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302.へ~んしん!

響き渡る雷轟は、獣の咆哮のごとく鳴り響き、四方三里にその音を鳴り響かせ、同時に一瞬にしてあたり一帯を白く染め上げる。


放たれた三つの雷は。 一つはジャンヌの魔法障壁を打ち破り、一つは彼女の体を焼き、一つは骨を焦がしつくした。


その身体は紛れもない死を迎え、シオンはその焦げ付いた遺体に顔を歪めながらも。


杖を構えて再生を待つ。


そう、ジャンヌはこの程度で機能停止などしない。


第十階位魔法。 単体ではあるが、威力だけであればメルトウエイブにも引けを取らないその魔法を三度その身に受けながらも、ジャンヌは動きを止めることなく、裏切者へと殺意を向ける。


「……私は、もう泣いたりなんてしない……彼が、ご主人様が私を導いてくれた!!

裏切者には制裁を……今までさんざん助けてきた! 死にかけた人間を助けて……腕がなくなった人間の体を再生した! 司祭じゃどうしようもないことを私はやってのけた! 子供も、老人も……みんなみんな祝福して助けてあげた……そのお返しがこれよ! 恨むでしょう!? 憎まなきゃ嘘よ! 恩知らずで恥知らずなこの街の人間は……一回、滅ばなきゃ何も学ばないのよ!」


体を再生させながら、ジャンヌはそう叫ぶ。


その悲哀は、シオンの体を焦がしつくすような痛みを与えるが。


「……うん、私もそう思う……でもね、ジャンヌ、自分に嘘をついたらつらくなるだけだよ」


シオンはそれでも、ジャンヌの言葉を否定した。


シオンの親友であるジャンヌは、決してそんなことを思う人間ではないと……。


そう、優しく説き伏せたのだ。


「嘘なんて……ついてない! 私はにくかった、こんな世界に無理やり連れてきた人間たちに、復讐をしようと思っていたのよ!」


放たれる水の魔法。


「三重魔法障壁!!」


正真正銘全力をもって注がれたその一撃は、シオンを確実にとらえ、シオンはすぐに炎熱魔法により防御陣を敷くが。


「調子に乗らないで頂戴!」


その障壁は、その魔法により放たれた水の槍によりたやすく破られ、シオンを襲う。


「いっツっ……!?」


シオンはすぐさま回避行動をとるが、間に合わずその肩を削りえぐられる。


だくだくと流れる傷は再生をすることはなく、シオンはふらつきながらも苦悶の表情を浮かべて肩を押さえる。


「なんでこんな威力がって顔をしているわねシオン! 貴方はいつもそう……自分のことばかりで、他人のことを推量しない……戦い続けてきた私が、ジャンヌなんかに負けるわけがない……そう考えていたんでしょう! 甘く見ないで……地獄なら、私だって見続けてきたのよ!」


放たれる呪いの言葉は、シオンの浅はかさに怒りをぶつけるように……。


そしてその言葉を、シオンはさらに表情を険しくして聞き届ける。


「泥水をすすって……大人たちになぶられて……貴方は知ってる? 凍えて、洞窟の中で動けないで眠ってると……ネズミがくるの……餌と間違えて齧りに来るのよ!! だけど、それを追い払う力も残ってなくて……自分がむさぼられる様をただ見つめることしかできない……そんな経験をあなたはしたことあるのかしら!? 偉大な魔法使いに拾われて! 百年以上幸せに暮らしてきたあなたが! 自分だけ、助かったあなたが! この私の恨みを超えることなんてできやしない! いいえ! 越えさせなんてしないんだから!」


