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296.総力戦、 落ちた聖女は復讐に猛る。

「そんな……ジャンヌ!」


その場にいた誰もが、その少女の変貌に驚愕をする。


彼女とのかかわりが短かった僕でさえも、その変貌には驚かされるのだ……親友であるシオンの驚愕と絶望は計り知れず、絞り出されるようなシオンの悲痛な叫びと同時にサリアは真祖の吸血鬼へと走る。


「サリア!? 何を!」


「もはやこうなってしまっては、せめて誰かを手にかける前に」


吸血鬼の呪いにより変貌し、アンデッドとなったジャンヌの清らかなる魂が汚される前に、サリアは自ら汚れ役を買って出る。


しかし。


「ダメええぇ!」


そんなサリアの攻撃を阻んだのは、シオンの爆炎であった。


「ぐっ!」


放たれた大火球は、サリアへと飛び、魔法への耐性の低いサリアは飛んで回避をする。


「シオン!! 冷静になってください! もはや吸血鬼となってしまったら、貴方の知るジャンヌは……」


「分かってるよ! そんなこと分かってる! でも、でもそれでも私」


「そうよ、私はもう私じゃないのシオン! だから……あなたも消えなさい!」


「え?」


かばったはずのシオンに対し、ジャンヌは大量の水を生み出したのち。


「水流・飛燕!!」


「ジャンヌ……うそ……」


その水を針のように形状変化をさせて、シオンへと飛ばす。


その速力はまるでマキナが放った銃の弾丸が如き速力であり、その風切り音により触れればシオンの体は貫かれ絶命すると、僕の直感が告げる。


「いけません! シオンちゃん!」


その状況に、放心状態になるシオンに対し、カルラはかばうようにシオンの前に躍り出てシオンの代わりに両腕を差し出し盾となる。


「ッ―――――!?」


鈍い音が響き渡り、そのことごとくがカルラへと突き刺さり、カルラは乾いた悲鳴にも似た声を漏らす。


「か、カルラン!?」


「カルラ!!」


ぼたぼたとカルラの体中から血が噴き出し、カルラはその場に一度膝をつくが。


「まだまだです!」


その状態から跳躍をし、その手刀をもってジャンヌへと一足で間合いを詰める。


「!?」


完全に虚を着いた一撃。


その手刀は寸分たがわずジャンヌの首を狙っており、赤い血を巻き上げながらカルラは最速最短距離をもってジャンヌの首を刎ねようとする。


が。


「我を忘れてはいまいか!」


その不意打ちを見切った吸血鬼は、ジャンヌの間へと割って入り、カルラの手刀に合わせて自らの拳をぶつける。


「!!」


響き渡る衝撃波により、一瞬空間がゆがんだような錯覚が生じ、同時に迷宮に敷かれたレンガが一斉にひび割れ、大きく揺れる。


「ぐっぅう!?」


打ち勝ったのはカルラの方であり、めきめきと音を立てて破壊された右腕に、吸血鬼は苦悶の表情を浮かべるも。


続く左腕の一撃により、カルラの腹部を突き刺そうとするが。


「はあああぁ!」


カルラは体を一回転させ、回し蹴りにてその左腕をも切り捨てる。


「ぬぅっ!? ただの蹴りが名刀の一振りに値するか……忍! だが!」


切り取られた腕は一瞬にして血霧と化し、再生した左腕が攻撃を再開する。


「!?」


「不屈こそ力、ちぎれ、崩れ、砕け散ろうとも血みどろおぞましく戦い続ける! 死してなおも敵を狩る我が姿こそ……吸血鬼の戦いだ!」


怒号と共に、まだ生えたばかりで肉も満足についていない腕がカルラを捉え殴りつける。


「きゃっ!」


威力こそ低かったものの、拳の一撃はカルラを弾き飛ばし、迷宮の壁に埋もれさせる。


「カルラ!!」


「いけません!」


「貴方達の相手は! 私でしょう!」


助けに向かおうとする僕とサリアに対し、ジャンヌは水操楽にて作り上げた竜の形をした濁流をもって僕たちに襲い掛かる……たかが水とはいえ、飲みこまれればひとたまりもない。


