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298.ツナミオブザデッド

「助けて!? 助けてくれえええええぇ!」


「ひあああああああああ!? ひあっ!? 腕が! 腕があああ!」


それから先は、ただの蹂躙であった。


ただの村人が、アンデッドにかなうはずもなく、アンデッドの大軍に叶わなかった聖騎士団が……真祖の吸血鬼に勝つことなどできはしない。


結末は火を見るよりも明らかで、昔話の絵本のようにあっさりと、この古き伝統を持つ街は終わりを迎える。


子供も、女性も、男も、老人も若者も、賢者も愚者も僧侶も鍛冶師も乞食も貴族も聖職者も領主も騎士団も……皆が皆平等に、死を迎え。


皆が皆平等に足並みをそろえて死者の行軍をし、生者を駆り立てる。


皮肉なのは、その死者は全て人間だけで構築されており……。


奴隷と言われた人々はその死者の合間をすり抜けるように、自由を手に入れていく。


初めて人間が作られたこの街は……結局、神様が愛した人間が迎えるのと同じように、死によって終焉を迎えるのだ。


その凄惨さを、語るにはあまりにも言葉というものは表現方法が乏しく。


その光景を伝えるには筆者の能力では力及ばない……。


だが、一つだけ皆に伝えられることがあるとするならば、この街の人々は皆、一様に、一人の例外もなく……神に見放された絶望を与えられたまま……苦しんで死んでいった。


街はもはやアンデッドにより埋め尽くされ。


一人の例外もなく……街は吸血鬼に支配された。


家に鍵をかけようが、父親は鍵を持っているし、使い方も知っている。


どの建物に立てこもり、守護の魔法をかけようが……その解除方法を知っているものが吸血鬼の中に必ずいる……。


ゾンビとは違う……知性ある死者程手に付けられないものはない……。


だからこそ、この街が地図の上から消えるのに……二時間もかからない。


何故なら、父親や家族を、家に帰りベッドに入る感覚で皆が皆殺していったから。


だがしかし……その結末を悲しむもの、憐れむものなどいないだろう。


何故なら、神が作り神に最も愛されたはずのその街の結末がそれならば……。


きっとその結末は……神が望んだことなのだから……。


                  ◇


「どどど!? どうなっている! どうなっているどうなっている!!」


「ピエール様、落ち着いてください!」


「これが落ち着いていられるか!? この聖王都が……神に選ばれた我々の町が……崩壊しているんだぞ!」


「その心中はお察ししますが……現在黒騎士隊は不在に加え、聖騎士団は一兵残らずアンデッドに……今はこの場所から脱出をする方法がほとんどございません! もはやペガサス……セイント聖馬による空中からの脱出他、このアンデッドたちから逃れる術はないのです! ですが、この場所にもアンデッドたちが迫っています! 事態は一刻の猶予もありません」


「あああああああああああああああああぁ!! なぜだ! なぜ私たちがこのような目に合わねばならん! 頂点に君臨する我々が! なぜ劣等種などから逃走をしなければならないのだ!」


「しかし……」


「うるっさいぞお前たち! マキナ自分よりうるさいやつは嫌いだ!」


そうわめき散らすピエールに対し、褐色短パン姿の少女はひとつ飛び上がり、その頭から快音を響かせる。


「き、貴様!? ドワーフの分際で! この私の頭を!」


「誰がドワーフか、マキナはマキナだ」


「何子供相手にむきになってんのよ情けない……だいったい、こんな状況になったのもあんた達の自業自得じゃないあほらしい……」


マキナに続き、その陰から現れた妖精は、偉そうにふんぞり返ったのちにやれやれとため息を漏らす。


アンデッド騒ぎにつき、この場所に慌てて逃げ込んできたこの二人であるが、この場所にいる人間の誰もが、どうしてこの子たちはこんなにも偉そうなのかの理由を知ることは出来なかった。


それに加え。


「ちょっと!? 話が違いますよリリムさん!? ウイルさんは!? サリアさんはどこですか! あの化物四重奏バケモノカルテットはどこに行ってしまわれたんですか!?

これじゃあ神父の身の安全が守られませんよ!」


「いやぁ、確かに私もティズさんたちの所に行きましょうとは言いましたが、ウイル君たちがいるとは一言も言ってないですよ?」


「……謀りましたねええぇ!? どうするんですか! こんなところで死んでしまったら私のお金は一体どこに行ってしまうんですか!」


「安心しなさい神父、この前カルラに頼んで遺品は全てウイルに帰属するようにしてあるから」


「あんたらさらっと何してくれとんですかぁ!?」


「なによ、文句あるの?」


「あるにきまってるでしょうが!」


「あのー、ティズさん……自分たちだけ助かるみたいなものいいですけど……このままだと私たちも死んじゃうよ?」


余裕たっぷりの表情のティズに対し、リリムは苦笑を漏らしながら忠告をするも。


「大丈夫よ、いざとなったら飛んで逃げるし」


などとティズは楽観的な思考でわらう。


「おぉ、確かに空を飛べればみんな無事だな! マキナも空飛べるぞ! おっきな船で空飛んで帰ろう!」


「ウイル君たちが現在行方不明なんですけれどもそれは大丈夫なのかな?」


「大丈夫よ……たかだかアンデッドの大軍程度であの化物四人が死ぬわけないっての……。それに死んでアンデッドになってようものなら、シンプソンを拷問してでもアンデッドを人間に戻す方法を発見させるわ」