もはや、彼女は誰に怒りをぶつけていいかなどとうに忘れてしまっているのだろう。


かつての友人。


救い続けてきたはずの町の人間。


信じてきたもの、守りたいと思っていたものすべてに裏切られ。


彼女は壊れてしまっていた。


もはや、大切だったものでさえも……彼女の心を復讐の豪華に滾らせる……。


それほどまでに彼女は……壊れてしまっていた。


だからこそ、シオンはその言葉を受け止め……瞳を閉じる。


かつてのシオンならば、そこで逃げ出していただろう。


向き合うことなどできなかった……彼女の怒りを、恨みを、憎しみを……否定することなどできるはずもない。


何故なら、彼女も全てを憎んでいたから。


生きている……それだけで自らを罪人と扱う……そんな世界を許せるはずなどないではないか……。


だからこそ、少し前のシオンであれば、その言葉に共感し……これ以上彼女に力を行使することなどできなかっただろう。


親友の言葉でさえも……うわべだけでしか理解できなかった以前の彼女ならば。


だが。


「嘘がつけないのは相変わらずだね……ジャンヌ」


今の彼女は違う……彼女の言葉を正面から受け止め……その奥の涙を見つめることができる。


そのやり方は……大切な人に教えてもらったから。


【ディレイ!】


「!?」


そうつぶやくと同時に、シオンの仕掛けていた罠が発動する。


【十把一絡げ!!】


「なっ!?」


ジャンヌに巻き付くのは無数にも編まれた魔力の糸。


通常の魔術師であれば、鉄線程度の強度しかないそれであるが。


アンドリューさえも凌駕するその魔力により紡がれた糸は……オリハルコンにも匹敵する強度を有し、龍種でさえもつなぎとめる。


しかも一つではない……その数は三つ……。


ひとつでさえも竜をつなぎとめるその魔法の糸を、シオンは三重にジャンヌへと駆けて動きを止めたのだ。


「……ディレイスペル!? しまった……アンタの得意魔法……」


もはやいつの間に、などという必要はないだろう。


メルトウエイブを放った時、目くらましを行った時……そして、雷を三度も放った時。


シオンが戦闘の際に、派手な魔法を好む理由はここにある。


大きな音、派手な演出で、最後の詰めの魔法に気づかせることなく、罠にはめる。


轟音と視界の封鎖、大技による大気中の魔力の大きな乱れ……そこに彼女の敏捷が加われば……足元や自らのすぐ近くに設置された、小さな罠の痕跡など気づくはずがない。


たとえそれが、親友であったとしても……彼女の罠から逃れられるものなど存在しないのだ。


「くっ!? だけど、いくら三重に巻き付けたところで……もうレヴィアタンの召喚は止められないわ!! 私が死んでも、レヴィアタンは町を襲う! 水の中にすべてが沈み、くだらない聖人気取りの奴らはみんなみんな死に絶える! かといって! 貴方ではレヴィアタンは殺せない! 私程度も殺せないあんたではね!」


縛られながらも、勝利を確信しそう笑うジャンヌ。


しかし。


「うん……それでいいの」


シオンはジャンヌの言葉にそう返す。


その瞳は、諦めでも達観でもない。


まるで、最初からレヴィアタンのことなどどうでもいいと言った表情なのだ。


「……なっ? どうでもいいって」


「そのままの意味だよジャンヌ……私は町の人なんてどうでもいい」


「あんた……はっ……ははは! とうとうあんたも、仲間の命を捨てるのね!? そうよ、そうなのよ、どうせ裏切るなら、騙されて捨てられる前に自分から……」


「ううん、逆」


「え?」


シオンの言葉は優しく、同時に一つ目の拘束を破った少女を前にて、足元に魔法陣を浮かび上がらせる。


その姿は、まさに炎熱魔法の化身であり……その時、真祖となり人を超越した存在になったジャンヌでさえも、息を飲む。


「レヴィアタンはウイル君たちが何とかしてくれる……。だから私は気にする必要なんてないの! ウイル君はとっても素敵で……誰よりも強いから……だから私は、貴方だけを見てあげる!」


辺りを埋め尽くす熱量。


魔法を使わず、呪文も唱えず……シオンはただそこにあるだけでその周りに降りしきる雨全てを蒸発させ……赤々と熱を持ち光り輝くトネリコの杖をシオンは魔法陣の上に差すように設置し。


祈るようにそっと瞳を閉じ……。


全てをさらけ出す……もはや、隠す意味などないのだから。


【我が血は炎、我が身は灰……。 我と共に歩むは魔獄の主……日輪をも焦がす黒き焦熱よ、我が望みに応え再度天を焼き尽くす反逆を示せ……。 汝、我が灰の一つ、反逆の焔をたけらせ、今軍となり天への復讐を成し遂げん……。 赤く、紅く、朱く。 先を行く者よ我が拘束の解除をここに赦さん】


『全666魔術拘束解放申請受理』


不意に、シオンの頭上……いや、どこからともなく声が響き渡る。


その声は重く深く……まるでシオンに問いかけるかのように響き、その声にジャンヌは表情を青ざめさせる。


「神王……ルシファー」


レヴィアタンと同じく、魔族の人間が契約する七つの神の内が一人……七つの神全てを統べる存在であり……炎熱と憤怒をつかさどる……力の象徴。


その力が今、目前に顕現しようとしている。


『技能拘束、魔力制限、魔力心臓拘束、炎武制限、身体拘束、使用可能魔法制限……その他全項目の拘束、制限の解除……シオン・L・ルシフェリアの承認を受諾後、実行』


「承認……」


その言葉と同時に、灰のように白かったシオンの髪が……再度炎を宿らせたかの如く、赤く染まる。


『承認確認。術式名~大魔導炎武~……拘束解除』


「いっくよー!! へ――ンシン!!」

 

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