「ぐっ!? アイスエイジ!」


故に、僕は氷の古代魔法により、水流を凍らせ行動を止め。


「サリア! シオン!」


「はい!」


合図とともにサリアは一閃と共に水竜を粉砕し。


【! メルトウエイブ!】


シオンは炎熱魔法にて、水に戻るよりも先にその水流をすべて蒸発させる。


「ちっ! だったらこれならどう!」


しかし、そこで魔力が切れるほどジャンヌは楽に勝負を決めさせてくれるわけもなく、再度水で作り上げた針が僕たちへと飛ぶ。


「メイク!」


作り上げた防護壁を三か所、サリアとシオンの前に作り上げ、その攻撃をしのぐ。


「マスター! 私が足止めを! マスターはカルラを!」


「分かった……」


サリアの言葉に、僕は攻撃の切れ間と同時にカルラの飛ばされた方向へと走る。


あれだけの衝突、戦闘職である忍びである分、死亡している可能性は低いが、それでも大けがを……。


そう思い、カルラの元へ駆け寄る僕であったが。


「くっ……本気で行きます!」


上手く防いだのか、壁から抜け出しながらカルラはそう語り十数秒で戦線へと復帰する……破れかけたその服を破り捨て、サラシの状態のままヴラドへと再度疾駆する。


全ての装備を脱ぎ捨てた忍……彼女の持てる最高速度の一撃がブラドへと襲い掛かる。


「まだ、その速度が上がるか!」


鮮烈過激。


もはや目で追えぬほどの速力をもってカルラはヴラドの懐へともぐりこみ、練気された拳にて幾度もヴラドの体を断つ。


その一撃一撃がすべて二の打ちいらずの必殺の拳であり。


拳打はもはや目で追えぬが、ブラドの体から噴水のように溢れ出す鮮血が、カルラの鬼人の如き応酬を物語る。


だが。


「捕まえたぞ!」


いかに体を打ち抜かれようが、いかに腕を切り落とされようが、再生され不死であるヴラドは意に介すことなく平然と血濡れた体でカルラの腕を掴み、ぐちゃぐちゃとなった表情でにやりと笑う。


「そんな……」


「武力、力では貴様が幾重も上だろう! だが、そのような者全くの無意味……肉片と鮮血をまき散らしながら惨たらしく無限に殺し合う! そも、命が一つしかない貴様らに勝利する道理なし!」

その口が大きく開かれ、腕を取られたカルラの首筋に、吸血鬼の牙が迫る。


「さっせっるっかあああああああ!」


余裕に語ったおかげで、狙いを定める時間を手に入れた僕は、その首筋に牙が突き立てるよりも先に、ヴラドの鼻っ柱にメイクを叩き込む。


「ごおおおぉ!?」


吹き飛ばされたことによりカルラはヴラドの腕から逃れ、一度僕の方へと戻る。


「助かりました、ウイル君」


「外傷は?」


「見た目ほど大きいものではありません……耐え忍ぶ、それが私の極意ですので」


カルラの体に触れ、僕は彼女の容態を確認するが、確かにあれだけの攻撃をその身に受けながらも、カルラの体には未だにかすり傷程度の物しか見受けられない。


僕は戦闘続行は可能と判断し、カルラの頭を一度撫でて剣を再度構える。


「気を付けて……彼の再生力はブリューゲルを超える……僕なんかよりもはるかに完成に近い不死なんだ」


「分かっています……再生も間に合わない速度で殺しきろうとも思いましたが……」


「再生というよりも、もとに戻ろうとする力が働いているといったところだね……」


「当然よ! 我が形、我が形状、我が意思、我が力……そのすべてが我が血液は記憶している! いかにまき散らされようが、いかに切り刻まれようが、我が体に流れるこの血潮すべてが我を記憶する限り! 我が命かりとること叶わんとしれ! たかが不死と一緒にするではないわ! ふはーははははは!」


僕たちの考察に対し、ヴラドは満足げに微笑むと高らかにそう笑いだす。


力も技量も、劣っているわけではない。


ただ、生物としての圧倒的な格差が僕たちを襲っている。


そんな感覚と圧倒的な存在感に、僕は一瞬……気圧される……。


と。


「くっ!」


「きゃあっ!」


「シオン! サリア!?」


ジャンヌとの攻防を繰り広げていた二人の悲鳴に似た声が短く響き、視線を送ると、そこにはシオンへと襲い掛かる水により作られた鎌を二刀の刃で防ぐサリアの姿があった。


「あらあらあらあら!? 水を刀で防ぐというの!? 一体どれだけの研鑽を積めばそれだけの技術を手に入れられるのでしょうね!? でも、それだけの技術をもってしても、人の心は変えられないのね! あぁそれならば、人の心とはなんとも不動できっと一生変わることのない程不変で愚かしいものなのでしょう!」