「お願いしますウイルさん絶対にアンデッドになってないでください」


「むしろ、シンプソンさんを吸血鬼に噛ませてしまえば、なんか自力で何とかするんじゃないですか?」


「リリムさん何さらっと恐ろしいこと言ってるんですか!?」


「それいいアイデアね」


「ちょっと!? やりませんよね!? やりませんよねえ! ねえ!」


「失敗してもウイル君に遺産が行くだけですし……おぉ、ノーリスクハイリターン!」


「リスク! ここにリスクあります!? シンプソンという尊い命というリスクがここに! 今! 存在しています!!」


「大丈夫……人類にとっては小さな損失だ」


「さらっとひどいこと言いますねこの幼女!?」


「とまぁ、シンプソンのアホをからかうのはこれくらいにしておいてと……」


「からかうって……ふざけている場合か!? これだから妖精は軽薄で……」


「はいそこ、今ここで部族とか種族とかで喚いてる場合じゃないでしょうに、今は私もあんたも、吸血鬼におびえるしかできない子羊なの、分かる?」


「ぐ……ぐぅ」


「助けは来るとは思うけど、すぐには無理よ、アンタは一人で逃げる腹積もりでしょうけど、そんなことしようものならアンデッドの群れに放り投げるから……この狼娘が」


「え? 私!?」


「人狼族……うっ……」


人狼族の力はどれほどのものかを、戦争を経験している者なら知らないはずもなく、ピエール達は一瞬何かを言おうとするがすぐにその口を閉じる。


「分かればよろしい……。それで、現在の状況はどうなってるの? この城は見せかけだけじゃないのは分かってるわ……そして、ここに逃げ込めば少しでも長く生き延びられるって判断ができる人間も多いってのも理解してる……。 だいたいこの場所にどれぐらいの生き残りがいるのかしら? 状況を教えなさい」


「それは……」


「現在下層フロアですが……アンデッドの襲撃を逃れてやってきたものは二百名ほど……身分職業問わず、すし詰め状態で所狭しとこの城の中で震えております」


「朝までに破られる可能性は?」


「ほぼゼロでございましょう……城の作り堅牢なれば……この城は何があったとしてもアンデッドにだけは侵されぬように作られています……つくりは聖晶石、触れただけでもアンデッドは身を溶かします……いかに真祖と言えど、クレイドルの加護には勝てますまい」


「なるほど……そこはある程度は信頼してもよさそう。 これだけの城なら、緊急脱出用の地下通路とかあってもおかしくないはずだけど、そういったもんは作ってないわけ?」


「あいにく……地下をはい回る愚かな人間はドワーフ族だけなので」


「その偏った考え方が、巡り巡って自分たちの首を絞めてるってわけね、笑ってあげるわ」


苦笑を漏らし、ティズは何かを考えるそぶりをみせたのち。


「なら、増援を待つしかないわね。 しばらくは破られないのであれば、この街の異変に気付いてどっかから討伐隊が派遣されてもおかしくないはず……幸い、食糧問題はシンプソンがいれば問題ないものね」


「え? なんで私が出てくるのですか?」


「石ころをパンに変えることくらいできるなら、ここらにあるもの片っ端から食料に変えられるでしょう?」


「まぁできますけど、……何で知ってるんですか?」


「そりゃアンタ…………あれ? なんで知ってるのかしらね?」


ティズはきょとんとした顔でシンプソンに聞き返すが、その答えを知るものは一人としていない。


「確かに、クレイドル教聖書にはそんなシーンがあるが……」


「ティズさん、聖書詳しいの?」


「枕にするとちょうどいいってのは知ってるわ? アルフの馬鹿が前に言ってた」


「ですよねー、詳しかったら神父ちょっと引いてました」


「どういう意味よ!」


当然のことながら、ティズが聖書を読むなどという事、天地がひっくり返ってもあり得ない。

「まぁこの際そんなことどうでもいいのよ! 籠城するって決まったなら、最悪二百人の人間は助けられるってことよ!! ついでに言っちゃえば、この街から脱出して逃げおおせた奴だって少なからずいるはず! うんうん、街は壊滅だけど救えた人間は少なからずいるはずよ……アンデッドになった人間たちは残念だけど、まだ滅んだわけじゃないんだから元気出しなさいな」


ティズはそう励ますようにピエールとジョフロアに語ると、ひらひらと伸びをしながら雨が降る外を見やる。


眼下に広がるのは、街を更新する吸血鬼の群れ。


もはや街に生者は残っていないらしく、ぞろぞろとあちらこちらを獲物を求めて動き回るが、どうにもこの建物が危険であることは分かっているらしく、この建物だけには近づこうとしていない。


周りを取り囲まれてひしめき合っていたならば万が一というのもありえただろうが、あの様子ではどうやらそういった最悪の事態も問題は無さそうだ……。


そうティズは思案すると、安堵のため息を漏らす。


が。


「屋上の見張り台から伝令! 報告します!」


外にて見張りをしていた兵士から、一報がはいる。


「こ、今度はなんだ!? アンデッドか!?」


ピエールの言葉に伝令は首を横に振り。


「……この、聖都クークラックスに! 巨大な津波が押し寄せています! その高さ……恐らく50メートル強! 恐れながら申し上げます……後数分後に……この街は津波に飲まれ! 水没します!」


そんな絶望的な報告をするのであった。



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