゾンビの大群が襲ってくる小説の主人公達のように、扉の向こうで僧侶達が必死になって扉を押さえ込んでいる姿を期待していたのだが、どうやら別の場所に隠れているようだ。


「どうしよう、開けてくれないよ」


「そう、困ったね。 じゃあ」


「シオン……やめなさい」


困ったようにマスターは腕を組み、シオンは魔法によりドアを爆破しようと構えを取っていたので冷静にやめさせる。



「恐らく扉の向こうには誰もいないのでしょう。 僧侶と神父たちはもっと安全な場所に避難しているのかも知れません」


「じゃあどうするのよ? ぶち破ったらそこからゾンビたちが入ってきちゃうでしょ!?」


ティズは少し不満げな表情をしてそう聞いてくるが、既に突入の手筈は整っている。


「大丈夫です。 突入の方法は考えていますので」


「どうするの? サリア」


そうマスターに問われ、私は静かに指で上を指差した。


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