正気を失っているのか、発言に脈絡のないジャンヌ……シオンはそんな彼女に魔法を放つことができないのか、ひたすらに攻撃を仕掛けるジャンヌの魔法を、耐性の低いサリアが必死になってかばっている。


「ジャンヌ! やめて! お願い目を覚まして!」


悲痛な叫びがサリアの背後から響き、優しく慈愛に満ちていた聖女の変貌を信じることができずにシオンは懇願をするが……。


「眼ならとうに覚めました!! 助けてくれたのは……貴方ではなくて、あの方なのですから! 仮に、貴方が正しいというのなら……どうして私を助けてくれなかったの!!」


「!!!」


その言葉に、シオンの瞳から光が消える。


「シオン!! 耳を貸してはいけません……この言葉は! 彼女の本心ではありません!」


「いいえ! ジャンヌはずっとずっと復讐に燃えてたわ! ここに召喚されたあの日から! 私達は理不尽を突きつけられ十字架のように背負わされて生きてきた! 復讐しなくて何をするの!? 魔王につぶされ、一度浄化されて二百年!! 奴らは何も変わっていない! なら! 今こそ復讐の時よ! 私達が魔王になるの! あの時私たちを助けてくれた魔王になって! 正義の為なんかじゃない、二百年の歳月と同胞の無念をすべての怒りと憎悪を込めて……この街を絶望に沈めるの!」


「そんなの! ジャンヌが望んだ正しさじゃない!」


「いいえ!それが正しい、私がずっとやりたかったことは、平等と平和を訴えることなんかじゃない! ふざけた幻想に目隠しされた奴らを……目覚めさせてやりたかっただけなのよ! あなたならわかるでしょう! ヴェリウス高原を焼き尽くし、汚泥で埋め尽くしたあなたなら!」


「!! ちがっ」


「そこまでだ! 私の仲間を惑わすな! 吸血鬼!!」


語りに熱がこもったのか、隙を得たサリアは二刀による渾身の一撃を振るい、その手に持った水野鎌ごとジャンヌの胴体を両断する。


「かっはっ!?」


鋭い一撃はまるで神龍の爪の如き斬撃であり、なすすべもなく切り裂かれたジャンヌはその場に崩れ落ちる。


「ジャンヌ!?」


「がっはー……はー!? ぐっ、この程度」


傷の治りが遅いのか、ジャンヌは死にはしないが苦悶の表情を浮かべ、体から血を流す。


当然かもしれないが、どうやらオリジナルよりも少し能力は落ちるらしい。


だが。


「……ふむ、なるほど……まぁなり立てであれだけ動けば上々よな」


そんなジャンヌの姿を見て、ヴラドは一度納得したようにうなずき。


「ではそろそろ幕引きと行こう……。 まだ夜は長いとはいえ……惨劇を上映するには……時間は押している……」


そう静かに語ると……両手を広げ天井を仰ぐ。


「!」


【我が血よ、我が道を阻む愚者を、その力をもって防ぎ、取り込まん!】


詠唱……。


おおよそ魔力の動きも流れも感じ取れないその詠唱を吸血鬼が語ると。


同時に足元にまき散らされ、床一面に広がったヴラドの血液が、一瞬だけ波打ち波紋を広げる。


「!? まずい!」


「ウイル君! にげっ!?」


何かを察知したカルラが、僕を逃がそうと腕をとるが……。


時すでに遅し……僕はヴラドが張ったその罠に……なすすべもなく取り込まれる。


【アイアン・メイデン!】


その言葉と同時に、ヴラド自身からまき散らされた血液が一斉に飛び上がり僕たちを襲い……。


まるで蛇かの如く僕たちへとまとわりつき……。


「ぐっ!? これは……」


僕たちの自由を封じ、そして閉じ込める。


強力な魔法か、はたまた神にのみに許されたギフトか……その御業から誰も逃れることは出来ず。



「ジャンヌ!! お願い……戻って……」


悲痛なシオンの言葉を最後に……僕たちは全員、血の牢獄に閉じ込められるのだった。


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